読書会 『ゴリオ爺さん』第1章の読み方

いわゆる世界文学になじんでいない方向けに、ごく簡単に、『ゴリオ爺さん』第1章の読み方を説明します。

『ゴリオ爺さん』の読書では、出だしがしばしば「鬼門」と呼ばれている。光文社文庫の訳者あとがきにもこうあります。

今でも忘れられないのですが、最初の打ち合わせで光文社の編集部から受けた注文は、えてして古典と呼ばれる作品の冒頭部分は読みにくいけれど、とりわけ『ゴリオ爺さん』のそれは読みにくい、ここをなんとか読めるようにしてほしい、というとても難しい注文でした。

光文社『ゴリオ爺さん』

ここは、率直に言うと、読書力が試される場所です。情報が多いわりに、つまらない、ということです。話がだらだらして何が言いたいかのかさっぱりわからない、という感じでしょうか。

そうなる理由は、物語の仕掛けが理解できていないからです。仕掛けというのは、2つ。世界構築と登場人物設定です。

『ゴリオ爺さん』の「鬼門」もつまるところ、それだけです。世界はとりあえず、1819年のパリの安下宿屋ヴォケール館。屋根裏部屋付き三階建て。登場人物は、以下にまとめました。

まず、第1章では、ヴォケール館の住人 10名の名前を覚え、そして、そのキャラを掴むことが重要です。各キャラの面白さこそが、この章の面白さなのです。これをもとに、これから事件が勃発するのですが、その事件を面白くするために、このキャラが設定されているのです。つまり、伏線がいっぱいあります。

次に、ゴリオ爺さんの娘二人。

とりあえず、以上、12人。それと、実際上の主人公ラスティニャックの関連人物もできれば覚えましょう。単純に言って、暗記力が問われてしまいます。

名前を覚えるにあたって、やっかいなのは、別称があることです。ウジェーヌ・ド・ラスティニャックの場合、ウジェーヌだったり、ラスティニャックだったりします。

以上が、光文社文庫46ページまでの読解ポイントです。ここまでが「一八一九年十一月末、この安下宿の状況というのはおおむねこのような様子だった。」ということです。

ここから第一章の後半は、ラスティニャックが社交界に挑もうとする物語とゴリオ爺さんと娘の物語が始まります。

実は、『ゴリオ爺さん』という小説が、何の小説なのかというのは、この第1章の後半から始まります。物語の軸は二つあります。1つはラスティニャック青年の青春物語、もう1つはゴリオ爺さんの悲劇です。

こうしたストーリー展開とは別に、『ゴリオ爺さん』の面白さは、通俗的な世間知のセリフに溢れていることだ。現代では、ちょっと言いづらい社会の本音がいろいろある。例えばと、めくると。

パリでは誰かを訪れる際には、それが誰の家であれその家の友人たちから、その家の夫や妻、子供の噂を聞かずして、絶対にその家を訪れてはいけなかった。

同上

これは、意外と現代の都会生活や会社生活でもあてはまったりするでしょう。

Bonne lecture!

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