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税金を払ってプロギャンブラーになろう

1.はじめに

ポーカーが流行っている。自分がポーカーを覚えたのは2009年、会社を辞めてプロギャンブラーとなったのは2012年であるが、その頃と比べても社会的認知度、プレイヤー数は格段に増えているようだ。

10年前にはマイナーな存在だったポーカーがここまで大きくなるとは正直驚いているが、そのせいかポーカーの社会的地位を上げたい、という耳障りな絵空事を耳にすることも増えてしまった。

社会的地位を上げたきゃ、たくさん税金を納めりゃいいだろ。

当たり前すぎる意見だとは思うが、この点に目を瞑りながらポーカーの拡大普及路線を叫ぶのは、誠意に欠ける態度だと思う。もちろん多くの人は悪気があるわけでは無いのだろう。

なお自分としては、今の日本のポーカー流行を必ずしも歓迎してはいない。あくまでサブカルチャー的存在の方がむしろ魅力的だと思っているし、極端にライブキャッシュ推しなので現状のトーナメント偏重風潮も是正されて欲しい。

とはいえ、いちポーカープレイヤーとして、業界の健全化に貢献したいという気持ちは少なからず持っている。そこで現在プロポーカープレイヤーとして納税をしている数少ない人間として、これまでに調べたギャンブル納税に関する情報をシェアしたいと思ったのが本note記事である。

ポーカーの収入で税金を納めるというのは、実際のところ困難である。参考となる例も少なく、税理士でも解釈に迷う点が多々あるからだ。自分は税務に関して専門的な知識を持っているわけでは無いが、自分に手の届く範囲のことは真摯に調べ、誠実に考察したつもりだ。


2.法律の背骨を理解しておこう

この類の話を進めるためには、理解しておくべき重要な概念が二つある。

まず一つは「担税力」である。

「担税力」とは、税金を納める能力のことである。ギャンブルで収入を得て納税するというのは、少なくとも現状の日本においてはレアなケースである。基本的に法律はそのようなイレギュラーは念頭においておらず、あまり形式ばって一般の商習慣に当てはめてしまうと、現実からかけ離れた解釈に陥りかねない。

「担税力」に応じて公平な税負担とする、という税務の基本理念を忘れず実態に即した対応を考える必要がある。

もう一つは違法行為と税務の関係である。所得税法の基本通達にはこうある。

”法第36条第1項に規定する「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない。”

違法行為でも納税の義務は生じるのだ。

ポーカーに限らずギャンブルは、現実として違法なものが多く存在する業界ではある。(ギャンブルの違法性については先のnote記事もどうぞ)

ポーカーに関して例を挙げると、オンラインポーカー、ホームゲーム、非公式国内カジノ、高額な賞金(賞品)を提供するアミューズメントポーカーは賭博罪の適用対象となる。海外カジノでのキャッシュゲーム、トーナメントは合法(というかその国の法に従う)である。

本note記事はあくまでもポーカーの税務に主題を絞り、それが合法/違法であるかは不問として話をすすめていきたい。


3.一般プレイヤーは一時所得

さて、プロポーカープレイヤーの税務について論じる前に、まずは一般のプレイヤーがポーカーで収益を上げたケースのことを確認しておこう。

納税について定めているのは「所得税法」である。ギャンブルで得た収入は基本的には一時所得に分類され、本業の所得に加算して計算することになる。

一時所得には50万円の控除が認められており、年間のギャンブル収入がそれ以下であれば申告の必要はない。50万円を超える収入を得た場合には、「収入を得るために支出した金額」と控除を引いた額の半分が所得としてカウントされる。仮に参加費10万円のトーナメントで200万円の賞金を得た場合なら、70万円の所得となるわけだ。

(200万円 - 10万円 - 50万円 ) / 2 = 70万円

しかしながら、ポーカーはギャンブルであり勝つときも負ける時もある。この性質のせいで、年間収入というものを算定する際に、厄介な解釈問題が生じてくるのだ。それが「収入を得るために支出した金額」である。

ギャンブラーの感覚では、勝ちも負けも全て通算した数値を年間収入として捉えることに違和感はないだろう。しかし税務の世界では必ずしもそうではないらしい。

2010年頃に話題になった「馬券裁判」をご存じだろうか。競馬で28億7千万円の馬券を購入し、払戻金30億1千万円を得ながら、外れ馬券は経費に含まれないとして6億4千万円の所得税を課すべく国税に起訴された事件である。(最終的には、この件個別においては外れ馬券は経費に含まれるという主張が認められ、課税は5200万円に減額された)

その後にもいくつか競馬関係の税務ニュースがあったが、それらの判例によると、以下のことが推察できる。

ポーカーで負けた時の額は一時所得における「収入を得るために支出した金額」とは認められない。

トーナメントであれば、認められるのは賞金を得たトーナメント自体のバイイン額のみである。

正直言ってギャンブル愛好家の目線からすればたまったものではない。真面目に税金のことを考えてしまうと、一般プレイヤーが税金込みで継続的な収益をあげるのは強いプレイヤーでもかなり難しいといえるだろう。(完全に無理という程ではないが)

常勝することはできないギャンブルにおいては、馬券裁判で焦点になったように負け額を「経費」として計上することが重要となってくる。そこで次は、「経費」として認められる条件を考えていくことにしよう。


4.一時的「ではない」所得とは?

まず、一時所得には「経費」という概念が適用されないため、ポーカーを事業とみなして税務を考える必要があるが、これには大きく3つの形態がある。

一つ目は「雑所得」として扱うことだ。性質としては一時所得と似たものであるが、一時所得にあった所得半分計算が無い代わりに、「経費」が算入できる。ちなみに控除額は20万円でやや少なくなる。

二つ目は個人事業主として事業届を出す形だ。世間的にまっとうな職業として本気でポーカープロを目指すなら、これがもっとも妥当だろう。

三つ目は法人建てし、法人の事業とする形である。自分はこれにあたる。個人事業主ではなく法人化したのに深い理由は無いのだが、社長を名乗ってみたかったとかその程度の軽いノリである。良い社会勉強にもなるし、事務処理作業が苦手でなければこれも悪くない選択ではあると思う。

この三つの形態はポーカー収入を計上するという観点からはどれも本質的な違いはない。自分の他の所得の実情に合わせて選べば良いだろう。

しかしながら、ポーカーを事業として登録するというのは、自己申告だけですんなりと認められるものではない。馬券裁判判例においても、馬券購入は一般的には事業とは言い難いとされているし、ポーカーも同じように解釈されると考えるのが自然である。

事業として認められるためには、一連の活動が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であると見なされる必要がある。これはポーカー税務を考えるにあたって非常に重要なポイントなので覚えておいて欲しい。

これをクリアして事業と認められる者だけが、晴れて負け額を「経費」として算入することができるようになるのだ。


5.ポーカープロに公式な資格はない

さて、いよいよプロギャンブラーの税務にはいろう。とはいえ、ポーカーにプロライセンスや公的資格があるわけではない。ポーカーを主として生計を立てている者を指してプロと呼んでいるだけである。

(アミューズメントポーカーで高額な賞金を出すために優勝者とスポンサー契約を結んでプロとする、という形も耳にするが、真面目に解釈したらさすがにそれは通らないように思う)

ポーカーにはいくつかの形態があるが、以下4つの分野に分けて事業と認められるか否かを考察した。なお、先に述べたように行為の合法/違法はここでは扱わないものである。

① ライブキャッシュゲーム
 強いプレイヤーの場合、一か月単位であれば10%程度では負け越すこともあるだろうが、一年単位で負け越すことはほぼ考えられない。競馬関係の判例と比較しても、この程度に安定した収支であれば「営利を目的とする継続的行為」とみなされる可能性が高いだろう。

課題としては収支を証明するのが難しいことだ。最低でも一日単位での収支記録等は残す必要があると思われる。

② オンラインキャッシュゲーム
 膨大なハンド数で履歴もしっかりと残るため、安定的に買っているならば事業として説明しやすい。税務面とは別に、法的な面に問題があるが・・・。

③ ライブトーナメント
 これに関連して、競馬関係で興味深い判例がある。2019年に出た判例(詳細はコチラ)で、通常馬券購入はスキルエッジとして事業扱いが認められたが、より偶然性の高いWIN5では却下されたのだ。

これを踏まえて考えると、一般論としてはライブトーナメントは事業として認められるのは難しいだろう。ポーカーは強くなったらトーナメントも安定して勝てるような錯覚に陥りがちではあるが、現実としては圧倒的に運なのだ。

ただ、この部分はケースバイケースで判断が難しい部分はある。例えばこれまでに実績があり既にポーカーで税金を納めたプレイヤー(つまりまあ木原さん)であれば、ライブトーナメント出場は事業として認められると考えられる。

それに対し自分がいきなりトーナメントに出場し始めて、たくさん負けて法人の経費として計上するというのはおそらく通らないだろう。

(なんせ生涯トーナメント経験はWSOPブレスレットイベント4つのみで、インマネゼロで$15,000負け)

まあ、トーナメントは一発デカい夢を追い求めるものだ。税金のことなど考えていては存分に楽しめない。まずは当ててから困ればよいのだ。

④ オンライントーナメント
 前述のように考えていくと、これも基準が難しく、プレイ実態によってケースバイケースで判断されることになるだろう。回数を多くこなし、収支が安定的であるならば認められるのではないいだろうか。

これまで見てきたように、ポーカーを事業とみなす基準を明快に示すことはできないが、結局のところは税務署に対し「営利を目的とする継続的行為」であると示せるかどうかに掛かっている。事業化を考えている人は最低限の収支記録などは怠らないようにしよう。

とはいえ、わざわざギャンブルで納税申告してきた奇特な人間に対しては、税務署も無下な扱いはしないだろう。そう信じたい。

納税額を超えて不正に経費計上しようとする輩には厳しくあたっていただくとして、真摯な納税の意思があるならばそれを汲んでくれると期待したいものだ。

以下に、この章の結論をまとめる。

・キャッシュゲームは通算成績で収支として計上できる
・ライブトーナメントの負けは特殊な例を除いて基本的に経費計上できない
オンライントーナメントであれば、履歴次第で認められることもありうる

あくまでも個人的な考察によるものなので、より税務に詳しい人に指摘を頂ければ幸いだ。


6.日本を脱出したパーマネントトラベラー

おまけとして、海外滞在者の話も入れておこう。

原則として日本の税制は日本に居住する人を対象にしている。日本国外で生活する人は生活の拠点となる国の税制が適用されるわけだ。

ここで、特定の国に定住せず、住民票を国外に移した上で、海外滞在が年間の半分以上である人々のことは通称パーマネントトラベラーと呼ばれ、日本でのほとんどの納税義務は免除される。

海外渡航の多いポーカープロはこれに該当しそうにも思えるが、これもなかなか難しい。滞在日数、収入の実情、資産の所在、配偶者や親族の状況などで実態に合わせて総合的に判断されるのだ。専門家に判断してもらったわけでは無いが、夫婦で世界中のカジノを旅していた頃の僕らですら、パーマネントトラベラーと認められるかは微妙なラインだったと思う。

年間半分を海外で過ごせばそれだけでOKと勘違いする向きもあるので、パーマネントトラベラーを自認するポーカープロは慎重に条件を確認することをおすすめする。


7.おわりに

自分はポーカーを事業として税金を払うことを敢えて推奨はしていない。これまであなたが勝っていたとしても、それはほとんどの場合運が良かっただけだからだ。

ポーカープレイヤーの99%は、自身を過大評価する。周りを見渡せば自分と同じか格上の人間もたくさんいるのに何故だろう?面白いことに、自身の属するコミュニティも例外なく過大評価するからである。ここには強いプレイヤーが集まっていて、その中で戦っている自分は強いはずだ、と誤認するのだ。

そんなわけはない。

世の中には自分より弱い人間もたくさんいるし、同じぐらい強い人間もいる。自分の人生を振り返ってみて欲しい。自分は特別だっただろうか。なぜポーカーに関してだけ根拠のない自信にあふれているんだ?数学のテストすら満足にできなかったのに?

だがそれでもなお、自分は勝ち続けられると信じるイカれた若者を自分は歓迎する。

そもそも博打で勝った金で税金を払うなんて、普通の感覚であればナンセンスである。しかしそこを敢えて踏み込むのはギャンブラーとして最高のカタルシス。真の勝ち組にしか許されない贅沢といえよう。

さあ、イカれたギャンブラー達よ、共に国民の三大義務を果たしに行こうぜ。