顔のかわいすぎる女には要注意

昨日、ふと思い出したのだが……。


あれからもう12年ほど前になるだろうか。

美容部員をしていたときのことだ。


私にとって、女社会というもののえげつなさを痛感した出来事があった。


①天使のような愛くるしさで近づいてきた童顔女

転職早々、東京への1週間の研修のため一人新幹線に乗り、慣れない土地を彷徨いながらキャリーケースを引いた小綺麗な女性の集団に紛れ込み、彼女らが新たな私の同期と確信し、研修会場にたどり着いた。
私は所属エリアで採用されたのがあなただけだとオリエンテーションで聞かされており、次の研修は大阪でやるので関西圏の子と仲良くしておくと良いとまで事前に助言されていたので、ウロウロしながらその関西圏と思しき人物を探していた。
控室につくと、早速制服に着替え研修室へ向かう数人の女子たち。私は遅れまいと慌てて着替えを済ませ、研修室へ行こうとしたら、「すみません」と一人の女性に話しかけられた。ふわふわのパーマが似合うショートボブの、大きなうるうるした瞳が印象的なとてもかわいらしい人だった。「私、仙台から一人できていて誰も知り合いがいなくて。よかったら、一緒に行ってくれませんか?」と。
私も一人だったので、快諾。その後は食事も休憩時間も一緒にいた。ある夜には、彼女の部屋に行った時に「みんな上手くてこの先やっていけるか不安になりました。もう辞めたいくらい」とポロポロ泣かれ、私まで泣きそうになった。彼女は私よりも2歳年上だったが、童顔だったので当時29歳と言われた時はかなり驚いた。KAT-TUNの中丸くんのファンで、彼の誕生日にはケーキを買ってお祝いをするんだとか、いわゆるジャニオタ系な一面も見せていた。私はジャニーズは高校生になってからすっかり卒業したのでわからなかったが、もう一人、彼女の相部屋になっていた北海道出身の22歳の元バスガイドの子もジャニーズが好きらしく、気がつけば2人が意気投合し盛り上がっていた。
その後、1週間の研修が終わり私は地元へと帰ったのだが、彼女からは時々キラキラな絵文字だらけのメールが来ていた。「いっぱい励ましてくれてありがとうございました(キラキラ)。一人だったから不安で仕方なかったけど、可憐さんはとっても優しくて、勇気を出して声をかけてよかったって思いました(ニコニコ)後期の研修でまた会えるのを楽しみにしてますね(キラキラはあと)」
研修生として配属された百貨店での勤務に大阪での3日間の研修を終え、1ヶ月後に再び東京で6日間の研修があり、彼女と再会した。
「店の先輩たちはどうですか?」と聞かれたので、思っていたより親切な人が多いからありがたいです、と返した途端、彼女の表情が一変。
「え、嘘」と呟くように言った直後、「私なんて研修終わって店舗でタッチアップしてたら、先輩にめっちゃ怒られてすごく怖かったのに羨ましい!   私それが何日も続いたから、中間研修の時に美容課長の前で泣きましたもん!」とまくし立てた。それを聞いていた関西圏の子が、「私可憐さんと研修一緒でしたけど、可憐さんのエリアのトレーナーめちゃくちゃ優しくて、超絶羨ましかったです。うちのトレーナーはめっちゃ怖くて有名な人だから、研修期間が苦痛すぎました」と横槍発言。それを聞いた彼女が、「わかりますー!    めっちゃ苦痛ですよね!   わかってくれる人がいて安心しました!   怖い人がいないとこの気持ちはわからないですよねー!」と妙に嫌味っぽく言い放つ。
何だ、この豹変ぶりは。
その後、彼女はもう一人の別の関西圏の子と相部屋になったことで、その子とつるむように。夜私が彼女の部屋に行こうものなら、「私は将来正社員になって、◯◯先生みたいに美容部員の教育指導をする人になりたいからこの時間は勉強します」と、私に近づくなオーラを放つ。
前はもうやめたいとか不安だとか言っていたのにな。
かと思えば、部屋を出れば「中丸くんがー」と言った単語が聞こえてくる。

あからさますぎて逆に笑えた。
そしてとうとう、挨拶までシカトしてきた。
実習の時、同じグループになった関西圏の50代くらいの同期のオバチャンが、私に対して「色が白くて鼻筋が通った綺麗な顔立ちやなあ。外国人みたいで羨ましいわあ」と言ったのを聞いた彼女が、「そうですね、私は下膨れ顔なんで羨ましいです」と更に嫌味っぽく言い放った。
最終日、今後の抱負を一人ずつみんなの前で話してくださいと言われ、私は全く畑違いの職種からの転職だったことから経験者よりも遅れはとってしまっているが、挽回できるよう頑張りたいというようなことを話したのだが、その時に関東圏エリアの21歳の子が、「私、実は小学校6年間全く学校に行っていなかったんです。学校に行けない自分を責めたこともあったけど、そういう子どもに寄り添える人の存在ってすごく大きいです。すごいお仕事されてたんですね。話聞いてて私、勇気もらいました」と言ってくれた。

例の彼女は、最後まで私に対してフルシカトだった。
もう二度と会わないし連絡をすることもないが、未だに「私、何かしましたか?」感が否めない。
恐らくだが、彼女は多分かなりの負けず嫌いでプライドが高くコンプレックスの塊のような人だ。高卒で以前はGU◯R◯◯INに勤めていたらしいが、私が大卒で異業種からの転職だと知ってから、私は兄といつも比較されてきたとか、ここ数年口も聞いていないくらい仲が悪いとか、親も兄贔屓するから私は働くしかなかったとか。二言目には、「私は人に恵まれない人生」だと言っていた。そしてあれから12年経った今、彼女が正社員になったとか教育指導者になったという話も特に聞かない。
今頃は、推しの中丸くんが結婚発表して発狂でもしてるのだろうかと想像してみたりもするが、今となってはもうどうでも良い話だ。

女はいつどこで豹変するか予測がつかないのが怖い。
この一件で危うく女性不信になりかけた。

②生意気すぎる年下の先輩

研修生として配属された百貨店に、ものすごく感じの悪い先輩Aがいた。先輩といっても、私よりも6歳ほど若かった。当時は短大を卒業したばかりでまだ1年目の新人だというのに、中途で入社した私には初対面から高圧的でとにかく上から目線だった。
「倉庫から袋取って来るだけなのに時間かかりすぎです」「1回で覚えてください」「今言いましたよね?   それくらい自分で考えてください」は序の口。
ある日、私はお客様へのタッチアップをする時に、クレンジングの後スキンケアをせずに下地をつけてしまうという凡ミスをやらかした。接客を終えた私のところに別の先輩B(彼女も私より5歳ほど若い)が来て、ものすごい剣幕で怒鳴ってきた。「可憐さん!   今の人、スキンケアつけましたか?」スキンケアをつけ忘れたのはこの時に初めて気がついた。
「すみません、緊張して飛んでしまってました」と言ったら、「見るからに肌が弱そうな人だったのに、この仕事なめてるんですか?   わからないなら何で聞かないんですか?   プライドですか?」とまで言われて思わず泣きそうに。
「どうした?」と休憩から戻ったサブチーフが間に入ってくれ、「とりあえず話聞くから可憐さんだけこっち来て」と呼ばれ理由を話した。「ああ、それでか……」とサブチーフは理解をした様子。
「確かにスキンケアをつけ忘れたのは良くなかったね」
ああ、怒られるな。そう覚悟し、泣くのを必死で堪えた。
「でも、クイックタッチアップっていってね。急いでいるお客様にはそういう対応をすることもあるんだよ。それに、うちの化粧品はスキンケアつけなかったくらいで肌が大荒れするような粗悪な品じゃないから。品質には充分自信があるものだから、そこは堂々としていればいい。逆に失敗したかもっていう表情してた方がお客様を不安にさせちゃうしさ。仮にそれでもし肌にトラブルが出たって話なら精神誠意謝る。ちょっと聞こえたんだけどさ、仕事なめてるとかプライドがどうとかって言われてなかった?」
はい、そのとおりです。はっきり言われました。
「私からすればさ、そこまで見てて気づいた時点で何でフォローしないのって話よ。それがたとえ自分が接客中だったとしてもよ、少しお待ち下さいって手を止めて後輩のフォローをするのが先輩ってもんでしょ。あとで私あの子らに言っとくわ」
その後、「ミスをしてしまったことはいけなかったけど、あなたは逃げずに最後まで接客した。それはこれからの教訓として、次ミスしないためにはどうしたらいいかを考えていこう。まだ研修生なんだから、寧ろそのバッジがあなたを守ってくれるよ。それが外れるまでは、カンペ見ながらでいいし、『研修中の身ですので』って言えば大抵納得してもらえるからさ。それでもし何か言われたら、先輩に代わってもらったりすればいい。それにしても、あの言い方はないわ。人にワーワー言う前に自分の先輩としての立場をもっとわきまえろっての」
私はサブチーフの事が怖くてこれまでまともに会話が出来ずにいた。が、実はめちゃくちゃ気配り上手で、誰よりも冷静に周りを見ながら適切な判断力で物事を解決に導くすごい人だった。この件を機に、サブチーフは私のことを気にかけてくれるようになったのだが、残念ながら他店への異動になってしまった。
そして私に怒鳴りつけた先輩Bはさすがにヤバいと思ったのか、以前よりマイルドな態度になったが、先輩Aは相変わらずだった。
とある日の朝、私は初めて一人で開店準備を済ませ、開店後に先輩Bが来るという体制で業務をこなしていた。そこへ「口紅を試したいんだけど、ちょっと急いでいるからなるべく早くお願いしたいの」と40代くらいの女性が足早にやってきた。以前から気になっていると持ってきた新色のリップのタッチアップ。急いでいると言われて内心焦ったが、急いでいるときほど落ち着いてという前サブチーフの言葉を思い出し、何とかミスなく終了。「ありがとう、とてもいい色だからこれいただくわ」と購入までしてくれた。「急がせてしまってごめんなさいね。でも、丁寧に対応してくれてありがとう」とその女性は足早に去っていった。その様子を見ていた先輩Bは「今のめっちゃいい感じだったじゃないですか」と言ってくれた。その後、私の接客中に出勤していた先輩Aは、先輩Bが休憩入りして二人きりになった途端、「ちょっと接客がうまくいったからって調子に乗らないでください。私からすれば全然できてません。あれくらいできて当然なので」と嫌味のオンパレード。
この瞬間、私の中で先輩Aは「クソ生意気な先輩面したガキ」になった。
さっきの気分がまるで台無し。モチベーションは下がるわ、ヒールがきつすぎて足引きずっていたら、帰宅後に血豆が潰れてパンプスが血に染まるわで散々だった。
そして、その後先輩Aのブラシポーチのベルトが千切れて大騒ぎしていたので、私はたまたま持っていたソーイングセットで直してさっさと渡したのだが、それもまた気に入らない様子だった。チーフがいたので大人しかったが、後日「裁縫道具とか普通持ち歩かないですよね」「女子力高いアピールやばい」「そんなことより仕事覚えろって感じ」と話していたのを聞いてしまい、とうとう我慢できずにイライラした状態でお会計に行ったところ、お客様の釣り銭の希望を間違えて聞き取ってしまい、再度やり直しに行く羽目に。百貨店なので会計のレジ専任スタッフがいたのだが、その人からもめちゃくちゃ嫌な顔をされて完全に絶不調に。
耐えきれず、私はとうとう仕事中に涙が止まらなくなり、バックヤードでひたすら声を殺して泣いた。
先輩Bが来て「最近頑張っていたから、ちょっと疲れが出ちゃったんですね。ちょっと待ってください」とチーフを呼んでくれた。
そこで私は、「もう辞めたいです」と伝えた。
チーフは「あなたは真面目で優しいから、色々我慢してしまうこともあったと思う。でも、たとえどんな事があっても、私たちは笑顔で店頭に立ち続けなければいけない。もしそれが辛くて耐え難いと言うなら、私は無理に引き留めることはしたくない。残念だけど、あなたの気持ちはわかった。この業界は売れてなんぼ。お客様に商品を買ってもらうためには、時にハッタリや自分に嘘をついてでも売り込むのが仕事。それに罪悪感や後ろめたさを感じたり、自分の力量不足を痛感して辞めていく人を私はこれまで何人も見てきた。あなたは全くの畑違いの仕事から未知の業界に踏み込んだ勇気のある人だし、これまで一度だって弱音を吐かずに休まず続けてきた。きっとあなたにはもっと自分にあった仕事が見つかると思う。無理して続けて体壊すよりも、今はゆっくり休んだほうがいい。具体的な決断はその後でいいから」

結局、私は何日か休みをもらい、その間に専任のトレーナーにも連絡して退職の意を伝えた。
その後、美容課長から直々に電話をいただき、「あなたが辞めてしまうのは残念だけど、人には向き不向きっていうのがどうしてもあるからね。あと、女社会って想像以上に色々あるんだってことがわかったと思う。チーフからも聞いているからあとのことは大丈夫。遠方だからわざわざ営業所まで足を運ばなくても、貸与品は宅急便で返してくれればいいから。力になれなくてごめんね。短い間だったけど、うちに来てくれてありがとう。面接の時のあなた、一番輝いていたよ。これからも希望を見失わずに頑張ってね」と言われた。
辞めたいと思った本当の理由は結局伝えられなかった。伝えられるはずもなかった。
あいつ以外みんないい人だったから(表向きだけかもしれないが)。
スタッフの悪口なんて聞きたくもないだろう。それに、それを言ったところで自分が居づらくなるのは目に見えていた。すべては自分の弱さ、ということにした。実際そうだったし、もっと私が強ければ、多分その小生意気な先輩面したガキもねじ伏せるくらいわけなかっただろう。
先輩Aとか呼んでいたが、辞めてしまえば寧ろもうただのクソガキ同然だ。

久しぶりに思い出して腹が立って勢いで書いてしまったのだが、先輩Aはパッと見とても華やかでセンスもよく、めちゃくちゃ可愛かった。要領も良く、無駄のない接客と堂々とした立ち振舞はすごいと思ったが、お客様が帰った後、いつも悪口を言っていた。「あの人また彼氏できたらしいですよ」「対して綺麗でもないのに。何でああいう女に限って男に切れ目ないんですかね」等言いたい放題。

これが女社会の現実か、と思った瞬間だった。末恐ろしくて、私はもう二度と女だらけの業界にはいかないだろう。

たった4カ月足らずでリタイアした私だが、美容部員として働いた経験自体は良かった。

でも、何年経っても変わらないジンクスが生まれた。



顔のかわいすぎる女には、要注意。

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