スナック忘れな草~バックトゥザ1995・2024皐月賞 本命馬決定篇~
■ ハルウララ
2024年4月8日(月)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
「岸田総理を見てると、この陽気も相まって高知のハルウララを思い出すぜ」
いつもの指定席、カウンターの左端に座っていたタコ社長がスマを見ながら言った。スマホ画面には、岸田総理の支持率に関するニュースでも映っているのだろう。
「ハルウララですか?」
真一郎がタコ社長とは逆サイドの定位置から訊いた。
「そうさ。叩かれても叩かれても、のらりくらりとした答弁を繰り返す岸田総理。負けても負けても走り続けた・・いや、走らされたハルウララを思い出すってわけよ」
「ハルウララの単勝馬券は・・」
マスターがグラスを磨きながら言った。
「交通安全のお守りにもなってましたね。絶対に『当たらない』という理由で」
そんなこともあったねと、タコ社長以外の3人が相槌を打った。
「・・・・・・絶対に当たらないか・・・」
タコ社長が腕を組み眉間に皺を寄せた。桜花賞についての恨み節かと思いきや、出てきた言葉は藤岡康太騎手についてだった。
「当たりどころが悪かったのかねえ・・元気に復帰してくれりゃあいいが・・」
土曜日の競馬で落馬負傷し、その後のレースがすべて乗り替わりとなった藤岡康太騎手。同騎手についての詳細な報道がいまだされていないことを受けて、ネットでは意識が戻っていないのではないかという憶測や、それらの憶測に対して、今は見守っていてあげましょうとなだめる声などがあがっていた。
この2日後の水曜日に、藤岡康太騎手の意識がまだ戻っていないというコメントが、兄である藤岡佑介騎手から発表された―
■ ベルサイユのさくら
「社長さん、『ベルサイユのさくら』を挙げてくれたのはヒットだったわよね?」
麗子ママが、暗い部屋にパッと灯をともすように明るい調子で言った。タコ社長も明るく応じる。
「そうなんだよ!ソダシとサトノレイナスな!阪神ジュベナイルフィリーズと同じワンツー決着。そこに目が向いていりゃあ、桜花賞は簡単だったんだ!」
タコ社長が言っているのは、ステレンボッシュとアスコリピチェーノのワンツーが、阪神ジュベナイルフィリーズの1.2着馬をそっくり入れ替えての決着だったことを言っている。
先週発表された新コンテンツ『ベルサイユのけいばな』。以前にも『ベルサイユのさくら』という類似のコンテンツがあり、そのときの桜花賞がソダシ、サトノレイナスという阪神ジュベナイルフィリーズワンツーの再現だったのだ。
「1.2着馬の入れ替えについては、くろたんさんもポストしてたわね?ええっと、優駿のマンスリーカレンダーだったかしら?」
ギョニ子がスマホでXを見ながら言った。
「やっぱりそうだわ。マンスリーカレンダーの桜花賞当日。デビューしたばかりのルーネラとタイレイという馬が、桜花賞で1.2着の入れ替え決着だという記事が載っていたみたい」
「1点勝負は無謀だったかな・・」
ギョニ子の言葉を聞いて、真一郎が頭を掻いた。マスターがすぐにそれを否定する。
「いやいや、3万円1点勝負は悪いとは思いません。それだけのリターンを狙ったわけですから・・・今我々はあくまで結果論を述べているのです。もしステレンボッシュからアスコリピチェーノへの馬単も買っていて、ステレンボッシュとチェルヴィニアで決まっていたら、やっぱり後悔してたんじゃないですか?」
真一郎は黙ってうなずいた。マスターの言う通りだ。後悔している暇があったら、皐月賞的中に向けて一歩を踏み出さなければ-
■ レガレイラ参戦
「皐月賞はなんといっても、牝馬のレガレイラ参戦ですね」
真一郎がさっそく第一歩を踏み出した。みんなが頷く。タコ社長が言った。
「ざっとチェックしたんだがよう・・・牝馬による皐月賞参戦は、グレード制導入以降でみればダンスダンスダンス、バウンスシャッセ、そしてファンディーナの3頭だ」
ギョニ子が続く。
「3着以内すらいないわけよね?だけどやっかいなのは、タコ社長が挙げた3頭と違い、レガレイラはホープフルステークスですでに牡馬撃破でGⅠを制覇してるってところよね?」
「とんでもない化け物の可能性はありますよね?皐月賞も勝っちゃうんでしょうか・・」
真一郎がそう言うと、マスターがぴしゃりと言った。
■ 抽象度を上げる
「GⅠのホープフルステークスを勝った牝馬が皐月賞参戦。ホープフルステークスがGⅠになってまだ間もないこともあり、確かに前例がないことです。ですが、抽象度を少し高くすれば、過去に数頭いることが見えてきますよ」
「抽象度を上げる?」
タコ社長がいつもより1オクターブほど高い声で訊いた。少し声が裏返っている。
「おいおい、マスター!抽象度を上げるっつう表現自体が抽象的でわかんねえぜ!」
みんなが笑った。真一郎が確認するような口調で言う。
「ええと例えばですが・・・ホープフルステークスをGⅠに、皐月賞参戦を牡馬クラシック参戦に・・・そんな感じでしょうか?」
マスターは、親指を立ててグッドのポーズをしてから言った。
「そうです。GⅠ勝利歴ありの牝馬が牡馬クラシック参戦。パッと思いつくのは名牝ウオッカですね」
みんながうんうんと頷いた。麗子ママが言った。
「桜花賞2着から果敢にダービー参戦。牡馬を蹴散らしての勝利はしびれたわね」
「ウオッカを踏襲ならレガレイラの優勝ね・・」
ギョニ子が言った。
「だけどもう一頭がわからないわ・・」
マスターが口元に笑みを浮かべて言った。
「もう一頭は盲点かもしれませんね。そのレースでは馬券にならなかったからです。ですが、つい先週に出てきた馬ですよ」
■ ゴーゴー
マスターの問題にすぐには正解者が現れなかった。数十秒の沈黙後、正解を見つけたのはタコ社長だった。
「あああ!」
そこでパシっと右ひざを叩く。
「ダンスパートナーじゃあねえか?確か・・菊花賞を走ってる!」
マスターが正解ですよと頭の上で大きな丸を作った。
「マヤノトップガンが勝った菊花賞。オークス馬ダンスパートナーが参戦していたのです」
マスターはそこで一呼吸置き、悔しそうな表情でみんなに言った。
「先週ダンスパートナーのことが話題にのぼったときに、同じ年の牡馬クラシックにも注意を払うべきでした・・・社長さん、ダンスパートナーが参戦し、マヤノトップガンが勝った菊花賞・・・その年のダービー馬を覚えていますか?」
「うーん・・・」
唸るような声をあげてから、タコ社長は大きくかぶりを振った。
「タヤスツヨシですよ」
「タヤスツヨシ?・・・・・・・・・おおお!2着馬は皐月賞馬のジェニュイン!・・確か皐月賞の1.2着馬が入れ替わったんじゃなかったかい?」
「その通りです!」
マスターは大きく頷いた。
「昨日の桜花賞も阪神ジュベナイルフィリーズの1.2着馬入れ替わり。ソダシの『ベルサイユのさくら』、くろたんのマンスリーカレンダーに関するポスト・・・1点勝負したかどうかまではわかりませんが、少なくとも押さえることはできたはずです」
みんながうんうんと頷き、しばらく店内を冷たい静寂が包み込んだ。
昨日阪神8Rに組まれていた「宝塚市制70周年記念」。同じく8Rで施行された記念レースに、2021年の「白井市市制施行20周年記念 白井特別」があった。
それに加え、UMAJO新CMで強調されている「ゴーゴー」という掛け声から、白井寿昭厩舎のダンスパートナーが2着した第「55」回の桜花賞に注目したのだった。
4/7(日)阪神【8R】
宝塚市制70周年記念
2021/9/12(日)中山【8R】
白井市市制施行20周年記念【白井】特別
1995 第【55】回 桜花賞
1着:8-18 ワンダーパヒューム
2着:8-17 ダンスパートナー【白井】寿昭
※「55」はUMAJO新CM「ゴーゴー」が示唆
同年皐月賞とダービーは【1.2着馬入れ替わり】
皐月賞 :ジェニュイン→タヤスツヨシ
ダービー:タヤスツヨシ→ジェニュイン(枠7-7ゾロ目)
4/7(日)桜花賞
1着:6-12 ステレンボッシュ
2着:5-09 アスコリピチェーノ
※阪神JFの【1.2着馬入れ替わり】
■ 55+55=110
「・・・いろいろわかればわかるほど、桜花賞の1点勝負が悔やまれます!」
真一郎がそう言って下唇を噛んだ。
「その年のクラシックからは、もうサインはでないでしょうね・・」
みんながうんうんと頷いた。千載一遇のチャンスを逃してしまったのだろうか。だが、異を唱える者がいた。麗子ママだ。
「いいえしんちゃん。今週の皐月賞も、この年のクラシックをなんらかのかたちで使ってくると思うわ!」
みんながえっという顔で麗子ママに注目した。
「UMAJO新CMを思い出して。まず長澤まさみが『ゴーゴー』と声援を送り、そのあとに見上愛が真似して『ゴーゴー』と叫ぶ。ダンスパートナーが2着した桜花賞が第『55』回なら、ジェニュインがタヤスツヨシをくだした皐月賞も第『55』回なのよ!」
「なるほどなあ!」
タコ社長が右手の親指と人差し指で顎を支えながら言った。
「『ゴーゴー』は一回ではなく二回。つまり桜花賞だけでなく皐月賞にもサインを送るってわけだ?」
麗子ママがにっこりと頷いて言った。
「さあみなさん。55足す55はいくつかしら?」
そりゃ110でしょ、馬鹿にするななどとみんなから声が挙がった。
「先週『110』という数字も出て来てたわよ?」
麗子ママはみんなを見渡しながらじっくりと答えを待ったが、正答は出てこなかった。
「ヒントは『ベルサイユのけいばな』。元ネタはもちろん『ベルサイユのバラ』ね。『ベルサイユのバラ』の公演といえ・・」
「宝塚!!宝塚歌劇団の110周年ね!!」
麗子ママが全部言い終わる前に、思い出したギョニ子が言った。
「そうよそうよ!宝塚市制は今年70周年だけど、宝塚歌劇団のほうは19・・・ええと1914年が初公演の年で、今年が110周年に当たる!」
麗子ママがにっこりと頷くと、他の3人も記憶がよみがえったのかなるほどと手を叩いたり声を発したりした。
<宝塚歌劇団>
1914(大正 3)初公演
1954(昭和29)40周年
1964(昭和39)50周年
1974(昭和49)60周年
1984(昭和59)70周年
1994(平成6) 80周年
2004(平成16)90周年
2014(平成26)100周年
2024(令和 6)110周年(=宝塚市制70周年)
「新CMの『ゴーゴー』は1995年示唆と言っていいでしょうね」
手をポンポンと叩いてから、マスターがみんなに同意を求めるように言った。みんなが力強く頷き、皐月賞も1995年を手掛かりにしようという流れになった。
■ ホープフルステークス
「さて、問題は同じことをやるかどうかだよなあ・・」
タコ社長が再び渋い表情になり言った。同じことというのは、ホープフルステークスの1.2着馬入れ替わりのことだ。
2023 ホープフルS
1着:7-13 レガレイラ
2着:3-06 シンエンペラー
皐月賞
1着:シンエンペラー ?
2着:レガレイラ ?
「私はその決着には疑問符を打ちたいですね」
マスターが言った。ステレンボッシュとアスコリピチェーノ、ジェニュインとタヤスツヨシのペアとは違い、綺麗な決着ではないという。
「ステレンボッシュとアスコリピチェーノ。そして、1995年のジェニュインとタヤスツヨシ。どちらも間に他のレースを挟んでいないのです」
<1995 皐月賞・ダービー>
皐月賞 :ジェニュイン→タヤスツヨシ
ダービー:タヤスツヨシ→ジェニュイン
※両馬とも前走は皐月賞
<2024 阪神JF・桜花賞>
阪神JF:アスコリピチェーノ→ステレンボッシュ
桜花賞:ステレンボッシュ→アスコリピチェーノ
※両馬とも前走は阪神JF
<ホープフルS・皐月賞>
ホープフルS:レガレイラ→シンエンペラー
皐月賞
シンエンペラー→レガレイラ
※レガレイラはホープフルSから直行
シンエンペラーは弥生賞(2着)を挟む
みんながなるほどと頷いた。マスターが釘を刺す。
「ですが、シンエンペラーとレガレイラ。どちらもいらないという意味ではないですからね。あくまでも、ホープフルステークスの1.2着入れ替わり決着は、タヤスツヨシとジェニュインのクラシックや、先週の桜花賞と比べると綺麗ではない、そういう意味です」
みんなが改めて頷いた。
その後30分ほど検討を続けたがこれといった進展はなく、ひとまず1995年のクラシックの結果と、ホープフルステークス1.2着馬には注目しておこうということになった。
■ 竜星涼
2024年4月9日(火)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
「ゲストプレゼンターの竜星涼。なにか見つけた人はいるかい?」
タコ社長が眞露の水割りが入ったグラスを持ちながら言った。少し挑戦的な表情なのは、タコ社長自身は何かを掴んでいるのだろう。
「そうねえ・・・大きなネタではないけれど・・」
麗子ママが前置きをしてから言った。
「出身が山形県の新庄市なのよね。新庄といえば日ハムの監督新庄剛志。昨日出てきたのがタヤスツヨシ・・・なんてね」
麗子ママはペロリと舌を出しておどけてみせたが、なるほどやっぱりタヤスツヨシがダービー馬となった1995年は、要注意だなという声が挙がった。
■ フィエールマン
「俺はフィエールマンの菊花賞を思い出したぜ」
他に誰も意見がないのを確認し、タコ社長がネタばらしを始めた。
「竜星涼のWikipediaを見てみたのさ。そしたら朝ドラの『ひよっこ』に出演歴ありってあるじゃねえか・・・なあマスター、フィエールマンの菊花賞を覚えているだろう?」
タコ社長に水を向けられたマスターは、人差し指を立てて二度ほど前後に振ってから言った。
「はいはい、思い出しました!お笑い芸人のひょっこりはんからの連想でしたね」
マスターの説明はこうだった。フィエールマンが菊花賞を勝った2018年、お笑い芸人のひょっこりはんがJRAの企画に出演していた。そこからひょっこりはんはつなぎ役で、朝ドラ『ひよっこ』がサインではないかと睨んだのだ。
朝ドラ『ひよっこ』の主演は有村架純。彼女は瑛太、笑福亭鶴瓶とともに、2015年と2016年のJRAプロモーションキャラクターを務めている。
「それで、『ひよっこ』からどうつながったんですか?」
真一郎が先を促した。マスターは、いい質問ですねと言うときの池上彰のような表情で続けた。
「歴史の長い朝ドラの中には、舞台設定がはっきりしていない作品も多々あります。ですが、『ひよっこ』の場合は公式ホームページのほうに、はっきりと年代が記載されているのです。それが1964年でした」
「これがサインであるならば、同年の菊花賞馬がサインになるはず。それが三冠馬シンザンだったのです」
「シンザンとフィエールマンがどうつながるの?」
ギョニ子がしびれを切らしたような顔で訊いた。
「おっと、そうでしたね!シンザンが三冠馬となったのは1964年。フィエールマンを管理する手塚貴久調教師が、ただひとりの1964年生まれだったのです」
みんなが軽く頷いた。少し物足りないサインのような気がしたからだ。この反応が想定内だったマスターは、追加のサインを披露した。
「シンザンの前走は芝1800m戦2着でした。シンザン以降のくくりですが、シンザンを含めて前走芝1800m戦から菊花賞を勝った馬に、ダイコーターとスリーロールスがいました。
ですが、どちらもそのレースで勝っています。フィエールマンが勝てば、シンザン以来となる『前走芝1800m戦2着』からの菊花賞馬だったのです。
<前走芝1800m戦からの菊花賞制覇>
※1964年以降
1964 シンザン(京都盃【2着】)
1965 ダイコーター(条件戦1着)
2009 スリーロールス(野分特別1着)
2018 フィエールマン(ラジオNIKKEI賞【2着】)
みんながうんうんと頷いた。さすがにそこまで一致すれば熱いサインだ。
「面白いわね!」
ギョニ子はまずマスターのほうを見てそう言い、次に左方にいるタコ社長のほうを見て言った。
「で、タコ社長!皐月賞にも1964年生まれの調教師がいるってわけね?」
「め、面目ねえ!」
タコ社長は顔の前で手刀を切った。
「ズバリの1964年生まれは皐月賞登録馬の調教師にいねえんだ。もちろん騎手にもそんな年寄りはいねえ。いたら今年還暦だからな・・・だが、同じ辰年なら一頭いる。ジャンタルマンタルだ!」
皐月賞 登録馬
ジャンタルマンタル
(高野友和調教師:1976年生まれ・辰年)
「今年は辰年・・」
真一郎が言った。
「そして竜星涼には『竜(≒辰)』がある。合わせて一本、という感じですね?」
みんながうんうんと頷いた。竜星涼から朝ドラ『ひよっこ』を介してシンザンの1964年に注目。同じ辰年で高野友和厩舎のジャンタルマンタル。その後1時間ほど検討が続いたが、今日の成果はそこまでであった。
スナック忘れな草
菊花賞注目馬
レガレイラ、シンエンペラー(ホープフルS連対馬)
ジャンタルマンタル(調教師が辰年)
■ ドクター関西人
2024年4月10日(水)午後6時半
-東京都某区 スナック忘れな草-
「マスター、しばらくやなあ」
陽気な声で入って来たのはドクター関西人だった。カウンターにはタコ社長と真一郎もいる。
「おやおや?あのべっぴんさんはお休みかいな?」
ドクター関西人は真一郎の左隣りが空いているのを目ざとく見つけて言った。自身はタコ社長の右隣りに座る。
「いえ、ちょっと仕事でゴタゴタがあって遅れるそうです」
真一郎が説明すると、ドクター関西人はやや声をひそめて言った。
「ケンカしたんなら仲直りにはこれでっせ!」
そう言って真一郎のほうに右手の拳を見せた。だがその拳は普通の拳ではなく、親指の先が人差し指と中指の間から顔を覗かせる卑猥なものだった。誰がやってもいやらしいポーズだが、関西弁とのコラボは卑猥度を増す効果があった。
「ええと、今日は何にしますか?」
軽く咳払いをしてからマスターが訊いた。ウイスキーが並んでいる棚のほうを顔で示している。
「そやな、おいしいところを適当にみつくろってもろてロックで!・・・と言いたいとこなんやが、今日はこれでんねん」
そう言ってドクター関西人は両手でおっぱいを揉む仕草をした。マスターが再度咳払いをしたのを聞いて、あわててハンドルを握る真似をした。車でどこかに行く途中立ち寄ったという。
「そやさかいコーヒーをお願いできまっか?」
マスターがさっそく豆をガリガリと挽き始めるのを見ながら、ドクター関西人は言った。
「そうそう。忘れんうちに土曜日の分だけ持ってきましたで。今週は悪いけど分割で頼んまっせ!」
「・・・・分割ですか?・・・」
豆を挽く手を止めて、マスターが眉根を寄せて言った。
「ということは今日は、1億円ほど置いていくわけですね?」
「そうそう。ここにちゃんと1億円が耳を揃えて・・・・・ってわしゃあ水原一平かい!!」
ドクター関西人の小気味のいい突っ込みが店内に響いた。
「あら?一平じゃなかったの?」
麗子ママが焼きそば一平ちゃんの湯切りをしながら言った。その時、ベゴンッという音がした。
「ベゴンッて!!いまどきベゴンなんて音がするシンクありまっかいな!?えらい古いシンクやで!!」
ドクター関西人の突っ込みに、マスターがそれは違うと言った。
「今のベゴンはあれです」
マスターが指さすほうをみると、店内の隅でスロットのジャグラーをしている男性客がこちらを見て言った。
「すんません。たった今ペカったんです」
「・・ってジャグラーかい!!けったいな店やで!!・・・しかも・・・・ほれ見ろ!!バケ引いとるやないかい!!バケの5連チャンって設定はなんぼや!!!」
「ジャグラー好きが高じてとうとう実機を買った常連客がいるのですが、奥さんにこっぴどく怒られたそうで・・・それでうちの店に置くことになったんです。よかったらあとで打ちますか?・・コイン一枚2,000円になりますが・・」
「一枚2,000円って闇スロやないかい!!せやからわしゃあ一平ちゃんちゃうっていうねん!!」
「イペチャンチャウ?」
真一郎が訊いた。
「チャウチャウチャウみたいに言うな!」
「さあさあ、一平ちゃんとコーヒーができたわよ」
麗子ママはまずコーヒーをドクター関西人の前に置いた。ソースをまぜ終わった一平ちゃんからはソースの香ばしい匂いが、コーヒーからもいい匂いが漂っていた。マヨビームを掛けようとする麗子ママを、ドクター関西人は鋭く制した。
「ちょっと待っとくんなはれ!!」
「あら?マヨネーズはお嫌いだったかしら?それともからしがダメですの?」
「いいや、マヨもからしも大好物やで!!そうやなくてそのマヨビームは自分でやりたいいんや!!」
麗子ママが焼きそばの入ったカップとマヨビームを渡すと、ドクター関西人は上を向き目を閉じながら言った。
「ええか?ええのんか?最高かーー。日本いちやーーー、どぴゅどぴゅどぴゅーーー」
そう言いながらマヨビームのラミネートを右手で何度もしごいた。指についたマヨネーズは、チュパチュパと音を立ててなぶり取る。
店内を一陣の風が通り過ぎて行った。
「鶴光のオールナイトニッポンだな?」
タコ社長が訊くと、ドクター関西人は恍惚の表情からやっと我に返り答えた。
「そうや。そうやで社長はん!!何を隠そう、ミッドナイトストーリーがわしの初体験の相手なんや・・・ああ!小森のみっちゃん!!」
そう叫ぶとドクター関西人は、口の周りをマヨネーズでテカらせながら、一平ちゃんをむさぼり食った。締めにコーヒーを堪能し席を立つ。
「ごっそさん。ほな、また来ますさかいな・・」
そう言ってドアのほうに2、3歩進んだあとくるりと踵を返した。
「あたたたた!!わし何しにきたんねん!!肝心のサインを伝えてまへんがな!!」
そう言って再びタコ社長の右隣りに座った。一連の動作は中川家礼二のおっちょこちょいなサラリーマンだろう。
■ 土曜重賞統制サイン
「まずは土曜の中山グランドジャンプ。前年の同レース3着枠のふたつ隣が候補や」
中山グランドジャンプ
'15 中山GJ 3着枠 4枠
→'16 中山GJ 2隣枠 2枠 2着
'16 中山GJ 3着枠 3枠
→'17 中山GJ 2隣枠 5枠 3着
'17 中山GJ 3着枠 5枠
→'18 中山GJ 2隣枠 7枠 2着,5枠 3着
'18 中山GJ 3着枠 3枠
→'19 中山GJ 2隣枠 5枠 1着
'19 中山GJ 3着枠 4枠
→'20 中山GJ 2隣枠 6枠 1着
'20 中山GJ 3着枠 5枠
→'21 中山GJ 2隣枠 3枠 3着
'21 中山GJ 3着枠 3枠
→'22 中山GJ 2隣枠 1枠 2着
'22 中山GJ 3着枠 2枠
→'23 中山GJ 2隣枠 8枠 2着
'23 中山GJ 3着枠 7枠
→'24 中山GJ 2隣枠 1枠か5枠が候補!
「・・・ということで今年は1枠と5枠が候補や。中山グランドジャンプにはもうひとつネタがあるで。前年の中山大障害の1着枠の隣や」
'14 中山大障害 1着枠 5枠
→'15 中山GJ 隣枠 4枠 3着
'15 中山大障害 1着枠 8枠
→'16 中山GJ 隣枠 7枠 1着
'16 中山大障害 1着枠 7枠
→'17 中山GJ 隣枠 8枠 1着
'17 中山大障害 1着枠 4枠
→'18 中山GJ 隣枠 5枠 1着,3枠 3着
'18 中山大障害 1着枠 4枠
→'19 中山GJ 隣枠 5枠 1着,3枠 2着
'19 中山大障害 1着枠 4枠
→'20 中山GJ 隣枠 5枠 3着
'20 中山大障害 1着枠 7枠
→'21 中山GJ 隣枠 6枠 1着
'21 中山大障害 1着枠 3枠
→'22 中山GJ 隣枠 2枠 3着
'22 中山大障害 1着枠 7枠
→'23 中山GJ 隣枠 8枠 2着
'23 中山大障害 1着枠 3枠
→'24 中山GJ 隣枠 4枠か2枠が候補!
「さっきのと合わせると、1,5枠vs2,4枠っちゅうこちゃな!外れたら堪忍やで。次はアーリントンカップや」
'14 アーリントンC 5着枠 2枠
→'15 アーリントンC 2隣枠 4枠 2着,8枠 3着
'15 アーリントンC 5着枠 6枠
→'16アーリントンC 2隣枠 4枠 1着,8枠 2着
'16 アーリントンC 5着枠 6枠
→'17 アーリントンC 2隣枠 8枠 2着
'17 アーリントンC 5着枠 5枠
→'18 アーリントンC 2隣枠 7枠 3着
'18 アーリントンC 5着枠 8枠
→'19 アーリントンC 2隣枠 6枠 3着
'19 アーリントンC 5着枠 7枠
→'20 アーリントンC 2隣枠 5枠 1着
'20 アーリントンC 5着枠 4枠
→'21 アーリントンC 2隣枠 6枠 3着
'21 アーリントンC 5着枠 7枠
→'22 アーリントンC 2隣枠 5枠 1着
'22 アーリントンC 5着枠 5枠
→'23 アーリントンC 2隣枠 3枠 1着
'23 アーリントンC 5着枠 4枠
→'24 アーリントンC 2隣枠 6枠か2枠が候補!
「ひとつ目は前年5着枠のふたつ隣枠。やから今年は6枠か2枠となる・・・もういっこいきまっせー」
'16 シンザン記念 ビリ4着枠 4枠
→'17 アーリントンC 2隣枠 6枠 1着,2枠 3着
'17 シンザン記念 ビリ4着枠 7枠
→'18 アーリントンC 2隣枠 5枠 1着,1枠 2着
'18 シンザン記念 ビリ4着枠 7枠
→'19 アーリントンC 2隣枠 5枠 1,2着
'19 シンザン記念 ビリ4着枠 5枠
→'20 アーリントンC 2隣枠 7枠 2,3着
'20 シンザン記念 ビリ4着枠 8枠
→'21 アーリントンC 2隣枠 6枠 3着
'21 シンザン記念 ビリ4着枠 5枠
→'22 アーリントンC 2隣枠 7枠 2着,1枠 3着
'22 シンザン記念 ビリ4着枠 7枠
→'23 アーリントンC 2隣枠 1枠 3着
'23 シンザン記念 ビリ4着枠 3枠
→'24 アーリントンC 2隣枠 5枠か1枠が候補!
「前年のシンザン記念のビリ枠。そのふたつ隣で今年は5枠と1枠が候補。まとめると、2,6枠vs1,5枠となるで!!」
みんながうんうんと頷きながらメモを取った。
「あ!今さらやけどメモなんか取らんでええで!あとでマスターにはメールしとくさかい、マスターから転送してもらっとくんなはれ」
「あ!すみません。メモを取るふりだけでメモは取ってません!」
「メモ取るふりだったんかい!!かなわんでしかしー!!」
そう言いながらも、真一郎がしっかりとメモを取っているのを確認したドクター関西人は、軽く手を挙げて店を出て行った。
■ おいしくなあれ
ドクター関西人が店を出て行ってから約10分後、ギョニ子がやってきた。終業間際に今日の担当患者のひとりが急変し、その処置に追われていたという。
「大変だったわねえ、今日子ちゃん。いつものでいいわよね?」
麗子ママが生ビール用のジョッキを手に持ちながら訊くと、ギョニ子が珍しく逡巡した。
「うーん、ここへ来るまでは生ビールの口だったんだけど、このコーヒーの香り!今日は昼休みにコーヒーを飲みそびれたから、迷っちゃうわ!」
だったら両方頼んだらという真一郎の助言をすんなり引き受けて、ギョニ子の前にはまず生ビールが置かれた。グビグビグビっと一気に生ビールが半分ほどに減る。そこへガリガリという、マスターが豆を挽く音が流れて来た。
「おいしくなあれ。おいしくなあれ・・・・」
ギョニ子に注目されていることに気づき、マスターがおどけたような口調で言った。このセリフでお馴染みのあの俳優を真似しているのだろう。
「マスター似てるかも!!ええとそれってあれよね?藤岡弘!!」
そうだとタコ社長が即答した。
「ああやって豆を挽かれると、さぞやおいしいのができるぞって期待しちまうわなあ」
だが、ギョニ子はほとんどタコ社長の言葉を聞いていなかった。ちょっと待ってと両手を広げ険しい表情をし、みんなに口を開くことを許さなかった。
「ええと藤岡弘、なにかとつながるのよ・・・ねえ・・・・なんだったかしら?」
そう言うとギョニ子は、この前キャロラインママがしたように、床を左右の足で交互に蹴りながら、回転椅子で反時計回りに回転を始めた。徐々にスピードアップし、ギョニ子の顔はフィギュアスケートの選手が4回転ジャンプを決めたときのようにゆがみ始めた。
この、回転椅子を使って回転しながら思考する方法は、のちに「キャロライン・トルネード」という名称で呼ばれるようになり、たびたびスナック忘れな草のサイン競馬考察を救うこととなる―
■ 三冠馬勢揃い
「プレミアムウィークだわ!!」
回転椅子がもう少しで完全に静止するというタイミングで、ギョニ子は待ちきれずに言った。
「ちょっと待ってね、画像があるはずよ・・」
ギョニ子はまず、昨年の競馬プレミアムウィークのキャラクター、竜星涼の画像をみんなに見せた。
「これが皐月賞のプレゼンター竜星涼のやつね。つづいては・・・と」
「あったわ、これこれ!間に及川光博を挟んでいるけど、藤岡弘も3年前に競馬プレミアムウィークのキャラクターを務めているの!」
みんながうんうんと頷いた。
「で、ギョニ子!そのふたりからどうなるんでい!?」
タコ社長の問いに、ギョニ子は答えた。
「藤岡弘からの藤岡祐介。彼はミスタージーティーに乗るわよね?竜星涼からの坂井瑠星はシンエンペラー。どちらも矢作芳人厩舎の馬なの!」
ミスタージーティー
(藤岡祐介→藤岡弘、・矢作芳人)
シンエンペラー
(坂井瑠星→竜星涼・矢作芳人)
みんながうんうんと頷いた。
「でもそれだけじゃないわ!藤岡祐介と坂井瑠星・・・今年のGⅠを示唆しているじゃない!」
2024 GⅠ
フェブラリーS
ペプチドナイル(藤岡祐介)
高松宮記念
マッドクール(坂井瑠星)
おおというどよめきが店内に起きた。ギョニ子が続ける。
「フェブラリーステークス単体で見ても、坂井瑠星から藤岡祐介という流れになっているわ!」
2023 フェブラリーS
レモンポップ(坂井瑠星)
2024 フェブラリーS
ペプチドナイル(藤岡祐介)
みんなが大きく頷いた。
「ということは矢作芳人の厩舎のどちらかが・・・または両方が怪しい?」
真一郎の質問に、ギョニ子は首を振った。
「いいえ、しんちゃん。抽象度を上げるのよ!月曜日にマスターが言ってたでしょう?JRAが言いたいのは矢作芳人・・・からの『牡馬三冠馬』だと思うの!」
そう言ってギョニ子は、矢作芳人の2頭に過去の牡馬三冠馬が隠れている説明を始めた。
「シンエンペラーのシンはシンザンのシンよね?シンザンは昨日、タコ社長の竜星涼ネタからも出てきたわ!朝ドラ『ひよっこ』の舞台設定がシンザン三冠達成年の1964年」
みんながうんうんと頷いた。タコ社長が続く。
「なるほど3頭いるなあ!シンエンペラーのエンペラーは皇帝だからシンボリルドルフ。ミスタージーティーはいわずもがなその前年の三冠馬ミスターシービーだ!」
マスターがポンと手を叩いて言った。
「面白い視点ですね、今日子ちゃん!矢作芳人調教師も直近の牡馬三冠馬コントレイルの管理トレーナーです。これで牡馬三冠馬8頭のうち、4頭が出てきたことになります」
<歴代牡馬三冠馬>
1941年 セントライト
1964年 シンザン(シンエンペラー)
1983年 ミスターシービー(ミスタージーティー)
1984年 シンボリルドルフ(シンエンペラー)
1994年 ナリタブライアン
2005年 ディープインパクト
2011年 オルフェーヴル
2020年 コントレイル(矢作芳人)
「セントライトが先週いたわ!」
麗子ママが言った。桜花賞3着馬のライトバックに、セントライトの「ライト」があるという。
桜花賞
6-11(ライト)バック
(坂井瑠星)3着・1着同枠
→セントライト
「3着ですが1着同枠というのがいいですね」
マスターが言った。
「しかも坂井瑠星は今回シンエンペラーに乗ります」
みんながうんうんと頷いた。残るはナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴルの3頭だ。
野球でいえば、先発ピッチャーが一人の走者も出さないまま、6回のマウンドに向かう。ひょっとしたらという緊張感が漂い始める。そんな雰囲気だ。
「ナリタブライアンがいたぜ!!」
そう言ってパチンと指を鳴らしたのはタコ社長だった。死亡のニュースが流れたフラワーパーク。彼女の高松宮記念、いや、高松宮杯にナリタブライアンがいるという。
1996 高松宮杯
1着:7-10 フラワーパーク
2着:8-13 ビコーペガサス
3着:5-07 ヒシアケボノ
4着:4-05 ナリタブライアン(ラストラン)
※高松宮杯 GⅠ昇格年
「本当だわ、社長さん!」
麗子ママが言った。
「GⅠに昇格した高松宮杯を制したのがフラワーパーク。そのレースで4着した三冠馬ナリタブライアン。ラストランだったわね!」
<歴代牡馬三冠馬>
1941年 セントライト(桜花賞3着ライトバック)
1964年 シンザン(シンエンペラー)
1983年 ミスターシービー(ミスタージーティー)
1984年 シンボリルドルフ(シンエンペラー)
1994年 ナリタブライアン(フラワーパーク死亡)
2005年 ディープインパクト ★
2011年 オルフェーヴル ★
2020年 コントレイル(矢作芳人)
残る牡馬三冠馬はディープインパクトとオルフェーヴル。残った馬が皐月賞へのヒントを出しているのだろうか。真一郎があっと声を挙げて言った。
「残りはディープインパクトでいいんじゃないですか?オルフェーヴルの皐月賞は東京開催だから非正規の三冠馬ということで・・・」
マスターは少し悲しそうに首を振った。
「しんちゃん、それは私も思ったんです。ところが、シンザンの皐月賞も実は東京開催。もっと言えば、初代牡馬三冠馬セントライトの皐月賞は横浜競馬場です。つまり、『中山開催ではない皐月賞を制した牡馬三冠馬』というくくりだと、3頭も該当してしまうのです」
マスターの言葉に、真一郎だけではなくみんなが沈黙した。9回ツーアウトランナーなし。27人目のバッターが打ち上げたフライが、ファーストとセカンドとライトの中間地点へとふらふらと上がっていく。万事休すか―
その時、ありましたと大きな声を出したのはまたしても真一郎だった。先週の桜花賞にオルフェーヴルがいたという。
「6枠12番です!ステレンボッシュのゲート6枠12番!オルフェーヴルの東京代替皐月賞も、ズバリの6枠12番なんです!!」
2011 皐月賞(東京代替)
6-12 オルフェーヴル
4/7(日)桜花賞
(6-12)ステレンボッシュ
<歴代牡馬三冠馬>
1941年 セントライト(桜花賞3着ライトバック)
1964年 シンザン(シンエンペラー)
1983年 ミスターシービー(ミスタージーティー)
1984年 シンボリルドルフ(シンエンペラー)
1994年 ナリタブライアン(フラワーパーク死亡)
2005年 ディープインパクト ★
2011年 オルフェーヴル(6枠12番ステレンボッシュ)
2020年 コントレイル(矢作芳人)
みんながおおという歓声を挙げ、タコ社長に至ってはガッツポーズまでしていた。
「やるなあしんちゃん!ステレンボッシュの12番・・・確か死に目だったんだろ?なあギョニ子?」
ギョニ子が大きく頷いた。オルフェーヴルと重なるステレンボッシュの12番。ただ重なるだけでなく、第84回目の桜花賞にして初めて使われた優勝ゲートというのが大きい。
「さてと、そうなるとディープインパクト産駒だな!!」
そう言ってスマホを操作しだしたタコ社長に、マスターがあきれたように言った。
「いませんよ、社長さん・・・」
「ええ?ディープインパクト産駒だろ?一頭ぐらいいるだろう・・」
スマホを引き続き操作しようとするタコ社長に、マスターが声を大きくして言った。
「いえ、いるはずがないのです!昨年クラシックを走った世代が、ディープインパクトのラストクロップなのですから!」
あっとタコ社長は声を挙げて、ぺしゃりと自分のおでこを叩いた。
「そうだった、そうだった・・・ライトクオンタムだったかな?桜花賞で隣のリバティアイランドが優勝したんだったなあ?」
2023 桜花賞
1-02 ライトクオンタム 8着
(ディープインパクト・ラストクロップ)
2-03 リバティアイランド 1着
■ ディープ記念
「そこで狙いが立つのが、ディープ記念を勝ったコスモキュランダですよ!」
マスターはそう言ってみんなを見渡した。すでにこのあとを読み切っているのだろう。長手数の詰みを読み切っている藤井聡太竜王・名人が、とどめの一手を指す前にするように、手元にある飲み物を一口飲んでから言った。
「今年で5回目を迎えたディープ記念弥生賞。過去の勝ち馬4頭をみてください。
<ディープ記念弥生賞>
2020 サトノフラッグ
2021 タイトルホルダー(菊花賞馬)
2022 アスクビクターモア(菊花賞馬)
2023 タスティエーラ(ダービー馬)
2024 コスモキュランダ(皐月賞馬?)
「サトノフラッグ以外はクラシックを勝ってるわ・・・コスモキュランダが皐月賞を勝てば、牡馬三冠をコンプリートってわけね?」
ギョニ子がマスターに確認するように訊いた。マスターが頷く。
「一頭だけクラシックを勝っていない第1回ディープ記念馬のサトノフラッグ。彼には違う役割がありました。無敗の三冠馬コントレイルの水先案内人です」
みんながきょとんとした顔をした。
「キムラハヤオさんの掲示板で、確かどなたかが書いていたネタです。これをみてください」
サトノフラッグ
ディープ記念 1枠1番
コントレイル
皐月賞 1枠1番
~~~
サトノフラッグ
皐月賞 3枠5番
コントレイル
ダービー 3枠5番
~~~
サトノフラッグ
菊花賞2着同枠・自身3着
みんながおおという歓声を挙げた。
「第1回ディープ記念馬サトノフラッグは、ダービーまでは次にコントレイルが背負い1着する馬番に入っていた・・・そして三冠目の菊花賞では、2着したアリストテレスと同枠に入り、自身も3着したわけです」
2020 菊花賞
2-03 コントレイル 1着
5-09 アリストテレス 2着
5-10 サトノフラッグ 3着
「さて、ディープ記念勝ち馬として、初めて牡馬クラシックを勝ったタイトルホルダー。同馬とディープインパクトにはこんな面白い一致もあります」
タイトルホルダー
阪神三冠馬(菊花賞、天皇賞(春)、宝塚記念)
ディープインパクト
京都GⅠ3勝(菊花賞、天皇賞(春)、宝塚記念)
※タイトルホルダーの阪神三冠をすべて京都で勝利
「タイトルホルダーの菊花賞と天皇賞春は、京都競馬場改修工事期間だったために阪神で開催。それがあって、阪神三冠馬というイレギュラー馬が誕生しました」
みんながうんうんと頷いた。
「一方のディープインパクトは、菊花賞と天皇賞春は正規の京都開催でしたが、宝塚記念が京都開催でした。そのために、タイトルホルダーが勝ったGⅠみっつすべてが、タイトルホルダーとは真逆の京都開催となったのです」
「そして奇しくも・・」
真一郎が後を引き継いで言った。
「今年の宝塚記念は、そのディープインパクトの2006年以来の京都代替・・・ですね?」
マスターが大きく頷き、みんながおおという歓声を挙げた。
■ 田原成貴
「さあ、仕上げに掛かりますよ!」
マスターが声のボリュームをひとつまみ分あげた。
「1995年のクラシックを思い出してください。ダンスパートナーが2着した桜花賞。ダンスパートナーが参戦した菊花賞」
1995 桜花賞
1着:ワンダーパヒューム(田原成貴)
2着:ダンスパートナー
1995 菊花賞
1着:マヤノトップガン(田原成貴)
5着:ダンスパートナー
2024 桜花賞
ステレンボッシュ(モレイラ)
2024 皐月賞
コスモキュランダ(モレイラ)?
店内におおという声が響いた。タコ社長が叫ぶ。
「なるほど同一騎手ってわけだな?ゴーゴーの第55回桜花賞、牝馬GⅠ馬ダンスパートナーが参戦した菊花賞。いずれも田原成貴!・・・そして、牝馬GⅠ馬レガレイラが参戦する今年の皐月賞も、モレイラの連勝ってわけだ!!」
マスターが大きく頷き、真一郎、ギョニ子、麗子ママが拍手をした。スナック忘れな草の皐月賞本命馬が決まった。
スナック忘れな草
皐月賞 本命馬
コスモキュランダ(モレイラ)
トップ画像引用:JRA×地方競馬 競馬プレミアムウィーク公式
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