『トニオ・クレーゲル』第5章と第6章の位置づけ
『トニオ・クレーゲル』第5章と第6章は、ソナタ形式の再現部ではある。ハンスとインゲ以外の思い出が残骸となる様子であり、つまりは、トニオ自身の過去を向かう契機となっている。
2つの論点があるだろう。
・今後の「デンマーク」の意義
・短編的独立性
まず、「デンマーク」の意義だが、リザヴェータへの言葉に示されている。
バルト海の構造的な象徴は、これまでの、トニオ=南、クレーゲル=北方的市民、という対立に、さらに北方の原点、つまり、ハンザ同盟的な都市の根源性への回帰がある。その意味で、正反合という形式にはなっている。
ここで『亡霊』が示されているのは、物語上のフラグで、これから、トニオ・クレーゲルが亡霊に出会う、ことを示している。伏線である。
短編的独立性は、第6章である。物語全体のソナタ形式の再現性といいうより、この部分がかなり、一般的な掌編に読めることだ。日本文学などにもありそうな、長くして町と家に帰ったら自分は異邦人であったというものである。この郷愁は生まれ育った町を離れた人に一般的であろう。つまり、そうした体験のある人にとっては、共感的に胸に迫るものがあるだろう。
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