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アシミジのはなし

夫・トトサンは、性格がいい。人の悪口を言っているのを聞いたことがない。
そして頭がいい。いつも冷静に物事を判断してくれる。 
さらに運動もできる。今ではてっぷりしてしまったが、小学生の頃から続けているサッカーは今もうまいし、スキーのインストラクター免許も持っているし、泳ぎもいける。未経験のバドミントンや野球まで難なくこなし、更に更にピアノもギターも弾けて、どんな曲でも聴けば大体弾けてしまう。

しかも、カッコいい。今ではてっぷりしてしまったが、ぱっちりした二重に長いまつ毛、茶色い瞳が美しく、若い頃は日本人に見られなかったことさえある。
ここぞとばかりの身内自慢で申し訳ないのだが、とにかくわたしのトトサンは完ぺきなのだ。


ただ、人に迷惑はかけないけど、もしかしたら気のせいかもしれないけど、ただ少しだけ、ほんの少しだけ足が短い。

だけどそれを欠点というにはあまりに早計だ。
だって、リムジンよりも軽四の方が小回りが利くし、あしながおじさんだって実際足が長かったわけじゃなかろう。お風呂でも短い足は洗う時間も、使う石鹸もお湯の量も節約できる。つまり、アシミジは小回りのきくSDGsなのだ。


誰か・・・誰か国連に伝えて・・・アシミジはSDGsだと言うことを・・・!


反対に、父・トヨトミは身長が182センチあり、足も長い。だけどトヨトミは自分が大きいことを「大きくて良い!」とか言ったことは一度もなく、自分のことをウドノタイボクだという。

まあそんな失礼な、わたしはウドの天ぷらだって好きだし、きんぴらだって大好きよ。つくれんけど。

そんなトヨトミとトトサンは仲良しで、時間が合えば二人でテレビを見ながらご飯を食べている。ついこの間、こんな会話を二人でしていた。

「トトサンそのジーパンかっこいいのお。トトサンはいつもどこでズボン買っとるん」
「うーん、ぼくはユニクロとか、マツヤとかですね」
「ほう〜いいね。俺もそのジーパン同じの欲しいから買いにいこうかな」
「良いと思います!僕も付き合いますよ!ユニクロならその日のうちに持ち帰れますし」

ソノヒノウチニモチカエル??

トヨトミはポカンとした顔でわたしを見て
「今時の店はその日のうちにズボンくれんのか?」
と聞いた。

「いやいや父ちゃん違うのよ。トトサンはアシミジやからズボンの裾切らんといけんのよ。いわゆる裾上げをせんなん、トトサンは履けないの。裾上げは別の日に引き取りに行かんなんお店もあるん」

アシミジが何か理解はしていないようだったが、トトサンはにはズボンを切らねばならないのっぴきならぬ理由があり、その理由がアシミジの4文字に込められている・・・もしや足短=アシミジ?という結論に自力で辿り着いたであろうトヨトミは

「はは、なかなかおもしい冗談やわ」

といった。

トヨトミが裾上げを冗談だと言ったのは、彼も彼の家族のわたしたちも未だかつてズボンの裾を切ったことがないから。それは足が長いというわけでなく、少し小さめのズボンを買っているからということも理由の一つであるが。

裾上げを知ったトヨトミは
「切った裾どうするん?」
と聞いた。トトサンが
「もう一枚ズボン作ります」
といって、トヨトミがビールをふき出した。

そんな冗談を交わしながらもトヨトミは、大好きな娘婿がアシミジであることを悲観させないように
「トトサンは!顔いいし!性格いいし!スポーツもできるから!足が少しくらいアレでも!プラマイゼロ!」
と鼻からビールを垂らしながら言った。


プラマイゼロが褒め言葉なのかよくわからんが、この瞬間が愛しい人たちによる愛しい人たちのための愛しい時間であることは間違いなかった。

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