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本気を生みだす場づくり[Footwork & Network vol.26]

 ”子どもの教育”に興味がある私は、教育支援を行うNPO法人カタリバが運営するユースセンターb-labで、この1年間活動をしてきた。b-labでは中高生と一緒に勉強をしたり、ボードゲームで遊んだり、時には真面目な相談を受けたり。そんな10代の居場所づくりに関わってきた。

 昨年7月、b-lab職員の方から「手伝ってほしいカタリバの事業があるんだけど…」と声をかけられた。それが今回紹介する『中野ハイティーン会議』である。

中野ハイティーン会議とは

 『ハイティーン会議』は中野区の事業で、区に在住・在学する中高生を対象としたものだ。行われるのは自由なテーマで探究をして発表するワークショップ。20年近い歴史があるのだが、昨年からカタリバがプログラム運営を行うこととなった。これによりハイティーン会議が大きく変わったのだが、ポイントは2つ。

 1つ目は「10代の意見表明」。中高生がチームをつくって活動を行うのはこれまで通りなのだが、テーマは「理想のなかの」になった。チームで「こんな中野にしていきたい!」を考える、そして最終日はそれを区長・教育長に意見表明する。そんな区政に”10代の声"を届ける機会となった。
 2つ目は「実際のアクション」である。話し合いや調べ学習で分かったことだけを発表するのではなく、イベントを開いたり制作物をつくったり…何でもアクションをしてみて分かったことを踏まえて、発表する。中高生たちにはチャレンジをしてもらうことになった。

 今年度はそんな”新”ハイティーン会議の2年目。20名の集まったメンバーはチームごとに「理想のなかの」を考える。チャレンジを伴走するのは今回プログラムの全体ファシリテーションをしたカタリバの横田 伸治さん、そして自分含めた大学生3人・社会人1人のメンターチームだ。8月のオリエンテーションから12月の意見表明会に会議は行われた。

中野区役所7Fにて行われた

「中野に居場所をつくりたい」チャレンジ


 最初に紹介するのは、8月初回のオリエンテーションで「放課後にみんなで集まる場所がないから自由に過ごせる場所がほしい」という5人が集まった"中高生の居場所チャレンジ"だ。

 しかしそうした不満はあるものの、机の上で模造紙やポストイットを広げても中々アイデアが出てこない。話し合いもメンターの自分が主導になってしまっていた。そんなチームに横田さんは「b-lab」へのフィールドワークを提案した。そして10月の施設見学では、ボードゲーム・Switch・キッチン・音楽スタジオもあるb-labに、文京区民が羨ましい…と5人は話していた。

 そして、11月に実際のアクションを行うことに決めた。中野区産業振興センターの3階を貸し切って、その中にb-labを再現したスペースを手作りすることにしたのだ。そこからの動きは凄まじかった。家にあるゲームを持っていこうと発案したり、クッキーを食べたいからと必要な具材を調べたり、ハイティーン会議がない日にも自主的に集まって告知用の動画を制作したりしていた。

 そして迎えた11/26のイベント当日には13:30から19:00まで『あつまれ中高生の広場』をオープンして、センター内には15名ほどの参加者が集まった。当日は和室で勉強するスペースがあって、その隣ではクッキーづくりが行われいて、会議室ではプロジェクターを使ったゲーム大会が繰り広げられていた。イベントを手がけた5人は振り返りで満足した様子で「こうした居場所はやっぱり毎日ほしい」「居場所づくりを自分たちでやると大変」ということが分かったと話していた。

 そして最終日の意見表明会では「居場所を求める中高生がたくさんいるので中野区にも施設をつくってほしいこと」を意見表明した。休日に集まって作った資料は20ページにも及び、校内で400人からも集めたアンケート結果をもとに、10分間の時間いっぱいに発表していた。最後の意見表明には5人からの本気を感じさせられた。

「中野に音楽を奏でたい」チャレンジ

 もうひとつ紹介するチャレンジは高校1年の2人による「音楽チャレンジ」だ。吹奏楽部である2人は中野をミュージカル映画のような場所にしたいと楽しそうに話していた。横田さんがそんなチームに用意した、地域のプロバイオリニストの方との話し合いの場で2人は「実際に地域でワークショップを開いてること」「そこで交流をつくることの思い」を聞いた。そして自分たちの手で音楽イベントを開く事をアクションとして決めたのである。2か月に及ぶ準備の末、11/26(日)に区のホールを貸し切って、ギターやサックスを持参してきた11人の参加者と共に『ゆる奏』を実施した。最終日では会場に当日の動画を流して、「色々な場所でこうしたイベントができるようにしてほしいこと」を意見表明した。

 実はメンターの自分には度々不安なことがあった。はじめ2人は屋外での演奏を希望していたのだ。しかし都合上、難しいことがわかった。せっかく色々と考えているのに、そのことを伝えるとやる気を落としてしまうのではないか…?自分は横田さんに相談した。そして10月あたまにメンター全員で集まって、ZOOM相談会を開く事になった。

 学校・仕事終わりに集まってくれたメンター4人は自分の話を聞いてくれた。「どうしても屋外がいいなら既に開催しているイベントに乗っかって参加するのはどう?」「他のアイデアを出す時にはいくつか提示してその中から選んでもらうようにしてるよ」。そうしたアドバイスといっしょに、それぞれが担当するチームの状況も共有してもらえたことで悩んでいるのは自分だけじゃないんだと安心できた。他のメンターも色々と試行錯誤しながら取り組んでいる。
 以後この相談会は不定期に行われて、「最近チームメンバーと全然連絡が取れないんだよね」「せっかく開いたイベントに人が集まらなくて」といった問題を持ち込んではメンター全員でどうすればいいかあれこれと考える機会になった。

2つのチャレンジから考えた"場づくり"

 これら2つのチャレンジから思ったのは、中野ハイティーン会議のポイントはアクションにあったことだ。「居場所チャレンジ」のメンバーの意見表明が熱のこもったものになったのは、実際にイベントを開いてみて、チームみんなで楽しんだり悩んだりした経験があったからこそではないだろうか。ここで中野区長・酒井 直人さんが話されていた言葉を紹介したい。

「実際の子どもたちのモヤモヤを拾う。区長が行ってもシステマチックに生徒会メンバーが意見をまとめたりしてるから、本当の声を拾うのは難しい」

1/21 中野若者会議・酒井 直人さん

 中高生たちの本当の声を大人たちが拾うには、やっぱり本人たちが本気であることが必要だと思う。やらなければいけない宿題のように面倒に感じられたら、適当にやり過ごされてしまう。だから今回のハイティーン会議は”10代の本気の声を届ける場”になっていたと思う。ただ目安箱みたいに場をセッティングするだけじゃなくて、本気をつくる場をデザインすること。意見を拾うにあたって、その必要性を今回のハイティーン会議で感じた。

 一方で「音楽チャレンジ」の経験から考えさせられたのは、そうした場づくりの難しさだ。中高生が本気になれるのはアクションによる”自分ごと感”があるからで、それがうまくいかないと、途中で気力がなくなってしまう恐れもある。

”新”ハイティーン会議はまだまだ2年目で、こうした初めてのことや正解がわからないことはたくさん起きていた。今回よかったのは、そうした不安が起きたときにメンター同士が支えられる関係ができたことだ。みんなで試行錯誤しながら、意見表明にむけて場づくりをしていってた。失敗も来年以降のプログラムに生かされる経験になる。さっそく横田さんはFW先の見直しや次の構成のことも話されていた。

 これからの私はこうしたマニュアルのない新しいものをつくろうとする現場では、うまくやろうとするよりも、失敗してみたり、正直に悩みを出してみたり、そうした試行錯誤の振る舞いをしていきたい。経験は学びになり、場に貢献できるのだと思う。


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