旧統一教会に片足突っ込んだ時の話 前編

もうかれこれ四半世紀前くらいの話なので、正直記憶も大分曖昧だし今とは違っていることも多いだろうとは思うし、もしかすると地域や何かでも違うかもしれないけれど、あくまで私が経験した話。

当時の私は大学受験にことごとく失敗し、仕方なく専門学校に入学すべく東北の片田舎から東京へと出てきた。特に友人も親戚もいない中での初めての東京ひとり暮らし。学校にもバイト先にも馴染めず、高校時代の友人は皆地元の大学に行っていたため向こうがするのは大学の話。今にして思えば友人達は何も悪くないのだが、大学に行けなかったという負い目もあって次第に地元の友達とも連絡を取らなくなっていた。
そうしてやってくるのは孤独。東京に友達はいない、地元の(大学に行っている)友達とも話したくない、大学に落ちた上結構無理を言って上京したので親にも泣きつけない。そんな状況でただただ辛い日々だった。

そんな時に知り合った人からセミナーに行ってみないかと誘われた。当時の私はセミナーがどういうものかもよく分かっていなかったけれど、今の自分がこうなのは自分の性格が良くないからで、その性格をいい方に変えられるなら、と行ってみることにした。
行ったのは渋谷駅からちょっと歩いたところ。東急ハンズの少し先にあった建物の中の会議室のようなところ。そこで私はAさんという人を紹介された。
Aさんはぽっちゃり型の優し気な女性。Aさんの説明によると、聖書を読みながら色々学んでいくとかそんな感じだった(うろ覚え)。
一通り話を聞いて、私は気になっていたことを訊いた。

「これは宗教ですか?」

Aさんははっきりと、「違います」と答えた。


それから、私はそこに通うようになった。確か、月に2、3回くらいで月謝は15000円くらいだった気がする。もっと高かったらやらなかっただろうし、渋谷という立地上まあそのくらいするよなと納得してしまったので、上手い価格帯だったんだろうなと思う。
正直、どんな話をしたかほとんど覚えていないのだけれども、違和感というか圧のようなものは最初から感じていた。端的に言えば、私の話を聞く気がないな、ということ。向こうに完全な正解があってそれ以外は一切認めない、といった空気があった。とはいえ当時の私はまだ若かった上に東京で話せる人がほとんどいなかったことから、そんなところでも毎回通っていた。


明確な転機は数ヶ月後に訪れた。
なぜそんな話になったのかは覚えていないのだが、死んだら人間はどうなるのか、という話になり、確か死後の世界があってそこでずっと過ごしていくとかそんな内容だったと思う。
けれど私は輪廻転生を信じているのでその旨を告げると、「輪廻転生はない。死んだら人間は二度と転生することはない」と言われた。しかも、こうだから輪廻転生はない、ではなく、論理も何もない中で断言された。
さすがに私もそれに対して、はいそうですか、とは言えなかった。納得出来ない、という態度は示した(向こうに全く聞く耳を持ってもらえなかったので何か言うことははなから諦めていた)。

ちなみに私が輪廻転生を信じる理由は大きく分けて2つある。
ひとつは、質量保存の法則に則っている、と感じるからだ。
私は高校1年の時に物理の壁に阻まれ理系行きを断念した人間なので以下ふわっとした説明になるが、仮に生まれ変わりが全くないと仮定した場合、生命が生まれるエネルギーはどこから出てくるのかという疑問が生じる。地球全体で人間だけではない動物植物全ての生き物が生まれるエネルギーがゼロから生じるのであれば、それはどこから出てくるものなのか。宇宙全体から見れば地球のエネルギーなど些細なものかもしれないけれど、蟻の穴から堤も崩れる、とも言うではないか。軽視は出来ないと感じている。

そしてもうひとつ。これは個人的にかなり大きなことで、文字通り死活問題だったのだが、仮に輪廻転生がなかったのなら私は生きている理由が無くなってしまうのである。少なくともあの当時の私はそうだった。
私は子供の頃からうっすらとした希死念慮を抱えながら生きていた。明確に何が辛いとかそういうことがなくても、死ねるなら死にたいと思っていた(し今もそれは消えていない)。
そんな私がなぜ死なずに生き延びていたかといえば、自ら死を選んだ場合生まれ変わった時を考えると恐ろしかったから。
人間は平等ではない。親は選べないし生まれる場所も選べない。見た目や性格、能力だってある程度は生まれながらにして決まってしまう。そしてそれらを決めるのは前世の行いだと私は思っている。それは別に何か根拠があるわけではなく、単にただの運ですとか言われるよりは前世の自分の行いですと言われた方がまだ飲み込めるというだけのことではあるが。でも嫌じゃないすか? 自分の努力ではどうすることも出来ない不幸が立て続けに襲った時に、あー今回たまたま運のない人生だったね、って言われるの。しかも生まれ変わりがないなら運のないまま終わって二度とやり直しもきかないわけで。

という2つの理由で私は輪廻転生を信じているし、ここを否定されると生きていることを否定されるのと同義くらいだったので、死後の世界の話は一切受け入れなかった。

そして今思うと、その辺りからAさんや他の人の私への態度があからさまに変わってきたなと思う。その辺りはまた後日改めて。