finalvent 読書会 『八十日間世界一周』第4週! 合衆国の原型

『八十日間世界一周』はアラブ世界からインド、東南アジア、中国、日本と、西から東に回ることで、欧州世界における「アジア」的なイメージをなぞっていく、あるいは、マルコポーロのように西から東に向かう未知の世界という印象をなぞっていく。こうした像は、基本、エキゾチシズムである。が、アメリカはどうか。というと、アメリカも、基本的に未開の、異質な世界として描かれていて、これが欧州という近代世界から見たアメリカ、つまり、植民地を脱した国として描かれていておもしろい。

こうした点で興味深いのは、サンフランシスコの政治的民衆とモルモン教徒である。前者では、選挙の集会で「大統領の選挙か?」という問いに「治安判事の選挙」としている会話に集約されるだろう。この会話の面白さは、「治安判事」=un juge de paix (平和の判断という含み)なのに人々が揉めているということだろう。

前者についての基本的なイメージは、1861年から1865年にかけて南北戦争からまだ日が浅いというイメージだろう。リンカーンが暗殺されたのも1865年であり、こうした世相のイメージがこの作品でのアメリカのイメージの核となっていると思われる。時代的には、『復興の時代』とされる。

後者、モルモン教徒への言及で連想させるのは、ジョン・スチュアート・ミルの『自由論』である。同書ではかなり印象的に米国でのモルモン教徒について議論されている。この出版が、1853年で、ミルが亡くなったのが1873年というようにまさに『八十日間世界一周』の年号と重なる。同時代の精神圏内にあったと言えるだろう。

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