混血のプリンセス

ハリー・ポッターシリーズ6巻のタイトルは日本語訳では『謎のプリンス』、作中では同じ単語が『半純血のプリンス』と記されるが言語の"the Half-Blood Prince"は、他の部分の邦訳に従うならば『混血のプリンス』と訳するのが近い。ここで言う『プリンス』は「王子」の意味ではなく固有名詞の『プリンス』という苗字なのだがそれはそれとして。"the Half-Blood Prince"という原題を最初に見た人々は、『混血の王子』と受け取ったようだ。

この段で行くとFF7のエアリスはまさしく混血のプリンセスだと思う。彼女は古代種の血を引く最後の一人であり他に誰もいないのだから。エアリスには、プリンセスという形容が相応しい。

そう、エアリスは混血だ。純粋なセトラではなく半分は作中の現代人と同じ血を引く。それもその片方の親は神羅科学部門元総括でありジェノバプロジェクトを興した天才科学者ガスト博士。最後のセトラであるイファルナと出会い神羅を逃亡しエアリスが生まれた。かように大きな設定があったにも関わらず、物語中それが特筆される事はなかった。ゲーム中でのエアリスの扱いは殆ど、完全なセトラであるのと変わりない。神羅ビルでの宝条の台詞の中でイファルナとの能力の違いが多少言及された程度だ。

FFシリーズにおいて混血のキャラクターと言えば、4のセシルとゴルベーザ兄弟、6のティナ。4ではセシルとゴルベーザの父クルーヤは月の民、母は青き星の民であり、兄ゴルベーザは月に残り弟セシルは青き星に帰った。6のティナの父は幻獣のマディン、母は人間のマドリーヌであり、EDで魔法の力が消えゆく世界の中でティナは人間の血を引いていたので生き延びる事が出来た。

5のバッツも一種の混血と言っていいだろうか。5では異世界から訪れたバッツの父ドルガンはそこで妻のステラに出会いリックスの村に住み、そしてバッツ達の旅を経て最終的には二つの世界は一つになった。

少なくとも、4のセシルや6のティナは混血である事を十全に生かしたストーリー展開であると思う。彼らは半分は、特別ではない普通の人間の血を引いていて、それゆえに物語の最後では一般の人々の中で生きる帰結を迎えるのだ。セシルはバロン王の後継者として、ティナはモブリズの孤児達の母代わりとして。エアリスも混血に設定したのであれば、やはりそれらと同じようなストーリー展開にした方が自然だったと思う。実際のゲーム上においてはエアリスを混血、それも物語の起点となるガスト博士の娘に設定した意味があまりにも稀薄だ。制作者は一体何を考えていたのだろうかと思ってしまう。普通のストーリーテリングの常識があれば多分、このような真似はしない。

いや……だってあのガスト博士ですよ?舞台装置である神羅カンパニーの重鎮であり、ラスボスセフィロスが慕い、黒幕宝条のコンプレックスの源であり、老賢者ブーゲンハーゲンと親交があり、という普通に考えたらこの上なく重要な位置付けの人物をエアリスの父に設定しておいて何も無し、というのが本当に意味が分からない。普通はやらない、そんな事。普通の常識を持っていたらスルーしない。そしてそこを指摘する批判者が少なすぎるのも理解できない。

エアリスを純粋な古代種ではなく混血に設定したのなら、そこに意味を見出すのが物語のセオリーだと思う。何故そこに触れなかったのか、本当に意味が分からない。

FF7の登場人物中で両親の名前と姿がはっきりと登場しているのは、おそらくエアリスとセフィロスのみ(蜜蜂の館でリーブの両親も一応登場するが名前は出ない)。この点からもこの二人の重要性が分かると思う。セフィロスの両親である宝条とルクレツィアについては彼自身も知らぬ裏設定としての皮肉さとしてのあの程度の描写でよかったと思うが、エアリスの方は……どう考えても不足だと思う。

可愛がってばかりでは強い子に育たないかもしれないと言ったイファルナ、どんな事をしてでもエアリスは守ると言ったガスト。結局はエアリスは「強く」育ち、星を救うために使命に殉じ、彼女自身の命が守られる事はなかった。それはあまりにも悲しい。ガストの遺志は生かされなかったのか。半分は普通の人間としての、エアリスの幸せは許されなかったのか。エアリスの混血設定がなかった事になっているとしか思えない後半のストーリー展開の、これがどうにもすっきりしない。

エアリスは、半分は普通の人間なのだからセトラの使命に殉じなくてもいい、もっと自分自身の幸せを追求してもいいと、誰かが彼女に言うべきだったと思う。

EDでクラウドの腕の中で目覚めたエアリス、もう星の声は聴こえない、でもみんながいるから大丈夫……そういった展開にする事も可能だったのではないかと思う。

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