スナック忘れな草~ワンとドンと振替休日・2024フェブラリーS その2~
トップ画像引用:魂剣石をも切る
■ NST
2024年2月14日(水)午前10時
-東京都某区 真一郎が勤務する病院・言語療法室-
真一郎が昨夜のスナック忘れな草での検討会について説明している間、田端さんは時に「ほほう」、「なるほど」などと相槌を打ちながら、熱心にメモを取っていた。特に、ギョニ子が語った「天の岩戸」の話に興味を惹かれたようだ。
ギョニ子が語ったのは、昨年のフェブラリーステークス勝ち馬レモンポップを、出走が叶わなかったギルデッドミラーに置き換えた上で馬名から「鏡」とし、秋天連覇馬イクイノックスをデビュー時の厩舎から「岩戸(孝樹)」とすると、「鏡」と「岩戸」で天照大御神の逸話「天の岩戸」になるという考察だ。
田端さんが言った。
「そしてレモンポップの7番と、イクイノックスの秋天連覇2回の7番は、百人一首の7番阿倍仲麻呂につながる。阿倍仲麻呂はプレゼンター阿部兄妹に合致する。面白いですなあ」
真一郎が頷いて言った。
「天照大御神は一部で男性神だったという説もありますが、女神のほうが一般的です。そうなると牝馬自身や同枠馬には注意が必要ですね」
「その中でも注目はアルファマムでしょうな。先生のカレンダーにちゃんと書いてある」
田端さんはそう言って、真一郎の言語療法室に掲示してあるカレンダーのある文字を指さした。
2月22日(木)
NST 14:00~
「ええと、このNSTのことですか?」
意味がわからない真一郎は、田端さんに質問した。
「これのどこがアルファマムなんでしょうか?」
「いやですねえ先生、とぼけちゃいけませんよ。昨年のNST賞を勝ったのがアルファマムで、その前年勝ち馬がギルデッドミラーだったじゃないですか」
「ああ、新潟のNST賞でしたか!」
やっと合点がいった真一郎は、右膝をポンと叩きながら言った。そして声を出して笑った。
「笑ってしまってごめんなさいね。このカレンダーに書いてあるNSTは、競馬のことじゃないんですよ」
今度は田端さんがきょとんとする番だった。真一郎は丁寧に説明した。
「NSTはニュートリション・サポート・チーム、栄養サポートチームの頭文字3文字の略称なんです。飲み込みがうまくいかなかったり、食欲がなかったりして栄養状態がよくない患者について、医師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士などの患者に関わる多職種が連携して、栄養状態を上げていくためのサポートをするチームのことです」
「ははあ、そうでしたか。そのNSTというチームの会議のようなもの、その日程を書き込んでいたわけですな?」
真一郎はそうだと頷いた。
「ここへ来るとすっかり頭が競馬脳になってしまって、見るもの聞くものすべてが競馬に結びついてしまうんですなあ・・」
田端さんが頭を掻きながらそう言うと、真一郎はかぶりを振った。
「いやいや、そうしてしまったのは私にも責任があります。競馬の話はやめて、普通にリハビリをしましょうか?」
「そうですねえ。あまり難しくなく、それでいてちょっと頭を使うのがいいですな」
田端さんのリクエストを聞いて、真一郎は少し考えたあと言った。
「それではちょうど今、カレンダーの話が出ましたから、祝日についてみていきましょうか?」
■ 日本の祝日
真一郎は、壁に掛けてあった月めくりのカレンダーを外し一枚元に戻し、1月を掲示した状態で田端さんの前に置いた。そして、カレンダーの一部を手で隠しながら、それぞれの祝日が何の祝日であるのかを順に尋ねていった。
日本の祝日は全部で16個あるが、16個のうち田端さんがノーヒントで正当できたのは、「海の日」、「敬老の日」、「勤労感謝の日」を除く13個だった。
「いやあ、意外と忘れているもんですなあ」
13個正解は上出来だと真一郎は褒めたのだが、田端さんは即答できなかった祝日が3つもあったことに少しショックを受けているようだった。
そのあと軽く雑談をして、その日の訓練は終わった。
■ ミライヘノツバサ
2024年2月14日(水)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
「1と16の露出が多いのが気になるわね」
ギョニ子が魚肉ソーセージの皮をむきながら言った。下の約3cmの部分は皮をむききらず、その部分をバナナを食べるときのように持ってうまそうにパクついている。
「コパノリッキーとモズアスコットですね?」
マスターが確認のため質問した。
「メモリアルヒーローのコパノリッキーは、一度目の制覇が16番人気、翌年の連覇時が1番人気・・」
そのあとは、いつものように眞露の水割りを飲んでいたタコ社長が続けた。
「そうそう。んでもって1番人気のモズアスコットが勝った年は、2着が16番人気のケイティブレイブだったなあ」
「16番人気と言えば・・」
麗子ママにジェスチャーで生ビールのおかわりを頼みながら、真一郎が言った。
「土曜日にダイヤモンドSがありますよね?2020年の勝ち馬ミライヘノツバサが、16頭立ての16番人気。しかも大外16番というおまけつきでした」
「単勝は確か3万円台だったわよね?」
真一郎に新しい生ビールを渡しながら、麗子ママが言った。
「JRAのYouTube動画チャンネル。重賞の過去優勝馬を紹介する動画は、今年2019年と2020年の2頭ワンセット。ミライヘノツバサも当然出てくるでしょうから、16とか1とかは要注意ね」
「問題は・・・」
魚肉ソーセージの最後のひとかけらを、口に放り込みながらギョニ子が言った。
「それらの数字をどう料理するかよね?」
■ ワンとドン
「ええと、マスターが昨日あげてくれたカキツバタの歌。あれを詠んだ在原業平の短歌で、百人一首に収められてるのが落語にもなってる『千早ぶる』だよなあ」
カキツバタの歌とは、在原業平が折句という手法を用いて作った短歌だ。
から衣
きつつなれにし
つましあれば
はるばる来ぬる
たびをしぞ思う
(在原業平)
五七五七七の頭の5文字をつなげて読むと『かきつばた』になっている。
フェブラリーステークスで出走可能圏内にいた2頭、シャマルとサンライズホークが名古屋のかきつばた記念に回ったことにより、ギリシャ文字の最初と最後である「アルファ」と「オメガ」を持つ、アルファマムとオメガギネスの2頭が滑り込み出走となったのだ。
「んでよう、その『千早ぶる』を調べてみたら、百人一首の『17番』だったんだよ」
百人一首 17番 在原業平
ちはやぶる 神代もきかず竜田川 からくれないに 水くくるとは
マスターが大きく頷いて言った
「なるほど、それは興味深いですね!実はさっき終わったばかりの大井競馬の雲取賞。JRAの『竜田川』が1着でした」
マスターが言っている雲取賞とは、今年から始まる「3歳ダート三冠競走」の第1戦、羽田盃のトライアル競走だ。
2/14(水)
大井11R 雲取賞(羽田盃トライアル)
1着:3-05 ブルーサン
和(田竜)二・(川)村禎彦
「なるほど!和田竜二と調教師の川村禎彦で『竜田川』か!」
タコ社長が言った。思わぬかたちで援軍を受けて、舌も滑らかになる。
「同じダート重賞で『竜田川』が来てくれたんなら心強えや!その『竜田川』は百人一首の『17番』。そして『17番』といやあ最近露出が多いドジャースに移籍した大谷翔平だろ?『1』と『16』の強調は、大谷翔平の『17』を分割したっつう解釈はどうだい?」
「野球で『1』と『16』と言ったらなんでしょうか?」
真一郎の問いに、タコ社長がニヤリと笑って答えた。その先のシナリオをすでに構築済みだったのだろう。
「俺はなあ、ワンちゃんと川上哲治の背番号だと思うぜ。『1番』も『16番』もジャイアンツの永久欠番だ!」
おおという声が店内に響いた。タコ社長が得意げに続ける。
「川上哲治には愛称がたくさんあるが、有名なのはドン川上だ。おあつらえ向きの馬がいるじゃあねえか?」
「ドンフランキーね!」
ギョニ子がそう言うと、タコ社長がギョニ子を指さしながら言った。
「ご名答!ドンフランキーは京都競馬場グランドオープン記念の勝ち馬だ。重賞はもう勝っているが、どこかで大仕事があったって驚けねえぜ!」
■ ビートブラック
10分ほどトイレなどの休憩に当てたあと、マスターが口を開いた。
「王貞治といえば、死亡ニュースがあったビートブラックとつながるかもしれません」
「ビートブラック?春天で穴を開けた馬だな?」
タコ社長が訊いた。マスターが頷く。
「そうです。ゼッケン1番は王貞治の現役時代と一緒。ビートブラックの馬名意味は、『黒を打ち負かせ』です。日本の王が世界の王になったのは・・」
「ハンク・アーロンか!彼の755号を抜いた日、つまり、黒を打ち負かした日ってわけだな?」
タコ社長が先回りして言った。今日のタコ社長は絶好調だ。
「なるほど、別に人種差別するわけじゃねえが、黒人選手のハンク・アーロンの記録を抜いて世界の王になった・・ビートブラックだなあ」
■ メイショウテンゲン
「ええと、黒を打ち負かすと言えば・・」
真一郎が言った。
「さっき、ダイヤモンドステークスのところであげたミライヘノツバサ。2着に負かした馬がメイショウテンゲン。テンゲンは確か天元で囲碁の用語だったかと・・」
「やるじゃん、しんちゃん!囲碁は確かに白と黒。黒を打ち負かしたってわけね?」
ギョニ子が真一郎の左肩を揉みながら言った。麗子ママが続く。
「囲碁って白と黒が交互に石を置くのよね?」
みんながうんうんと頷いた。
「勝ったり負けたりが続いている馬なんてどうかしら?」
早速マスターがパソコンを操作した。答えはすぐに出た。マスターは「ほほう!」と感嘆の声を挙げてからみんなに教えた。
「なんとなんと。直近で白と黒、つまり勝ち負けが交互に続いているのは、アルファとオメガだけです」
アルファマム 直近4走
勝ち→負け→勝ち→負け
オメガギネス
勝ち→負け→勝ち→負け
「いいじゃねえか、いいじゃねえか!」
絶好調タコ社長がとどめを刺した。
「カタールの競馬にノースブリッジが出るよなあ?馬主は井山登・・囲碁界の七冠達成棋士に井山裕太がいるじゃねえか!」
みんながおおと歓声を挙げて、タコ社長が顔をくしゃくしゃにして笑った。
■ 振替休日
2024年2月15日(木)午前10時
-東京都某区 真一郎が勤務する病院・言語療法室-
寝不足で少し目が充血している田端さんであったが、むしろ目はランランと輝き生気を帯びていた。
「先生、昨日の祝日の問題。あれはよかったですなあ。思わぬかたちで気になる数字が浮かび上がりましたよ」
田端さんが言った。祝日の問題とは、昨日の言語訓練で行った課題で、カレンダーの赤数字を見て、何の祝日か思い出すというものだった。田端さんは、16個のうち13個を正答できていた。
「先生がカレンダーをめくって質問してくれたでしょう?あのとき、今年はやたらと振替休日が多いなあと思ってたんですわ」
真一郎が頷いた。それは、真一郎もちょっと気になっていたことだった。
「数えてみたらですねえ、これがなんと今年は5回も振替休日があるのですわ。さかのぼって調べてみましたら、振替休日というものができてから、5回も振替休日があるというのは、どうやら初めてのようなんです」
<2024 振替休日>
2月11日(日)建国記念の日
2月12日(月)振替休日
5月5日(日)こどもの日
5月6日(月)振替休日
8月11日(日)山の日
8月12日(月)振替休日
9月22日(日)秋分の日
9月23日(月)振替休日
11月3日(日)文化の日
11月4日(月)振替休日
「本当ですか!それはすごい発見ですね!」
真一郎が言った。田端さんがにっこり笑って続ける。
「うまいことうるう年と重なったからでしょうな。それで、この5つの祝日ですが、こじつけると全部皇室に関連があるようなのです」
田端さんの説明はこうだった。「建国記念の日」は初代天皇の神武天皇が即位したとされる日。「こどもの日」、すなわち「端午の節句」に飾られることがある五月人形には、神武天皇のものがある。
制定されてまだ新しい「山の日」に関しては、2016年に開催された第1回「山の日」記念全国大会において、皇太子殿下(現天皇陛下)と皇太子妃殿下(現皇后陛下)並びに愛子内親王殿下がご臨席された過去がある。
秋分の日は昔、「秋季皇霊祭」と呼ばれていた時期がある。「皇霊祭」とは歴代の天皇・皇后・皇親の霊を祭る儀式で宮中祭祀のひとつである。
そして最後の「文化の日」は、明治天皇の誕生日だ。
「なるほど、確かに全部皇室と関連がありますね!」
真一郎が言った。
「そうなると狙いはどうなりますか?」
田端さんは即答した。
「5番でしょうなあ。フェブラリーステークス当日に、今年のJRA発足70周年を記念して、ウルトラプレミアムなるサービスがありますわなあ。スーパープレミアムの80%に、さらに売上金の5%を乗せてくれるというやつです」
「5%から5番というわけですね?」
「単純かもしれませんが、単純だからこそ狙いにくい。そこを逆にJRAはついてくるんじゃないでしょうか?」
■ ハサミ目の5番
2024年2月15日(木)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
真一郎はスナック忘れな草に入るなり、生ビールも飲まず説明を始めた。田端さんとのやり取りから浮上した「5番」注目説だ。
「なるほど、そりゃ面白えや!」
タコ社長が言って、ギョニ子も続いた。
「振替休日の数なんて、今まで一度も気にしたことなかったわ!」
マスターはパソコンを操作していた。麗子ママがまず、「5番」注目説に援護射撃を出した。
「JRA無料カレンダーの1月、テイエムオペラオー。フェブラリーステークスは2月だから、普通なら2月のアグネスデジタルに注目よね?でも、平地GⅠは上半期も下半期も12ずつ。カレンダーの1月をフェブラリーステークスにつかってもおかしくないわ」
「そうなるとテイエムオペラオーの5番ということですね?」
真一郎が尋ねると麗子ママが頷いて言った。
「そうなの。この5番が怪しいのは、オペラオーの前にラスカルスズカが映っているからよ」
「引退の発表があった北沢伸也騎手。実は重賞勝利の最初と最後が、どちらもスズカの馬なのよ」
みんながなるほどと声を挙げた。マスターがとどめを刺す。
「今週何度も出てきた、フェブラリーステークス連覇馬のコパノリッキーとカフェファラオ。それぞれの連覇年のゼッケンをみてください」
2015 コパノリッキー 4番
2022 カフェファラオ 6番
「5番をサンドしています。じゃあ5番でGⅠのフェブラリーステークスを勝った馬はいるか?」
みんなが首を振った。知らないという意味だ。
「一頭だけいました。2003年のゴールドアリュール。しかし、この年のフェブラリーステークスは中山開催。東京開催のフェブラリーステークスにおいて、最後に5番ゼッケンで勝った馬は・・・」
マスターはそこでためを作った。
「1996年のホクトベガなのです。こと座のアルファ星・・・この5番にもしアルファマムが入ったら?」
みんながおおという歓声を挙げた。
スナック忘れな草
注目ゲート:5番
注目馬 :アルファマム、オメガギネス、ドンフランキー
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