『トニオ・クレーゲル』第2章のキーとしてのインゲとマクダレーナ

第1章の主題としてのハンス

トニオ・クレーゲルは、クレーゲル家というドイツ北方系の裕福な商家に生まれた。が、彼の気質は、商家の血筋とは異なり、イタリア系の母の血筋からか、芸術的なものであったが、同時にその気質は北方のバルト海の海との関連も暗示されている。彼は、子供時代に、詩作やヴァイオリン演奏に楽しみを見出していた。こうしたトニオの芸術的感覚は、彼を取り巻く同級生や市民社会の目には異端なものだろうと自己認識もしていた。その矛盾の投影としての模範像は彼の同級生ハンス・ハンゼンであった。そこには、少年期特有の同性愛の感覚もあり、小説では呼称との関連で上手に描かれている。同性愛は対象になろうとする欲望でもある。市民的なハンスは、芸術家的なトニオとは正反対の人物として描かれる。このハンスが第1章の主題である。

第2章の主題としてのインゲ

第1章が14歳で、第2章が16歳となり、男子の第二次性徴期が重なる。トニオはインゲという少女を「愛する」としているが、異性愛であるかは読み方が難しい。「ハンス・ハンゼンを見つめながら、ときに感じたのとは比べ物にならない強い感情だった」として異性愛の衝動を暗示させてはいる。このインゲが第2章のモチーフであるが、その造形はハンスの類型であり、変奏に近い。

終結のモチーフとしてのマクダレーナ・フェアメーレンの動的表象

しかしむしろ、変奏として重要性は、マクダレーナ・フェアメーレンである。ハンスやインゲが欲望の対象として描かれるのに対して、彼女はどちらかというとダンス教室での動的な事象として描かれる。トニオはこの事象において転び、そのことで「転んでばかりいるあのマクダレーナ・フェアメーレン」との関連性における。この動的な表象はこの物語のもっとも重要な点であると思われる(最終部に関わる)。少し踏み込んでいうなら、マクダレーナ・フェアメーレンはトニオの回帰的な同性愛的な安逸なのだろう。

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