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vol.4 ラーメン屋オープン前に店舗を燃やした支那そば軍曹の人生語り

支那そば軍曹 サウザーの白熱教室
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※試聴版。オリジナル版(54:54)は購入後に視聴可能。

第四話(最終話)

「ラーメン」

なぜこんなにも、魅惑的な響きを感じるのか。

みんな知っている。ラーメンは炭水化物と脂質の塊だと。とにかく「太る」「身体に悪い」というイメージ。ラーメンを食べ過ぎて糖尿病になった人もいるし、肥え太り過ぎた人の好物も多くの場合、ラーメンだ。そのようにラーメンは好ましくない、危ない食べ物のはずだ。

それなのに。

それなのに…どうして僕たちは、定期的にラーメン屋の暖簾をくぐってしまうのだろうか。

強いられているわけでもない。もちろん義務もない。自ら選んだ行動だ。

それなのに。

それなのにーーーどうして僕たちは定期的に、券売機のボタンを押してしまうのか。罪悪感と嫌悪感に苛まれながら、しかし同時に、期待と高揚感に胸を躍らせながら。禁忌と愉悦が混じり合った、背徳の味。

ラーメンには、そういう”魔性”が宿っている。

遍く動物の脳に「快」を与える糖と脂質。甘いを美味いと感じるのは、脂の乗ったマグロを美味しいと感じるのは、動物の本能が持つその「快」の回路のためだ。僕らの脳は、原始の時代に形作られたそのままで、この21世期を生きている。

この脳が喜ぶ糖と脂質、そこに旨味を凝縮して詰め込み精錬した食べ物が、ラーメンだ。ラーメンは、原始の本能をダイレクトにぶっ叩き、原始の本能をハッキングし尽くした食べ物だ。だから僕たちがラーメンに抗えないことは、仕方のないことなのだ。

そのように人間の本能のバグを突くラーメン屋という商売について、考えていきたい。

先述の通りラーメンは、人間の本能をハッキングした食べ物である。強い依存性がある食べ物と言える。糖尿病や肥満といった生活習慣病を誘発するこの食べ物は、果たして社会にとって善と呼べるのだろうか。もちろん法規制などない。しかしながら支那そば軍曹殿も、そう思い悩んだ日々があった。

しかし見渡してみれば、依存性の食品は世に溢れている。

砂糖とバターをふんだんに使った洋菓子。莫大な糖分を含んでいる炭酸飲料。オイリーな具をたっぷり載せたピザなど…例を挙げたら、キリがない。どいつもこいつも、ウマイものばかりで…まったく、カロリーはうまさの単位なのだろうか。

だからもしラーメンがなかったとしても、既に我々は囲まれて生きている。「用法用量を守って正しくお使いください」という注意書きが必要な食べ物に。アルコールやオナニーも同じくだが、結局のところ、そういう「安易な麻薬」が持つ依存の魔力を正しく認識し、適度に節制して付き合っていく姿勢が、これからの人類には求められていくのだろう。



支那そば軍曹殿の人生に戻ろう。

熱き涙と共に転生した軍曹殿は、そこからはひたすらに突っ走った。「努力」とか「頑張る」とか、そういうことではない。大家さん夫妻の期待を双肩に宿し、また自らの人生を切り拓くために闘っていく中で、軍曹殿は揉まれていく。それは必定であった。その激闘の数々、強敵や難題との格闘の連続をくぐり抜けながら、軍曹殿は経営者として鍛えられていく。

実店舗を構える経営者というのは、規模に差はあれど、間違いなく「地元の名士」である。

店という本拠地を持ち、従業員を雇用し、税金を払う。協力業者と地域経済に貢献する経営者。さらには経済的な面だけでなく、店という「場」をも人々に提供する役割も持つ。「場」とは単に食事をする場所という意味だけではない。もちろん胃袋を満たし癒される場でもあるが、同好の士が集う交流の場になることもあるし、生活の糧を得るための労働の場ともなる。

このような「場」の提供者であり、そのマスターである店主がカッコイイのは、当たり前のことであろう。まさに一国一城の主そのものを体現する存在だからだ。誰に命令されることもなく、序列を恐れることもない。まさにアルファ・メイルそのものだから、ラーメン屋の店主はモテる。

聖帝がこの「人生編」でリスナーに届けたかった大切なメッセージのひとつが、

「ラーメン屋店主は、モテるのか?」である。

その疑問の解決なくしては、ラーメン屋の開業を心から推奨することはできない。なぜなら男の人生には”カネ”と”オンナ”が絶対的に必要だからだ。いくら金持ちになってもオンナにモテなかったら、動物のオスとしての幸福や満足はない。絶対にだ。いくら理性で、理屈で誤魔化そうとしても、決して誤魔化すことのできぬことだ。

一般的には”カッコ悪い生き方”として認識されているラーメン屋という職業は、そこんところどうなのか?リスナーの皆もその実態を知りたいはずだ。だからこそ聖帝はこの問いに、ここまで固執した。だから、安心していい。

ラーメン屋の店主は「モテる」。

その真相を本編で確かめてほしい。十分なカネと時間が得られて、さらにはオンナも問題ないとなればーーー不安はもはや無い。

「30代後半になっても毎日が楽しい、日常が輝いている」

明るい声色でそう語る軍曹殿は、全国の精鋭諸君に伝えたかったことがある。勤め人に固執しなくても、そんな生き方があることを。それを分かち合いたい、勇気付けたかったと語り、本作は締め括られる。その言葉には、実体験からくる確かな重みと、軍曹殿の体温が宿っていた。



斯くして―――

彼はジェロニモから、支那そば軍曹へ転生した。

流されて流されて、底辺を彷徨うばかりだった人生のはずなのに。

店を燃やしたあの日を境に、もう流されることはなくなった。

人生の舵を、自ら握って操作して。



気がつけば、彼の周りには仲間がいた。友がいた。

自分の食い扶持のために始めた、孤独な戦いだったはずなのに。

大家さん夫妻、店舗のスタッフ、常連さん、遠くから来てくれるファン、チキンジョージ博士、聖帝ーーーそして、これを読むあなたとも。

普通の勤め人をしていたら得られなかったものが、いま彼の手には溢れている。

豊かな人生とは、こういうことではないだろうか。人々は常識や世間体、見栄に縛られすぎて、真の豊かさを忘れて久しい。



スーツを着て嫌な仕事するよりも、うまいラーメンで目の前のお客さんを喜ばせる。

そんな生き方が、毎日楽しくて、潔い。



ヒトとして素直な心と生き様が、そこに在った。



をはり。

著・ヤコバシ

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