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弁当と給食

 毎朝弁当を作っている。子どもたちを起こす30分と少し前、スマホのアラームが鳴る前から目は覚めている。寝坊したらどうしようという思いが覚醒に繋がっているのだが、目は覚めても結局布団の中で10分ほどうだうだとしてから起きるのが常だ。

 冬のキッチンは寒く、夏のキッチンは暑い。今の時期はエアコンを入れて5分ほどして部屋が多少暖まってきたらエプロンをつけて弁当を作り出す。早めに冷ましたいご飯をわっぱによそって粗熱をとる。夏場はできるだけ早く冷ましたいので保冷剤をありったけ使う。冷凍食品も使いながら、メイン、副菜、野菜のおかずと簡単に用意していく。

 子どもが幼稚園に通い出してから弁当作りが始まった。学生から独身時代まで弁当が必要な時も親任せ、夫は勤務が不規則だったこともあり日常的に弁当を作ることはなかった。言い尽くされている事だが、自分で作るようになって初めて親のありがたみを知った。

 思い返せば自分は偏食がちな子どもだった。幼稚園、小学校で出てくる給食が食べられず、泣きながら昼休みまで食べることも多かった。肉の脂身が嫌い、魚介も苦手、育ち盛りの子どもに食べさせたいようなものは大嫌いだった。中でもイカが苦手で、イカリングの入ったトマトスープは見るのも無理だった。同じように好き嫌いの多い級友と一緒に昼休みまで残されてそれでも食べられず、2人して先生の隙を見てこっそりゴミ箱にイカのかけらを捨てる罰当たりもした。

 今もイカは苦手だが、食べられるものは大幅に増え、日常で困るような事はなくなった。幼少期に学校で無理に食べさせられる経験をした大人も多いだろうが、今でも思い出すのが辛い記憶だ。現在の教育方針では無理に子どもに食べさせることは稀になってきているようだが、私も自分の経験からあまり無理やり食べさせるようなことはしたくないし、しても意味がないと思っている。

 上の子が幼稚園の時だった。転勤を繰り返していた頃で、家と共に子どもの幼稚園の転園先も探していた。幸い土地勘もあり友人もいる地域だったので、友人親子の通う古くからある大きめの私立の幼稚園に決めた。それまで通っていた園がものすごくお勉強に特化した園だったので子どもには合わず、のびのびと遊びながら友達を作れたらいいなとの思いがあった。

 発達がゆっくりで引っ込み思案な我が子だったが、それでも毎日頑張って幼稚園に通っていた。きょうは〇〇ちゃんとあそべた、△△くんにいじわるされた、××がむずかしくてできない……と、しんどいこともある幼稚園生活を送りながらも休むことはなかった。でもある日、幼稚園に迎えにいくと泣いていた。先生に呼ばれて別室で話を聞くと、給食で吐いてしまったと。その園は週に2回弁当を持参して、あとの3回は給食が出るシステムだった。私と同じように偏食な子なので、苦手なものだったのかな……と、片付けなどでご迷惑をおかけしました、と謝ると先生は、
「もうみんな食べ終わってるのになかなか食べてくれなくって。スプーンを口につっこんだらえずいて吐いちゃって」
と苦笑いしながら説明した。
私は顔に出さないように苦労しながら混乱していた。無理に口に突っ込む?昔ならあったかもしれないが、今の時代に無理やり食べさせるなんてありえるのだろうか……。聞くと園は年配の園長の方針で給食を残させないよう、居残りしてでも食べさせる昔ながらの方針をとっているとのことだった。それにしても吐くほど口に突っ込むなどやってはいけないことではないのか。説明を受けながら何度も抗議しようか悩んだ。先生は微塵も悪気はないようだった。結局私はぐっと言葉を飲み込んで、汚したことを詫び、少食であまり食べられない子なのでできるだけ給食は減らしてほしいと頼むにとどめた。その日に同じ園に子どもを通わせている友人に相談したが、やはり子どもの口に無理やり食事を詰め込むのはありえないと憤慨していた。

 自分が子どもの頃に辛かった思いをさせたくなかった。無理にさせようと思ってもどうしてもできないことはある。少しずつ大人になるに従って克服することもあるし、それを大人の勝手で無理やりさせるべきことではないと思っていた。転園も考えたが、結局その園で卒園まで過ごした。弁当の日はできるだけ子どもの好物を食べやすいよう少しずつ入れて、給食は残してもいいし、最初に少なめによそってもらうよう念押しした。先生は給食以外の面ではよく子どもを気遣ってくれ、卒園後も引っ越しするまで数年間年賀状を送ってきていた。

 今は夫、子どもたちの3つの弁当を作っている。偏食がちだった上の子はびっくりするぐらい頑張ってかなり偏食がなくなってよく食べてくれるようになった。逆に幼い頃ほとんど偏食しなかった下の子は弁当にあれは入れてくれるな、これを入れろと注文が多い。弁当作りは大変だが、それでも我が子が嫌いなものを入れずに作ることができる。少しでも楽しく美味しく昼食の時間を過ごせるよう、今日もあれこれ頭を悩ませながら弁当の献立を考えている。

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