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好きな絵画のはなし

なんだろうね、急に話したくなったよ、好きな絵画のことを。
小さいころからいろいろ美術展や博覧会のようなものに行っていたけれど、今回は格別に好きな絵画と好きな画家のはなし。月岡芳年なんかも大好きだし明治に入ってからの浮世絵なんかも独特の味があって大好きなんだけど、好きな画家も好きな絵画も西洋絵画です。

まずは好きな絵画。好き、というのは語弊があるかもしれない。正確に表現するなら幼いころから脳裏に刷り込まれている絵。
アンリ・ルソーの「戦争」。

 wikiにもある通り、アンリ・ルソーの絵は上手いのか下手なのかよくわからない。そんな彼の絵の一つ、「戦争」。よく見てもらったらすぐわかるけれど、剣を持つ手がめちゃくちゃだったり松明も松明なのかガマの穂なのかよくわからないのだがそれはともかく。実家の机の上にこれのポストカードが写真立てに入れて飾られていた。何せ日常使いする机の上だから、文字通り生まれたころから実家を出るまでずっとこの絵を見てきた。
 この「戦争」という絵、中央に描かれるのは馬なのか神話の怪物なのかよくわからない黒い生き物とともに駆ける剣とたいまつを持つ少女。彼女の踏みしめるものは大地ではなく無数の屍であることから、この少女が不吉な存在であるのだろうな、というのは幼いころから何となくわかっていたのだが納得いかないのは彼女の表情。怒りや悲しみを読み取ることもできるが、目をむいて歯をむき出しにして笑っているようにも見える。
 この絵のタイトルが「戦争」だと知ったのはまだ年齢も一桁のころだったが、この絵のおかげですっかり「戦争(厄災)=無邪気なもの」のイメージが出来上がっていた。それが影響してか、私のイメージやその創作物の中では破壊や混沌(そしてそれをもたらす者)はいつも無邪気で子供のように笑っている。どこまでも楽しそうに、しがらみも無いのだと言わんばかりに笑い、駆けまわり、悪事を悪事と理解したうえで遊ぶようにふるまっている。
そういうことに気づいたのはつい最近で、今更もう矯正のしようもないしそうする必要もないので厄災の擬人化は今日も子供のように笑っている。
何もかもが不気味で、不条理で、アンバランスで、それ故に私に刻み込まれた絵画である。

 好きな絵画がアンリ・ルソー「戦争」だとしたら。好きな画家は?
 実は好きな画家はも数人いてイラストレーターを含めるのならアルフォンス・ミュシャやビアズリー、クリムト、先に名を挙げた月岡芳年なんかが筆頭なんだけど、やっぱり何度回ってどこまで行っても最後の最後はヒエロニムス・ボス!

↑Web Gallery of Artからは、解像度は低いのだけれど彼の作品をたくさん見れます。
 ボスの絵は異様に緻密な書き込みと、陽気な色使い、だけどどこか陰気な感じのする肢体と面持ちの人々、意味不明なクリーチャー。見どころはたくさんあるけれど、そのすべてが合わさって異様な趣でこちらに焼き付いて離れない。結果として「なんか変な絵だな……」という記憶が残る。
 数年前に絵画「バベルの塔」を中心にしつつネーデルランドの幻想的な版画を集めた展覧会があって、これなんかもボス風味の絵がたくさん見られて面白かった。
 ボスの絵も幼いころからの付き合いで、親の本棚に収められていた彼の絵「快楽の園」を表紙にした本を見続けて刷り込まれている。ただ、アンリ・ルソーの絵は他のを見てもあまりピンとこなかったんだけれど、ボスの絵は見れば見るほどどの絵でもなにかグッときて今では個人的に好きな画家トップに躍り出ている。多分これが覆されるには長い長い時間とたくさんの私自身の学習が必要な気がする。(別に無理に覆す必要はないのだけれど)
 ボスの絵は、本当にふざけてるんじゃないかってくらいの変な生き物(生き物なのか……?)がいっぱいいて、そのくせそれが宗教関係の絵だったりするところがもっと面白い。これほんとに教会に飾られてたんだ……みたいな驚きがある。何食べたらあんな不思議な生き物思いつくんだろう。
 ボスの絵はどれもこれも、なんというかうるさそうで良い。悲喜こもごも、いろいろな声が聞こえてきそうな絵。変な生き物や変なオブジェの音が沢山聞こえてきそうで、にぎやかで、陽気で、あっけらかんとしていて、なのに異様なオーラというか禍々しさがあって、大好きな絵。大好きな画家。

 ちなみに、今年の自室のカレンダーはボスの絵をあしらったものです。

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