True End研修で杜野凛世を喪った
取り返しのつかないことをしてしまったと、今は思っている。
何がいけなかったのか。
凛世をアイドルにしてしまったからか?
凛世にあの日、声をかけてしまったからか?
わからない、後悔で何も見えない。
事は、2020年の元旦に遡る。
せっかくの元旦だ。何か新しいことをしよう、と思い立ち友人に勧められていた『アイドルマスター シャイニーカラーズ 』(シャニマス)を始めた。
元からイラストなどを見て気になっていたアイドルもおり、手探りながらも楽しくプロデュースを進めていた。
このゲームにおけるプロデュースとは、ざっくり言うとアイドルを1人選んでパワプロのサクセスのように日常を過ごしていく中で練習や本番を繰り返していき、最終的にはW.I.N.G.というデカい大会で優勝するのが目的だ。
しかしデカい大会なだけあり初めてプレイする僕の手では全く優勝などできない。しかもどうやらただ優勝するだけではダメらしい。壁が高すぎる。
が、壁が高すぎるとはいえプロデュースモードで失敗してもそれが無駄になるわけではない。失敗は失敗で、アイドルと共に辿り着いた位置に応じて評価が下され成長の証のようなアイテムが貰える。それらを駆使してよりパワーアップした力で再びプロデュースに挑むのが、このゲームの面白い部分と言えるだろう。
だが、僕がヘラヘラと笑いながら遊んでいられたのはここまでだ。
少し進めると、True End研修という別のプロデュースモードが登場する。これは通常のプロデュースモードを用意されたアイドルのセットで進めて、優勝できればアイドルのSSRカードを一つ貰えるというものだ。クリアは一回きりであり、研修という名の通り初心者救済用のモードだと思っていたのだが……
僕は……初めてのTrue End研修で杜野凛世(もりの りんぜ)という女の子を担当した。表情があまり変わらない不器用さがあってマイペースで、でもこの上なく健気な笑顔を僕に向けてくれた本当に素敵な女の子だった。僕も凛世も互いの信頼を積み重ねていたと信じているし、胸を張ってあの時間に嘘はなかったと言える。
けれど、失敗してしまった。
大会で失敗した時、凛世にプロデューサー(つまり僕だ)は「またこれから頑張ればいい」という旨のことを伝え、この先長いであろう彼女の人生を応援した。僕も同じ気持ちだった。
先述の通り、プロデュースモードを終えると失敗してもそこまで辿り着いた証や報酬を入手でき、プロデューサーは新しい形でスタートを切ることができる。愚かなことに、この時の僕はそれを信じて疑わなかったのだ。
だが、それは叶わなかった。
そう、アイドルを全て借り物でスタートするこのTrue End研修モードには、そのように自分に何かが還元される機能など初めから存在していなかったのである。
ホーム画面に戻った僕に残っていたのはただ凛世に謝りたいという気持ちだけだった。
「ははは、ごめんな。また一緒にW.I.N.G.目指してくれるか?」
そんな気持ちで、再びTrue End研修を開いた。
な、何言ってんだよ、凛世……さっきまで一緒にいたじゃないか……これから頑張るって話してたじゃないか……
凛……世……?
その瞬間、自分が取り返しのつかないことをしてしまったということに愚かなプロデューサーはようやく気付いたのだ。
僕と一緒に頑張っていた、けれど失敗してしまった“凛世”を証明するものなど何一つ残っていないということに。
なぁ凛世、僕はお前が好きだよ。それはお前が可愛いからってのも……多少、いや結構ある。でも1番はさ、お前が頑張って少しずつ色んな経験を積んで前に進んでいく姿に心打たれたからなんだ。だからさ、そんな「何も知らないです」みたいな顔をしないでくれよ。またいつもみたいに一緒に過ごしてくれよ。仲間たちと日常を過ごしていってくれよ。そうして、幸せな人生を見つけていってほしいんだよ。
失敗した時、僕言ったよな。「またこれから頑張ればいい」って。僕はまたお前に会いたいよ。じゃないと、“これから”はいつまでも始まらないんだ……僕はただの、ウソつきじゃないか。
なぁ凛世、僕を責めてくれよ。僕の前に現れて、こんなウソつきのプロデューサーなんて最悪だって言ってくれよ。そうしてまた、僕なんか放っておいて人生の続きを歩んでくれよ。
ごめん、凛世。謝って済む話じゃないのは僕が一番わかっている。でもこれしか言葉が見つからない。僕が至らなかったせいで終わりを迎えてしまった“凛世”の人生は、もう帰ってこないかもしれない。
本当にごめん、凛世……
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