finalvent読書会 『嵐が丘』のあらすじとして一般に流布される凡庸な要約

読書会の材料として、『嵐が丘』のあらすじとして一般に流布される凡庸な要約をまとめておく。

ただし、これは現代日本では、「ネタバレ」とも言われうるものなので、そうしたものを嫌悪するなら、以下を読まないこと。





では。




『嵐が丘』のあらすじとして一般に流布される凡庸な要約


  • 1757年 「嵐が丘」屋敷、アーンショウ家の長男(嫡子)ヒンドリー・アーンショウが生まれる。また、後に家政婦となるエレン・ディーン(ネリー)が生まれれた。

  • 1762年 「鶫が辻」屋敷、リントン家の長男(嫡子)エドガー・リントンが生まれる。

  • 1764年 おそらく、ロマの子供であろうヒースクリフが生まれる。後に彼の正妻になるイザベラ・リントンが生まれる。

  • 1765年 嵐が丘では長女キャサリン・アーンショウが生まれ、鶫が辻では長女イザベラ・リントンが生まれる。

「嵐が丘」屋敷のアーンショウ家の当主がリヴァプールでロマの子と思われる孤児を拾い、嵐が丘に連れてきて、可愛がる。アーンショウ家の長男ヘアトンと長女キャサリン、ヒースクリフ、家政婦の娘ネリーはほぼ同年齢である。キャサリンとヒースクリフは仲良く山野で遊びすごす。

  • 1771年 アーンショウ家の当主がリバプール出張のおり、孤児ヒースクリフを広い嵐が丘に連れてくる。彼はヒースクリフを可愛がる。

  • 1773年 アーンショウ家の当主死去。当主となったヒンドリーはヒースクリフを下男の身分にする。

アーンショウ家当主の死に、ヒースクリフは長男ヒンドリーによって、下男身分とされ、冷遇される。キャサリンはヒースクリフの状態を改善すべく家的な権力を持つために近隣、鶫が辻屋敷、リントン家のエドガー・リントンとの結婚へと踏み切るが、ヒースクリフは愛するキャサリンに裏切られたと思い、嵐が丘屋敷を去る。

3年後ヒースクリフは、なぜだが、資産家の紳士となって帰郷し、自分を冷遇した者たちへの復讐と、キャサリンの獲得を目論む。だが、キャサリンは死んでしまう。

それでも、ヒースクリフの復讐心は止まらない。ヒンドリーは、ヒースクリフによって破滅させられる。ヒースクリフがリントン家エドガー・キャサリン夫妻への復讐のために結婚相手に選んだ、その娘のイザベラ・リントンは、ヒースクリフの元を去る。が、その息子と、キャシー(キャサリンとエドガー・リントンとの娘)とを結婚させて、嵐が丘屋敷と鶫が辻屋敷の2つを合法的に奪い取る。

このようにして、ヒースクリフは自分を冷遇した者たちに復讐を遂げるが、最後には復讐のむなしさを悟り息をひきとる。残されたキャサリンの娘キャシー・リントンは、エドガー・リントンの息子ヘアトンと結ばれた。

以上。

実は、こうした要約では、『嵐が丘』の物語の本質はわからない。作者エミリー・ブロンテは、あえて、こうした凡庸な物語に映るように、二重にも信頼できない語り手(Unreliable narrator)を仕組んでいる。

文学はどのように読まれてもいいが、今日、『嵐が丘』を読むということは、「物語というものが通俗的な物語として読まれることへの批評」を内包することに、改めて驚くことにある。


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