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父が私に望むこと
望むなんてちょっと重い表現だなと感じるけれど、
望まれていると受け取ったのでこう書かざるを得ない。
午後7時。
父と母に呼ばれ、リビングで3人腰を掛ける。
父が風呂敷から祝儀袋を出して私に差し出す。
そう、両親からの”再就職祝い”。
私の家は決して貧しくないし、都内の私立大学に通わせてもらったことは
本当に今でも感謝している。
私には姉がいるが、姉は辞めることなく働き続けているので、
このお祝い金は貰っていない。
母も専業主婦とはいえ、結婚前までは働き続けていたので、
母の両親から”再就職手当”など貰っていない。
私にとってそのお金は、重かった。
傷病手当・失業手当・再就職手当・医療費控除・年末調整の保険申請….
ありとあらゆる社会制度を調べ、
納税額を少しでも減らすことに妥協しなかった私。
貰えるものはとことん貰うというスタンスは固かった。
だけど、このお金は全然違う。
嬉しさより恥ずかしさの方が上回った。
そして父の言葉は続く。
「人生の教訓として心にしまっておいて欲しいことがある。
たとえ職場で自分が200%正しかったとしても、キレてはいけない。
じゃないと前の職場の二のまえになる。
感情のままに動くと全て自分に跳ね返ってくる」
父はそんなにきつい口調でもないし、穏やかな表情だったけれど、
私は圧力を感じた。
なぜならそれはアドバイスではなく、警告のように感じたから。
”前の職場の二のまえ”
聞きたくなかったし、自分として
親にはお金はいらないから過去を全肯定されたかった。
無償でお金をもらうこと
アドバイスを受けること
実家暮らしの息苦しさを感じた。
一人暮らしの時、家賃・光熱費・通信費・火災保険・それらの定期更新料….
「生きるってこんなお金がかかるんだな」
「実家暮らしの人は交際費すごいなぁ」
「自分は実家暮らしの人より苦労している」
こんなことずっと考えていた。
だけど、誰かの生活の中でお世話になるということは、
生き方に制限がかかること。
共存と依存がわかりにくい形で形成されること。
この複雑さが胸を締め付けられた。
……社会人に戻るのがとても不安。
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