幼少期にたぶん奇祭に参加した話

  映画等の影響か、『犬神家の一族』『八つ墓村』など金田一耕助シリーズには因習とか奇祭とか謎の儀式とかっていうオカルティックなイメージがあったんですが、実はそうでもないんですよね。さすがにまだ全作は読めていませんが「金田一耕助ファイル」は通読したので多分間違ってないと思います。けっこうみんな地に足のついた事件で意外でした。
  そしてそんなことを考えていたらふと幼少期のとある記憶を思い出したんです。よくよく思い返したら「あ、あれ奇祭だわ」と思ったのでその事について書いてみようかと思います。金田一先生が見学していたら何かしらの事件のきっかけになってしまうかもしれません……

  あれはおそらく小学校四年生、十歳くらいのことでした。少し肌寒くなる秋の終わりごろだったでしょう。授業の一環で地域のお祭りに学年のみんなで参加しますよと先生からお話があり由来もあわせて説明されました。しかしどんなに先生が工夫なさっても悲しいかなまだ十歳。「お祭り」と言われると盆踊りや花火に出店しか思い浮かばず、肝心の「何が行なわれるか」の説明は右から左へと流れていったのです。ちょっとわくわくしながら隊列組んで皆で歩いてゆきました。はっきりした記憶は無いですが校区の中でもかなり端、十歳からすれば山奥の寂しいところにたどり着きます。ここはどこだろうと思いつつ見回すとそこにいたのは地域のおじさんおばさんとそして大量の藁です。見渡す限り藁、藁、藁。なんなら藁が束になっています。パッと見では俵に見えました。何か祠っぽいものもあったような無かったような。
  さて、そこで子どもたちはひとところに固まってしゃがまされます。何が起こるんだろう?とぽかんとしているとおじさんおばさんが満面の笑みでぶっかけてくるではありませんか。そう、そばにあった藁を。ええ、藁束です!もちろん!!しかも全方位から!視界は全て藁!藁!藁!突然の藁爆弾の集中放火にびっくりするやら藁がチクチクするやらで私は仰天しました。同級生たちはキャーキャー言ってましたがおとなしい子どもだった私は目を白黒させとにかく身を守るのに精一杯、体操座りで最大限に丸くなっていました。出店や花火なぞ夢のまた夢、ばっさばっさと藁をぶっかけられ続けながら「わたしの知ってるおまつりと違う!!」とか「ひどいことを!!」とかで頭がいっぱい。半泣きで時がたつのをひたすら待ちつつ耐えました。気づいたときにはやんちゃな子達はお互いに藁をぶっかけあって元気に遊んでいますし、先生たちもおじさんおばさんもにこにこしながらその様子を眺めています。なんならTVカメラもあり何人かの同級生がインタビューされていましたから、地域のニュースで取り上げられたのでしょう。私はただただ気が抜けてぽかんとしつつ服や髪にひっついた藁を払っていました……。

  さて、小学生の頃の記憶だけでは心許ないので地元のホームページも参照しつつ、あれが何だったのかご説明します。
  西日本には各地によくある話ではありますが、壇之浦の合戦の後の安徳天皇の消息を伝える話なんです。なんと我が小学校区にまで壇之浦から入水なすったはずの安徳天皇が平家の落人たちに助けられて逃げ延びなさっていたとのこと。我が校区はそこそこ壇之浦(現在の関門海峡)から離れています。海か山かと聞かれたら「確実に山かな」と答えるくらいの地域です。小学生なので平家物語の知識はうすらぼんやりしかありませんでしたが、十歳なりに「けっこうな距離では……?」と思った記憶があります。で、安徳天皇が源氏の追っ手にかかりそうになったところを居合わせた里びとが、藁をかぶせてお体を隠し奉り、安徳天皇は無事難局を乗り越えた、という伝説があるのです。地名もそれにちなんだものとなっており、小学生なりに感動した記憶もありました。
  で、あのお祭りはその伝説にちなみ、子どもの健やかな成長を祈って子どもたちを安徳天皇になぞらえて藁をかぶせる、というものだったわけです。あのおじさんおばさんたちは私たちの健やかな成長を願ってくれていたわけです。あの時の私にとってはひどいことをされた!って思った出来事でしたが、まぁ狂犬病注射の犬くんたちと同じだったわけですね。(とやまソフトセンターの狂犬病注射ドタバタ劇いいですよね)貴重な体験でした。今となっては参加したくても参加できませんからね。あのときのおじさんおばさんありがとう。おかげさまで少なくとも今のところ元気に暮らしています。

  それにしても、奇祭や地元の独特な文化ってこう振り返ってみるとと気づいていないだけでけっこう身近にあるものなんじゃないかなと思います。ちなみに金田一先生が見学なさってたら、この騒ぎに乗じて誰か消えていたりするんでしょうね……横溝先生の作品で子どもが被害者なのはあまり見かけないので消えるのは大人なんでしょうけれど。

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