This night

#TMnetwork

雪が降っていた。
部屋から見える景色は、真っ白だった。
夜なのに、夜だからか、月が雪に反射して、ほの青かった。

雪に覆われた世界は美しかった。
夜は特に。
かき集めた服に、くるまれていても。

常時、適温に保たれている空調が機能しなくなっていた。
何日目からだったかわからない。肌寒さを感じたのは2、3日前だっただろうか?

それからはもう、あっという間だった。スクリーンの表示は消え、コンソールがチカチカしていた。
それと気付かぬうちに、照明が弱まり、いつのまにか消えた。
動力が…と思うまもなく携帯端末が、エネルギープラントのオーバーフローを伝えていた。

非常用の設備が、どれだけ持つかわからないが、朝から、なんとか水を温めて飲んだ。
食事は自動調理なので、そのまま食べられるものを食べた。
真っ暗になった部屋、ぐんぐん寒さを増す室内、パニックになりそうな自分を、ただ、静かに静かに降り積もる雪が押しとどめた。

跡形もなく真っ白な世界。
数日前までは、同じ暖かい部屋で見ていた景色を、凍えながら純度の増した白い世界を見る。
環境問題は解決した。クリーンエネルギー。自然との共存。
そう言われて、かなり年月が経ったが、嘘だったなと思う。
自然はこんなにも自分たちを排除したがっている。
ありったけの衣服と掛け物の下でうち震える。自分は、こんなにも小さい。

ふと、携帯端末が光っているのに気づいた。
スリープモードから起動する。
「……くん、起きてる?」
「うん。」
「寒い。眠ると死んじゃうかもしれないんだって。」
彼女の声は少し震えている。自分もきっとそうだろう。
サウンドオンリーのサインが明滅する。この端末もそうは持たない。
「…うん。」
「…顔が見たい。」
今、どんな表情なのか、あの日、雪が降り始めた日、告白された彼女の顔を思い出す。
上気した頬と潤んだ瞳、ほおに触れて、口付けするタイミングを逃した。
「俺は、会いたいよ。」
「…うん、そうだね。わたしも。」
彼女の声がはっきり震えていた。泣いているのかもしれない。
「寝るまで、繋いでる。絶対に目が覚めるよ。」
「うん。…そうだね。」
怖いんだ。でも、自分もきっと、麻痺しているだけ…
「朝からお湯を沸かすのが大変でさ…



空に雪は降り続けた。


刺さるほど勢いのいい、投げ銭。 お待ちしております。