『トニオ・クレーゲル』解題

『トーニオ・クレーゲル』(Tonio Kröger)は、1903年発表に発表されたトーマス・マン(Paul Thomas Mann、1875 - 1955)の中編小説である。原典はドイツ語。タイトルの表記は、最初の邦訳『トニオ・クレエゲル』または『トニオ・クレーゲル』が定着しているが、新訳では現代ドイツ語発音を写して『トニオ・クレーガー』が主流になりつつある。

年齢的には、トーマス・マンが28歳のときの作品であり、20代最後に青春の終わりを描くという点では、29歳で『風の歌を聴け』(発表は翌年)を書いた村上春樹が連想される。

あらすじ前半

物語の舞台は20世紀初頭の北ドイツの町リューベックで、主人公のトニオ・クレーガー裕福な商人の息子であり、自身の芸術家的な志向に悩む。

彼は、北ドイツ的な仕事に堅実な父と南の地方(イタリア)出身の母の遺伝形質を受けている。これの2つが、父の「クレーガー家」と、イタリア語感の「トニオ」に表現されている。一般的なドイツ人名であれば、作者のように「トーマス」のはずである。

物語は、同級生のハンスと帰り道の光景から始まる。ここには、芸術家志向のトニオと、市民(der Bürger)の対立的な疎外感と同性愛的な郷愁が描かれている。

トニオは長じて作家(30代近い)となり、南ドイツのミュンヘンに居を構えリザヴェータという女流画家と知り合う。ここでも、芸術家と市民の対立が青春の風景で描かれる。

その後、トニオは北に向けて旅に出るが、故郷リューベックに立ち寄ると、自宅は図書館になっている。ホテルでは指名手配中の詐欺師と間違えられる。物語は後半に続く。

(2023/03/13初稿)


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