意識低い系転職ジャケ絵

vol.2 意識低い系転職のススメ~これが資本家成りに続く偉大なる道の第一歩目となる~

ヤコバシくん サウザーの白熱教室
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※試聴版。オリジナル版(01:00:18)は購入後に視聴可能。

第二話(全五話)

連日ツラい勤め人仕事をしていると、自分の内側に「辞めたい」という気持ちが膨れ上がってくる。それは当然のことだ。いつしか転職を検討し、情報収集を始める。これも自然な魂の作用と言えよう。

転職サイトを見たり、友人知人に話を聞いたり、ネットで体験談を読んだりする。そこで見つかるのは「どこへ行ってもきつい」という厳しい情報ばかりだ。特に「営業マン」は、どこの会社に入っても「数字・目標」と詰められるのは変わりがないようだ。それならば、今いる会社を続けた方がマシかなと、心に灯った火はしぼんでいく。「あきらめ」を帯びた諦観に総身が覆われていく。それは静かな沼のように、ゆっくりと、しかし確実に営業マンを飲み込んでいく。

そのように「あきらめ」て、首まで沼に浸かる人がいた。これに抗って転職するも、結局は沼から沼へ移動だけした人もいた。彼らは転職による救いを信じ、希いながらーーーそれでも沈んでいった。そんな人達が、この日本には溢れている。

25歳のヤコバシくんも、選択を迫られていた。

初めての転職は、当然ながら未知のこと。それは闇夜の大海に、手漕ぎボートひとつで漕ぎ出すことに等しい。方位磁針も海図もなく、転職市場という荒波に飛び込むくらいなら、現状維持の方がラクかもしれない。でもこんなキツい仕事、何十年も続けていけそうにない…そんな相反する二つの想いが、暗い心の中でぶつかり合って火花を散らす。

どこへ行っても、営業マンである以上は「数字」からは逃れられない。それが営業マンの本質であり、宿命だ。「目標」という名の数字がある限り、営業マンには安らぎなどないーーーそう思う彼の行く手には、真っ暗な荒海が、猛烈なしぶきを上げていた。転職市場という大海である。

ここに飛び込んだら、ひょっとしたら豊かな島に辿り着けるかもしれない。しかし…逆に、もっとひどいところに漂着するかもしれない。そんな不確定な博打をするなら、この慣れ親しんだブラック島にいたほうが、まだマシなのかなーーーそんなことを思って、海を目の前に、怯む。漕ぎ出せない。この海の先に、豊かな島は”そもそも”存在しているのか?その確証もなかった。そんな彼に、友から方位磁針が贈られた。

「化学メーカーの営業は、ラクだよ」

既に化学メーカーで働く友。年末の秋葉原でささやかに開催された、男二人の忘年会でもらった贈り物だった。他に有効そうな情報やアテもなく、指針を持っていなかったヤコバシくんは、この方位磁針だけを頼りに転職という大海へ漕ぎ出すことに決めた。というよりも―――そうするくらいしか他に方法がなかった、というのが正直なところだった。かくして彼は転職活動という大海へ漕ぎ出していくのであるが、その手法についてはVol.3にて詳細に語ろう。

そうして彼は転職市場という大海へ漕ぎ出す。月もない闇夜だが、方位磁針は「化学メーカー」の方角を指している。それだけを頼りにして闇の海を漕ぎ進んだ。様々な書物に励まされ、水先案内人にも出会い、導かれた。タイミングという幸運にも助けられた。現職ブラック企業との戦いも切り抜け退職し、彼はとうとう、小さな島に辿り着いた。

その島は、オジサン達が呑気にゆるく仕事したり、酒を飲んだり、ゴルフをしていた。一生懸命働く者がいないのに、豊穣な土地。不思議な光景だった。外界から隔絶された、不思議な島ーーー目指していた化学メーカーに、彼は辿り着いたのだ。そこでは独自の進化を遂げた生態系が、昭和の価値観が、今なお息づいていた。

年収、休日、拘束時間。それらが適正、いやむしろ余裕ある水準に一気に引き上がる。彼はブラックで受けたダメージを癒し、人間らしい生活を取り戻していく。しかし彼は同時に、疑っていた。殺伐としたブラック企業で新卒時代を過ごした彼は「会社」そのものに対して非常に疑い深くなっていたのだ。「こんなにオイシいなんて、何か、裏があるのではないか」―――そんな目でもって、疑っていた。そうして化学業界と、品物と、お客様について執拗に冷静に分析していく中で、彼は一つの答えに辿り着いた。

「営業マンにとってのユートピアはここに実在していたのだ」と。

そして同時に悟る。サラリーマンという勤め人は「自分がどれだけ努力するか」なんて大切じゃない。「どこに自分の身を置くか」こそが大切なのだと。

心身を削って努力し、成果を捧げたのに報われなかったブラック前職。対して、損耗少なく労働時間も短く、特段の努力もしていないのに多めの報酬を貰える現職。この大いなる矛盾は、それまでの彼の価値観では説明がつかなかった。夜遅くまで頑張った人、朝早く来て営業の成果を出した人が報われるはずではないのか?なぜこんなにラクで頑張っていないのに、年収や休日が増えるのか?最初は理解できず、増える年収と休日に戸惑いを隠せなかった。しかし時間が経つにつれて、彼は悟る。

勤め人仕事には「難易度」が明確に存在しているということに。

VERY HARDを選んだらキツく、VERY EASYを選べばラクなのだと。そんな当たり前のことに気がつくのに、3年を要した。しかしながら、全くの無駄でもなかった。彼はVERY HARDも体験した後に、VERY EASYも体験できたのだから。その目でもって世間を見渡せば、この日本はーーーVERY HARDの仕事で溢れていた。重労働で低賃金、休みも少ない、そんな仕事だらけだった。そこには不幸が渦巻いていた。対して、ラクなのに年収が高く拘束時間も少ないオイシい仕事もまた、少数ではあるが、確実に存在していることを観測した。

そして彼は振り返る。営業マン個人の努力とか、苦労とか、そんなものは―――まったくの無駄だったのだと。ロバート・キヨサキ氏が提唱した「ラットレース」は、まさに勤め人が同じところを繰り返し走る「回し車」。凡人なら、この回し車からのスタートは避けられないことだ。そしてこのラットレースには…実は難易度が存在していた。難易度は、平等ではない。ならば遠慮せず、堂々と、VERY EASYを選択しようじゃないか!彼はとうとう、解を得た。

「ユートピアは、確かに在る。」

彼は後進のために航海図を作ることにした。若き日の自分への、贈り物として。

つづく。

※(訂正)Vol.2中で紹介した分析数値は『平成29年 企業活動基本調査速報(経済産業省)』より引用。国税庁と連呼してましたが経産省でした。


著:ヤコバシ


【オーディオブックの正しい使い方を伝授する】
1.集中して聴かない。オーディオを聴くための時間をわざわざ取らない。スキマ時間や作業時間に『ながら』で聴くのが正しい使い方である。
2.ぼけーっと繰り返し聴く。聴き返すたびに毎回聴こえ方が違うぞ、とか、刺さる言葉が違うぞ、と思ったならそれは良い聴き方。一回で全部吸収してやろう、と言うのは悪い聴き方。
3.PCのnote.muサイトからMP3ファイルをダウンロードする。itunesその他で、スマホに同期する。電車や車での移動中、家事の最中に聴くのが良いと思う。ストリーミング再生で聴くのはあんまりおすすめしないかな。

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