vol.3 再現性の塊、ラーメン屋ビジネスでお金と時間の自由を手に入れる『ラーメン屋開業入門』
支那そば軍曹 サウザーの白熱教室
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※試聴版。オリジナル版(54:54)は購入後に視聴可能。
第三話(全五話)
ヒトは未知のものを怖がるようにできている。これは動物としての本能で、生物として避けられない習性だ。「ラーメン屋開業」と聞いて身体を強張らせてしまうのは、この未知に対する本能的な防御反応なのだ。しかしこれは裏を返せば、知っているもの・理解しているものに対しては、その恐怖を克服できるということも示している。光のない暗闇を走ることはできないが、明るく照らされた道ならば全力疾走できるだろう。Vol.3ではラーメン屋の構成要素について詳しく説明していく。
まずはメインとなる「ラーメン」について。「ラーメン」と聞いたらどんなものを思い浮かべるだろうか?昔ながらの鶏ガラ醤油、横浜家系、某マシマシ系、博多豚骨、にぼし、喜多方、濃厚味噌、鶏白湯などなど…多くの種類が思い浮かぶことだろう。ゆえに「こんなにたくさんの種類があるんだから、自分には無理だ」と思ってしまうのだが、諦めるのはちょっと早い。しかしその要素を分解してみると、スープ(ダシ)は鶏か豚か魚介の3種が基本だ(牛骨・鯛などは基本ではない)。また、味付けも醤油・塩・味噌の3種類が基本になる。
つまり世の中のラーメンの大半は鶏・豚・魚介のスープの3種と、醤油・塩・味噌の3種を掛け算した3×3=9通りが基本となるのだ。これに、若干の変化球としてスープを豚骨+魚介にしたりする応用もあるが、基本あっての応用である。先ほど思い浮かべてもらった各種ラーメンも、あなたの行きつけのラーメン屋も、よく考えたらこの「3種のスープ」と「3種のタレ」の組み合わせのどれかのはずだ。
そしてこれらの組み合わせには、既に先人達によって「黄金比」が確立されている。その知見は書籍やネットで既に公開されている。だから、イチから試行錯誤して、失敗を繰り返しながら独自のスープを開発する必要はない。既に発明されている設計図を基に作ってみれば、大失敗はしないのである。これは、ネットや書籍がなかった平成初期に比べると大きなアドバンテージと言えよう。何しろ研究する時間が大幅ショートカットされているからだ。支那そば軍曹殿は、このことについて「オリジナルのシンガーソングライターになるのではなく、サンプリング&リミックスのDJになれば十分」と解説し「冒険の旅に出るなら、地図を見ながら行った方が良いですよ」と推奨する。冒険の地図は市販されているのである。
そこでリスナーには新たな疑問が湧いてくる。「それでは、よそのお店と同じものになってしまって差別化できないじゃないか」という疑問だ。なるほど正鵠を射いているように思われる。しかし、事前の準備により、それを杞憂にすることができるのだ。
例えばあなたの生活圏で、ラーメン屋は何軒あるだろうか。その中で、先述の3種のスープと、3種のタレを考えれば、カテゴリーは数種類に絞れる。まずそのカテゴリーのどこかに「空き」はないだろうか。誰も作っていないスープ×タレの組み合わせである。仮に先人がいたとしても「あまり美味しくない」とか「値段の割にいまいち」とか、何か隙はないだろうか。もしくは「店が狭い」「駐車場がない」とか、何らかの弱点はないだろうか。そういう地政学的な要素も加味しながら戦略ゲームのように出店場所を決めて、スープと味を選択していく。もしくは自分の得意なスープとタレの競合が少ないエリアを探しに行く。もちろん、とても強い、隙のない競合がいたならば、同じ土俵で勝負を挑まないこと。孫氏の兵法よろしく、戦いは始まる前に大方の趨勢が決まっているのである(戦場選びについてはVol.4にて解説する)。
先述のようにラーメンの作り方は既に黄金比が決まっているため、その通りに作れば問題はないラーメンが作れる。そしてこの商圏の中で最下位にならないことが大切だと、軍曹殿とチキンジョージ先生は言う。このことを考えずに勢いに任せて出店したらどうなるかは…想像に難くない。本作ではラーメンの作り方についてスープ、タレ、麺という基本骨格に関する知識から始まり、メンマ、チャーシュー、タマゴなどの具材についても非常に実務的な解説が展開される。特に軍曹殿とチキンジョージ先生が実戦の中で培った体験談や失敗談は貴重であり、この部分だけでも数百時間が節約できるノウハウたっぷりのパートである。チャーシューの食感を決める要素やダシを取る鶏の種類など、その知見は非常に奥深い。要素を分解して最適化を図ると言う意味で、やはり彼らはサイエンティストなのだ。しかしながら、良い食材をたくさん使って美味しいラーメンを作ればそれで良いのか?否、そうではない。ここで軍曹殿から作中屈指の名言が飛び出す。
「僕たちの目的はラーメン道を究めることではなく、利潤の追求であります」
ここまで美味しいラーメンの黄金比やら、スープの素材や具材の部位などに細かくこだわってきた軍曹殿からこの言葉が出る。あくまでもラーメン屋開業とは「経済的自由を獲得する」ための手段であり、目的ではないと軍曹殿は釘を刺してくれる。そうだった。ラーメンアーティストになることが目的ではないのだった。
となれば、自ずとそこには「商売」の目線が必要である。つまりは売上と原価率によるソロバン勘定だ。その中で、原価率の目安が示されるのであるが、この原価率を最適化する作業がまた非常にサイエンティックなのである。かけられるコストはここまで。しかしその中で最大の効率(うまさ)を出すには…と各パーツや調理工程を最適化していく検証。これぞまさにラーメン科学の真髄と言えよう。
限られた予算の中で最大のうまさを得る試み。
素材の選定から仕入れ先の選択、調理の順序・タイミング、漬け込む時間…ラーメンを構成する各々のパーツをひとつひとつ、丁寧に磨き上げ最適化していく作業はさながらエンジニア(技術者)のようである。しかし繰り返すが、決して独創的なアーティストではない。あくまでも利潤と性能のバランスを追求するエンジニアの姿勢なのだ。このサイエンティスト的で、エンジニア的な考え方を総称して軍曹殿は「ラーメン屋は再現性の塊」と断言する。そこには才能もひらめきも必要ない。ただ地道な知識習得と練習さえあれば再現が可能ということである。
ラーメン屋開業という暗闇の道。未知のことだらけの、恐怖の道。Vol.3までで、1/3ほどまでの道程が明るく照らされた。残りのVol.4、5を聴くことで、全ての道程が照らされることになる。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「物事を理解することとは、その原因を知ることである」と説いた。「ラーメン屋の開業」もまた、その実態と原因を知ることで、本能が持つ恐怖を克服できるはずだ。
つづく。
著・ヤコバシ
【注意】
その3とその4の間ですが、進行役の僕が話に夢中になって切るのを忘れるという、白熱教室始まって以来の大失敗をしております。その3のケツが「スッ」と終わり、その4のアタマが「スッ」と始まるのはそのためです。
ヒトは未知のものを怖がるようにできている。これは動物としての本能で、生物として避けられない習性だ。「ラーメン屋開業」と聞いて身体を強張らせてしまうのは、この未知に対する本能的な防御反応なのだ。しかしこれは裏を返せば、知っているもの・理解しているものに対しては、その恐怖を克服できるということも示している。光のない暗闇を走ることはできないが、明るく照らされた道ならば全力疾走できるだろう。Vol.3ではラーメン屋の構成要素について詳しく説明していく。
まずはメインとなる「ラーメン」について。「ラーメン」と聞いたらどんなものを思い浮かべるだろうか?昔ながらの鶏ガラ醤油、横浜家系、某マシマシ系、博多豚骨、にぼし、喜多方、濃厚味噌、鶏白湯などなど…多くの種類が思い浮かぶことだろう。ゆえに「こんなにたくさんの種類があるんだから、自分には無理だ」と思ってしまうのだが、諦めるのはちょっと早い。しかしその要素を分解してみると、スープ(ダシ)は鶏か豚か魚介の3種が基本だ(牛骨・鯛などは基本ではない)。また、味付けも醤油・塩・味噌の3種類が基本になる。
つまり世の中のラーメンの大半は鶏・豚・魚介のスープの3種と、醤油・塩・味噌の3種を掛け算した3×3=9通りが基本となるのだ。これに、若干の変化球としてスープを豚骨+魚介にしたりする応用もあるが、基本あっての応用である。先ほど思い浮かべてもらった各種ラーメンも、あなたの行きつけのラーメン屋も、よく考えたらこの「3種のスープ」と「3種のタレ」の組み合わせのどれかのはずだ。
そしてこれらの組み合わせには、既に先人達によって「黄金比」が確立されている。その知見は書籍やネットで既に公開されている。だから、イチから試行錯誤して、失敗を繰り返しながら独自のスープを開発する必要はない。既に発明されている設計図を基に作ってみれば、大失敗はしないのである。これは、ネットや書籍がなかった平成初期に比べると大きなアドバンテージと言えよう。何しろ研究する時間が大幅ショートカットされているからだ。支那そば軍曹殿は、このことについて「オリジナルのシンガーソングライターになるのではなく、サンプリング&リミックスのDJになれば十分」と解説し「冒険の旅に出るなら、地図を見ながら行った方が良いですよ」と推奨する。冒険の地図は市販されているのである。
そこでリスナーには新たな疑問が湧いてくる。「それでは、よそのお店と同じものになってしまって差別化できないじゃないか」という疑問だ。なるほど正鵠を射いているように思われる。しかし、事前の準備により、それを杞憂にすることができるのだ。
例えばあなたの生活圏で、ラーメン屋は何軒あるだろうか。その中で、先述の3種のスープと、3種のタレを考えれば、カテゴリーは数種類に絞れる。まずそのカテゴリーのどこかに「空き」はないだろうか。誰も作っていないスープ×タレの組み合わせである。仮に先人がいたとしても「あまり美味しくない」とか「値段の割にいまいち」とか、何か隙はないだろうか。もしくは「店が狭い」「駐車場がない」とか、何らかの弱点はないだろうか。そういう地政学的な要素も加味しながら戦略ゲームのように出店場所を決めて、スープと味を選択していく。もしくは自分の得意なスープとタレの競合が少ないエリアを探しに行く。もちろん、とても強い、隙のない競合がいたならば、同じ土俵で勝負を挑まないこと。孫氏の兵法よろしく、戦いは始まる前に大方の趨勢が決まっているのである(戦場選びについてはVol.4にて解説する)。
先述のようにラーメンの作り方は既に黄金比が決まっているため、その通りに作れば問題はないラーメンが作れる。そしてこの商圏の中で最下位にならないことが大切だと、軍曹殿とチキンジョージ先生は言う。このことを考えずに勢いに任せて出店したらどうなるかは…想像に難くない。本作ではラーメンの作り方についてスープ、タレ、麺という基本骨格に関する知識から始まり、メンマ、チャーシュー、タマゴなどの具材についても非常に実務的な解説が展開される。特に軍曹殿とチキンジョージ先生が実戦の中で培った体験談や失敗談は貴重であり、この部分だけでも数百時間が節約できるノウハウたっぷりのパートである。チャーシューの食感を決める要素やダシを取る鶏の種類など、その知見は非常に奥深い。要素を分解して最適化を図ると言う意味で、やはり彼らはサイエンティストなのだ。しかしながら、良い食材をたくさん使って美味しいラーメンを作ればそれで良いのか?否、そうではない。ここで軍曹殿から作中屈指の名言が飛び出す。
「僕たちの目的はラーメン道を究めることではなく、利潤の追求であります」
ここまで美味しいラーメンの黄金比やら、スープの素材や具材の部位などに細かくこだわってきた軍曹殿からこの言葉が出る。あくまでもラーメン屋開業とは「経済的自由を獲得する」ための手段であり、目的ではないと軍曹殿は釘を刺してくれる。そうだった。ラーメンアーティストになることが目的ではないのだった。
となれば、自ずとそこには「商売」の目線が必要である。つまりは売上と原価率によるソロバン勘定だ。その中で、原価率の目安が示されるのであるが、この原価率を最適化する作業がまた非常にサイエンティックなのである。かけられるコストはここまで。しかしその中で最大の効率(うまさ)を出すには…と各パーツや調理工程を最適化していく検証。これぞまさにラーメン科学の真髄と言えよう。
限られた予算の中で最大のうまさを得る試み。
素材の選定から仕入れ先の選択、調理の順序・タイミング、漬け込む時間…ラーメンを構成する各々のパーツをひとつひとつ、丁寧に磨き上げ最適化していく作業はさながらエンジニア(技術者)のようである。しかし繰り返すが、決して独創的なアーティストではない。あくまでも利潤と性能のバランスを追求するエンジニアの姿勢なのだ。このサイエンティスト的で、エンジニア的な考え方を総称して軍曹殿は「ラーメン屋は再現性の塊」と断言する。そこには才能もひらめきも必要ない。ただ地道な知識習得と練習さえあれば再現が可能ということである。
ラーメン屋開業という暗闇の道。未知のことだらけの、恐怖の道。Vol.3までで、1/3ほどまでの道程が明るく照らされた。残りのVol.4、5を聴くことで、全ての道程が照らされることになる。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「物事を理解することとは、その原因を知ることである」と説いた。「ラーメン屋の開業」もまた、その実態と原因を知ることで、本能が持つ恐怖を克服できるはずだ。
つづく。
著・ヤコバシ
【注意】
その3とその4の間ですが、進行役の僕が話に夢中になって切るのを忘れるという、白熱教室始まって以来の大失敗をしております。その3のケツが「スッ」と終わり、その4のアタマが「スッ」と始まるのはそのためです。
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