スナック忘れな草~エリザベス女王杯①・アカイイト~
トップ画像引用:HERO IS COMING.「古馬 vs 3歳馬」篇 エリザベス女王杯
■ アッチムイテホイ
2023年11月5日(日)午後8時
-東京都某区 スナック忘れな草-
「あら?これ何かしら?」
トイレから帰ってきたギョニ子が床に置いてあった物を拾い上げた。それは赤い紐のようなものだった。紐は長く、一方はスナック忘れな草のドアの下を通り外に通じているようだった。紐をたどっていきドアを開けると、そこにいたのはくろたんだった。左手の小指に赤い紐がくくりつけられている。
ゆっくりとカウンターのほうに歩いていったくろたんは、マスターの前で止まった。マスターの左手の小指にも、いつの間にか赤い紐がくくりつけられていた。どうやら一本の赤い紐の両端で、くろたんとマスターはつながれているようだ。
くろたんが鋭い眼光でマスターを睨みつける。マスターも負けじと応じる。火花が飛び散りそうな眼光と眼光のぶつかり合いだ。
くろたんが軽く頷くと、マスターも軽く頷いた。
「最初はグー!!じゃんけんぽい!!あっち向いてホイ!!」
勝負は一瞬で決まった。マスターが上げていた首をがっくりとうなだれた。くろたんは満足そうに天井を指さしていた右手を降ろした。
「細かいテクニックを使いますね」
マスターが悔しそうに言った。くろたんは答えた。
「細かいテクニック?さて、なんのことでしょうな?」
マスターは苦笑した。そして言った。
「あっち向いてのときに、かすかに顎を引きましたね。私もそれにつられてしまった。顎を引いたあとだけに、自然とホイの瞬間首をあげてしまいました」
「そんなテクニックを使っていたのね・・・」
ギョニ子が腕を組みながら言った。
「ていうかー。何なのよこれ?」
ギョニ子の問いに、くろたんが答えた。
「エリザベス女王杯のCMですよ。佐々木蔵之介と見上愛があっち向いてホイの勝負をしている。勝ったのは佐々木蔵之介。まあ、そんなのはどうでもいいでしょう。問題はこの馬です」
アッチムイテホイ・未勝利馬
JRA最後のレース
2018.3/31 中山3R
1着 7ー13
2着 8ー16
11着 1ー02 アッチムイテホイ
エリザベス女王杯
ククナ 2018.3/31
アッチムイテホイ JRA最後のレースhttps://db.netkeiba.com/race/201806030303/
「なるほど、そういうことですか!」
真一郎が言った。
「アッチムイテホイの最後のレース。その日に生まれたのがエリザベス女王杯に登録のあるククナなんですね」
くろたんが頷いた。タコ社長が言った。
「なかなかの穴馬じゃあねえの、くろたんさん」
「競馬には3頭まで馬券になる席が用意されています。ククナが当たりだとしても、残り2席あります。マスターならすでに用意している馬がいるんでしょうね?」
くろたんの質問にマスターは頷いた。ゆっくりと左手の小指に絡ませていた赤い紐を外しながら言った。
■ アカイイト
「エリザベス女王杯とその次のマイルチャンピオンシップ。この2戦で阪神から京都への切り替わりがすべて終了します。京都競馬場の改修工事の期間、京都から阪神に振り替えられたGⅠは5つ。それらを改めて検証してみると、『連続』というキーワードでシナリオが組まれていることがわかります」
<京都→阪神代替GⅠ>
●天皇賞(春)
2019 フィエールマン(ルメール)
2020 フィエールマン(ルメール)連覇
2021 ワールドプレミア(阪神代替)
2022 タイトルホルダー
(阪神代替・前年阪神代替菊花賞勝利馬)
2023 ジャスティンパレス(ルメール)
●秋華賞
2020 デアリングタクト 三冠馬
2021 アカイトリノムスメ(阪神代替・母アパパネ三冠馬)
2022 スタニングローズ(阪神代替)
2023 リバティアイランド 三冠馬
●菊花賞
2020 コントレイル(三冠馬・2着ルメール)
2021 タイトルホルダー
(阪神代替・翌春阪神代替天皇賞春勝利)
2022 アスクビクターモア(阪神代替)
2023 ドゥレッツァ(ルメール)
●エリザベス女王杯
2019 ラッキーライラック
2020 ラッキーライラック
(阪神代替・異なる競馬場・異なる外国人騎手で連覇)
2021 アカイイト(阪神代替)
2022 ジェラルディーナ(阪神代替・2着同着)
2023 ジェラルディーナ?
(異なる競馬場・異なる外国人騎手で連覇)
●マイルCS
2021 グランアレグリア(阪神代替)
2022 グランアレグリア(阪神代替・連覇)
2023 セリフォス(阪神代替)
店内におおという声があがった。くろたんも頷いている。
「長距離GⅠである春天と菊花賞からいきましょう。ルメール騎手によるフィエールマンの連覇で幕を閉じた旧京都競馬場の春天。2年後の2022年阪神代替戦は、やはり阪神代替菊花賞を制したタイトルホルダー。この年宝塚記念も制し、阪神古馬GⅠを3勝。仁川のタイトルホルダーとなりました。
秋華賞は、旧京都競馬場の最後の年と、新京都競馬場の最初の年に三冠馬を誕生させました。つまり、京都競馬場での開催においては、2年『連続』して三冠馬を生み出したことになります。
ひとつ飛ばしてマイルチャンピオンシップ。これはわかりやすいですね。グランアレグリアが阪神代替戦を連勝しました。騎手はまたしてもルメール。
そしてエリザベス女王杯。ラッキーライラックによる『異なる競馬場・異なる外国人騎手での連覇』から始まり、アカイイトを挟んで、ラッキーライラックと同じ『18番・サンデー』のジェラルディーナが勝利。」
2020 エリザベス女王杯
8-18 ラッキーライラック(ルメール・サンデー)
(阪神代替・異なる競馬場・異なる騎手で連覇)
2021 アカイイト
2022 エリザベス女王杯
8-18 ジェラルディーナ(Cデムーロ・サンデー)
(前年覇者アカイイトの両隣が2着同着)
「アカイイトという馬が、その名の通りラッキーライラックとジェラルディーナを結ぶつけるのなら、ジェラルディーナ連覇というシナリオが見えてきます」
くろたんは深く頷き、店を出て行った。勝負はまだ始まったばかりですよという言葉を残して。
「今日のアルゼンチン共和国杯の3着同着って・・・」
麗子ママが言った。
「昨年のエリザベス女王杯の2着同着を暗示していたのかもね」
みんながうんうんと頷き、スナック忘れな草の注目馬が決まった。
エリザベス女王杯
スナック忘れな草 注目馬
ジェラルディーナ(Rムーア)
※前年覇者(Cデムーロ)
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