見出し画像

心が弱り「うつくしいもの」に飢えていた そんな秋だった 【KOZUKA 513 shop paper vol17 2020/10】

**********
わたしみずからのなかでもいい
私の外の せかいでもいい
どこにか「ほんとうに 美しいもの」は ないのか
それが敵であっても かまわない
及びがたくてもよい
ただ 在るということが 分かりさえすれば
ああ ひさしくも これを追うに つかれたこころ
(八木重吉 「うつくしいもの」)
 
この世で最も美しいメロディはなにか
ひとそれぞれに好みはあるし 多様なジャンルの中からこれと決めることも難しい
どんな心の状態で聴いているかによっても随分と違うのだろうなと思う
ある人はマーラーの「adagietto」だと言うし 
ある人はジャコとトゥーツの「Three Views of Secret」だと言う
答えはどこにもない その人その時で違う
それでもやはり「ある」のだろう
 
「Londonderry Air(ロンドンデリーの歌)」もこの世で最も美しい歌の一つだと思う
アイルランド民謡であり「Danny boy」として知られる
映画「ナビィの恋」(1999年 中江裕司 監督)でのそれは 大太鼓とオルガン・サックスの素朴な島人バンドの伴奏と 山里勇吉の島唄独特の節回しの歌 際立って美しい
 
この世で最も美しいメロディ この世で最も美しい絵画 この世で最も美しい風景
それはどれなのか どこにあるのか 結論が出るものではないことはわかっている
それでも この世で最も美しい何かを求め続けることは 人の生きる喜びなのだと思う
**********


「ナビィの恋」の「Danny boy」は、演奏や歌の美しさもさることながら、訳詞の美しさにも心打たれる。
  わが児(こ)よ いとしの汝(なれ)を  父君の 形見とし
  こころして 愛しみつ 今日までを 育てあげぬ
  ふるき家を 巣立ちして 今はた 汝はいずこ
  よわき 母の影さえも 雄々しき汝には 見えず
 
  涯しもなき彼(か)の路の 彼方(あなた)に汝はゆきぬ
  空しきわが家を見れば 亡き父君おもわる
  足もとの草むらより 立つはさえずるひばり
  ああわれも強くたちて わが家の栄誉(ほまれ)を守らん
                        (訳詞 津川 主一)

そういえば、CELTIC WOMANの「YOU RAISE ME UP」は、「Danny boy」へのオマージュとして作られた曲だという。いつかの白虎隊を題材にしたテレビドラマのエンディングで流れた「YOU RAISE ME UP」は、あまりにも切なく、あまりにも美しかった。

マーラーの「adagietto」は、映画「タンポポ」(1985年公開 伊丹十三監督)のワンシーンで使われていて、それはそれは印象的だった。
こんな美しい曲がこの世にあるのか、と心から思った。

Jaco Pastorius, Toots Thielemans 「Three Views of a Secret」は、ライブバージョンだといろんなミュージシャンの主張とかが濃くて、ちょっと騒々しいものになってしまうのだけれど、
アルバムバージョンで聞いた時のベースとストリングスのうりののっかるハーモニカが、とてつもなく美しいと感じたのだ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?