finelvent読書会 初心者コース。『ジョゼと虎と魚たち』はどういう小説か。なにが面白いのか。

『ジョゼと虎と魚たち』はどういう小説か。なにが面白いのか。

『ジョゼと虎と魚たち』はどういう小説か

『ジョゼと虎と魚たち』は、田辺聖子の短編恋愛小説で、本作を表題作とする短編集に含まれている。発表されたのは、1984年『月刊カドカワ』6月号。翌年、角川書店より同名短編集に収録された。話は、脚の障害で歩行できず、外出をほとんどしたことがない、山村クミ子という美少女(とはいえ、実際は25歳)と、大学生・恒夫との純愛を描くラブストーリー。クミ子は恒夫との関係のなかで、自分を、「ジョゼ」と称するようになる。物語の場所は大阪。二人は大阪弁をしゃべる。

田辺聖子とはどういう作家か

作者の田辺聖子は、1928年(昭和3年)、大阪府大阪市、生まれ。家は祖父の代から写真館を営んでいた。子供の頃から、古典文学を含め、文学に傾倒した。『少女草(をとめぐさ)』という手書きの同人誌を作っていたほど。現代なら、疑いようもなく、文学フリマにいた。とはいえ、時代は、戦中世代にあたり、少女時代は軍国主義のうちにあった。

戦争で、写真館は失われ、父親も死んだ。母を支え弟と妹を食わせるために、小説家の希望をいったん置いて、19歳から金物問屋に勤めた。小説を諦めることはなかった。文芸誌に投稿しては落選し、原稿は行李(とりあえず、でかいトランクのようなもの)いっぱいにたまった。36歳で芥川賞を取った(1964年)。曰く。

それでもなんで書き続けることが出来たかっていったら、絶対に絶望しなかったから。諦めたそこで終わり。めぐりあわせの悪さを嘆いたってしょうがない。今はこうでも、この先は自分の好きなことをやれるかもしれないし、今やっていることが見つかるかもしれない。そう信じたんです。
 人生ってね、自分で何もかも選べるものと違う。
 勝手に向こうからやってくるものなんですよ。だから柔らかな心で大きく迎え入れた方がいい。めぐりあいを愉しんだらいいんです。そうすると、そこから開けてくるものが必ずあるから。
(『歳月がくれるもの』)

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芥川賞を取ったのは、1964年で、この語りからすると、20年近く暗中模索のようでもあるし、実際そうとも言えるが、その間、少しづつ作品は評価されてはいた。

その間、結婚もしなかった。が、芥川賞を取った二年後、1966年に医師の川野純夫と結婚(事実婚)。川野(こと、カモカのおっちゃん)は1924年(大正13年)、奄美大島の生まれ。医学部を卒業後、神戸市兵庫区で皮膚科の開業医を営んでいた。前妻との結婚は1953年(昭和28年)。同郷の川野彰子で、彼女は結婚後、作家となった。処女作『色模様』は1962年第47回直木賞候補にあがっているが、同年に子供4人を残して死去。田辺聖子との縁も文学から。彼女は、2019年91歳で死去。

さて、田辺聖子が「どういう作家か」という問いに戻るなら、間違いなく優れた現代作家で、私は、その特徴は、徹底的な源氏物語読みにあると思う。日本人の男女を1000年のスパンで見つめていた作家であった。

余談だが、老いてもかわいい人だった。声が上品でかわいい。料理もうまかった。

『ジョゼと虎と魚たち』は何が面白いのか

世界から世の中の人から、悪意をもって投げ捨てられた女が、ひとりの女として生きて、恋に逢う物語ということ。そして、男というものの、ある本質(巧まざるやさしさ)を描いていること。それらは、この世界にあって、稀有ものであるのに、本質的であること。それが文学でしか描けないなにかであること。

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