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スナック忘れな草~2023ダービー前編・葵S・欅S~

 ■  3連複の意味

2023年5月23日(火)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-

「ウオッカの回想をしているのに、あみだくじってのがわからねえなあ」

いつもの左角に座っていたタコ社長はうなるようにそう言うと、冷やしトマトのサラダを一口つまみ、それをズブロッカのソーダ割で流し込んだ。普段は眞露の水割り一辺倒のタコ社長だが、「ウマのそら」にウオッカ登場ということで、今日はウオッカを頼んだのだ。

「そうそう。あたしも気になってたの。佐々木蔵之介編や見上愛編であれば、過去のダービー馬を回想してもおかしくはないんだけど、長澤まさみ編だと違和感があるのよね」

ギョニ子はタコ社長にそう同意して、魚肉ソーセージの先端部分の包装を食いちぎった。昔の魚肉ソーセージと違い、今の魚肉ソーセージは側面から簡単に包装をむくことができるのだが、いまだにギョニ子はそうしている。

「『ウマのそら』の長澤まさみ編ですね。アフレコは前回と別バージョンなのに、動画は使い回し。そのためおかしな印象を与えています」

マスターはそう言うと腕を組み、眉間を寄せた。

「この『ウマのそら』を掘り下げたほうがいいものか、難しいところですね・・・」

スナック忘れな草の店内は一瞬静まりかえった。先週のオークスでは、3つの「ウマのそら」からすべてシンリョクカが浮上すると判断したが、結果が伴わなかった。「ウマのそら」はいかにもサインがありそうで、実は何もないのではないか。そういう雰囲気が漂っていた。

「しんちゃんはどう思う?」

いつもの右角の席で、枝豆と生ビールを交互に口にしていた真一郎に、麗子ママが尋ねた。

「少し気になることがあるんだよね」

真一郎はおしぼりで生ビールジョッキの底を拭くと、コースターの上にジョッキを戻してから話し始めた。

「誕生日という設定でローソクの火を吹く。誕生日の『たん』とローソクを『ふく』。馬券の『単』と『複』なんじゃないかなって」

「それは面白い視点ですね。もう少し聞かせてください」

マスターは組んでいた腕をほどきそう言うと、カウンターに手をつき前かがみの姿勢になった。

「馬券の『単』と『複』と推測した理由はもうひとつあります。ローソクの本数です。ケーキには6本のローソクが立ててあって、動画の最後は1本だけ火が消えない場面で終わります。数字の『6』と『1』。これは3連単と3連複の関係じゃないかと・・」

「ど、どういうことなんだ?しんちゃん」

計算にうといタコ社長が言った。

「あんた何年馬券買ってるの?3連複1点を3連単に変換すると6点でしょ?ジョーシキよジョーシキ!」

ギョニ子にそう言われたタコ社長は、ギョニ子をにらみつけたが返す言葉がなかった。真一郎が考察を続けた。

「夏の札幌で『勝馬投票券100周年記念』が組まれてますよね?そしてダービータイムトラベルというキャンペーンがあります。タイムトラベル・・・つまり昔に戻る。勝馬投票券の歴史を紐解けば、何かヒントがあるんじゃないでしょうか?」

「その発想はありませんでした。3連複の発売開始年を調べてみましょう」

マスターはそう言うと、パソコンを操作し始めた。つられるようにギョニ子、真一郎、麗子ママはスマホを操作し、タコ社長はガラケーをいじりだした。

「さっそくウオッカにつながるものがありましたよ」

マスターはそう言うと、パソコン画面をみんなに見せた。

2002/6/30 ラジオたんぱ賞
1着:4-6 カッツミー
2着:3-4 レニングラード

「このレースは馬単と3連複が初めて発売された重賞です。馬単6→4。ウオッカの『64年振り』牝馬によるダービー制覇とつながります」

「馬券の歴史にサインあり。そういうことなのかしら?」

ギョニ子が言った。

「3連複が2002年発売開始。3連単は・・・」

「2004年。初めて3連単が発売された重賞は朝日チャレンジカップだ」

ギョニ子が最後まで言い終わらないうちに、真一郎が言った。

2004/9/11 朝日チャレンジカップ
1着:8-11 スズカマンボ(武豊
2着:6-07 ヴィータローザ
3着:3-03 メジロマントル

武豊なら有力馬の一頭、ファントムシーフですね」

マスターが朝日チャレンジカップの結果を確認して言った。

「朝日っつったらよう、ソールオリエンスじゃねえか?」

タコ社長がそう言うと、麗子ママが答えた。

「その通りよ社長さん。朝日チャレンジカップは現在は朝日の冠がなくなり、チャレンジカップになっているから、朝日の強調かもしれないわね」

「ファントムシーフにソールオリエンス。人気どころだけどマークは必要ね」

ギョニ子が言った。そのとき、パソコンを操作していたマスターがあっと声をあげた。

「3連複と3連単が初めて発売されたGⅠレース。サインがあるかもしれません」

2002 スプリンターズS
1着:2-04 ビリーヴ(武豊

2004 スプリンターズS
1着:3-05 カルストンライトオ(大西直宏

「3連複が初めて発売されたGⅠレースが2002年のスプリンターズSで4番ビリーヴ。3連単が初めて発売されたGⅠレースが2004年のスプリンターズSで5番カルストンライトオ。先週のオークスは5番リバティアイランドでしたね」

「本当だわ!だけどどうして先にカルストンライトオを使ったのかしら?」

マスターの説明にギョニ子が疑問を呈した。マスターはすぐに答えを示してくれた。

「武豊と大西直宏。ふたりのダービー初勝利の順番かもしれません」

<ダービー初勝利>
1997 サニーブライアン(大西直宏
1998 スペシャルウィーク(武豊

「なるほどなあ。このふたりはダービーの歴史に並んで名を刻んでたわけだ!」

タコ社長が感嘆の声をあげた。

「しかもサニーブライアンの勝ったダービーが『第64回』。ウオッカの『64』とつながります」

マスターがそう言うとみんなが拍手した。

「ねえねえ!ってことはダービーではビリーヴの4番が勝つってことかしら?」

ギョニ子が興奮して叫ぶと、マスターがパソコン画面を示しながら答えた。

「その可能性はありますね。4番といえば例の2020無敗三冠馬のゲートでもあります」

<2020 無敗の三冠馬 ゲートサイン>

高松宮記念
7-13 デアリングタクト(秋華賞)
7-13 ファストフォース

大阪杯
5-09 デアリングタクト(桜花賞)
5-09 ジャックドール

桜花賞
2-03 コントレイル(菊花賞)
2-03 リバティアイランド

皐月賞
1-01 コントレイル(皐月賞)
1-01 ソールオリエンス

オークス
3-05 コントレイル(ダービー)
3-05 リバティアイランド 1着

ダービー
2-04 デアリングタクト(オークス)
2-04 ソールオリエンス 1着?

「2020無敗の三冠馬2頭のゲートで、1着馬のゲートとして使用されていないのは、デアリングタクトのオークスの『4番』のみ。先ほどのビリーヴの『4番』にも重なりますから、どの馬が入るか要注目です」

マスターの説明にみんながうなずいた。ダービーウィークの検討会初日は、注目ゲート「4番」ということでお開きとなった。

■    ウオッカからの1点サイン

2023年5月24日(水)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-

今日もいつものメンバーが揃っていた。話題は昨日出した結論の4番ゲートの話から始まり、ウオッカの話に移っていた。「ウマのそら」に登場するウオッカ自身から、どんなサインが出されているのだろうか。

「ウオッカのサイン、ありますよ」

いつの間にかタコ社長の右に腰を下ろした男性客が言った。長身で185、6センチはあるだろうか。ギョニ子と真一郎の席からは、小柄なタコ社長がすっぽり隠れてしまっている。

生ビールを男性客の前に置いたマスターは、深々とお辞儀をして言った。

「とうとうお会いできましたね。くろたんさん、いや、くろたん」

男性客はうなずくと、生ビールをおいしそうに一口飲んだ。

「え?くろたんってあのマスターが参加している掲示板の人?」

ギョニ子の質問にマスターがうなずいた。

「その通りです。お会いしたことはなかったのですが、店内に入ってこられたとき、すぐにピンときました」

「さすがですねマスター。しばらく見知らぬ客を装うつもりだったのですが」

くろたんはそう言うと目尻を細くして笑った。

「ところでウオッカのサインはなんでしょうか?」

マスターの質問にくろたんはうなずき、説明を始めた。

「ウオッカの誕生日は4月4日。ダービー出走馬のなかで、同じ誕生日の馬が一頭います。ソールオリエンスです」

おおっという声が店内にあがった。

「まだあります。ウオッカの誕生日2004年4月4日。この日、産経大阪杯が行われています」

2004/4/4 産経大阪杯
1着 5ー05 ネオユニヴァース
Mデムーロ・瀬戸口勉・社台RH
2着 3ー03 マグナーテン

2003/6/1 第70回 日本ダービー
1着:7ー13 ネオユニヴァース(社台RH)※二冠
Mデムーロ 24歳 ダービー初勝利
瀬戸口勉調教師 ダービー初勝利

2023/5/28 第90回 日本ダービー
ソールオリエンス(社台RH)※勝てば二冠
横山武史 24歳 勝てばダービー初勝利
手塚貴久調教師 勝てばダービー初勝利

「ウオッカの誕生日とまったく同じ日付である産経大阪杯。勝ったのは前年のダービー馬ネオユニヴァース。ネオユニヴァースは節目の『第70回』のダービー馬であり、騎手、調教師ともにダービー初勝利でした。ソールオリエンスが勝てばネオユニヴァース同様二冠達成。そして、騎手、調教師がダービー初勝利であること、節目の回数であること、騎手の年齢が24歳であること、馬主が社台・・これだけ共通点が揃っています」

「凄いですね!ウオッカの誕生日からネオユニヴァースにつながるなんて・・・」

真一郎が目を丸くして言うと、マスターが説明した。

「馬の誕生日から同じ誕生日の騎手や調教師などを探すのは一般的ですが、同じ日に施行された重賞をチェックするというのがくろたん流です。私がくろたんからたくさん学ばせていただいた考え方のひとつです」

マスターのことばにうなずいたくろたんは、さらに説明を続けた。

「ネオユニヴァースのダービーから1点サインが出ているなら、2着にはスキルヴィングが面白そうです」

2003/6/1 第70回 日本ダービー
1着:7ー13 ネオユニヴァース
2着:2ー03 ゼンノロブロイ(横山典弘)

「奇しくも横山武史の父、横山典弘のゼンノロブロイが2着でした。3番はネオユニヴァースの産経大阪杯の2着馬のゲートと同じ。そして、ゼンノロブロイは前走青葉賞勝ちからの2着。今年の青葉賞1着だとスキルヴィングですね」

その説明を聞いて、真一郎が立ち上がった。

「スキルヴィング、いいですね!サニーブライアンの二冠からもスキルヴィングが浮上します!」

真一郎が突然サニーブライアンの話をしたので、昨日店に来ていないくろたんにはわからないだろうと、マスターが昨日のいきさつをくろたんに説明した。

「・・・というわけで『ウマのそら』から4番が怪しいのではないかということになったのです。昨日の話はそこまでだったのですが、しんちゃんはサニーブライアンから何かみつけたようです」

マスターのことばを受けて、真一郎がスキルヴィング2着説を話し出した。

「サニーブライアンは二冠馬ですので、ソールオリエンス二冠達成という前提で話を進めます。サニーブライアンの二冠は、2着が同じ馬主の馬なんです」

<サニーブライアン 二冠>

皐月賞 2着
シルク)ライトニング

ダービー 2着
シルク)ジャスティス
皐月賞未出走・前走京都4歳特別(GⅢ)1着

「当時のシルクは冠名を使っていましたのでわかりやすいでね。サニーブライアンの二冠は、2着は馬は違えどいずれもシルク・・・ソールオリエンス二冠なら同じことが起きるのではないかという読みです」

ソールオリエンス 二冠?

皐月賞
2着 タスティエーラ(キャロット

ダービー
2着 スキルヴィング(キャロット)?
皐月賞未出走・前走青葉賞(GⅡ)1着

「シルクジャスティスとスキルヴィングは、皐月賞未出走、かつ前走重賞1着という点で一致します」

「なるほど、それは面白いですね」

くろたんがうなずいた。

「ソールオリエンス→スキルヴィングのワンツーに注意します。ところで先ほど4番に注目という話が出ましたが、うちの掲示板でもアルデンテさんという方から、4番につながる面白い投稿があったので紹介します」

名前:アルデンテ

重賞インフォメーションより

2014年 ダービー
ワンアンド【オンリー
横断幕に【

葵Sのところでバックスクリーンに映っている馬は
何故か【オンリーラヴ
ゼッケン【2④

「重賞インフォメーションでは、ナレーションによる説明の際に前年の様子が映し出されるのが通常パターンです。ところが葵ステークスのところでは、昨年の葵ステークスではなく、新装京都競馬場グランドオープンの日の、京都1レースが紹介されていました」

くろたんの説明にマスターが続けた。

「スクリーンに映っているのが京都1レースに出走した『2枠4番オンリーラヴ。冒頭で紹介されたワンアンドオンリーの横断幕に『』とあり、『オンリーラヴ』を強調しています」

「そういうことです」

くろたんが言った。

「さきほどうかがった、3連複と3連単の初GⅠレースから出てきたのもビリーヴの『2枠4番』。ソールオリエンスがこのゲートにガチっとはまったら面白そうですね」

スナック忘れな草の店内は、それからしばらく「2枠4番」には何が入るだろうかという話題で盛り上がった。

15分ほどして、今日は長居できないからとくろたんが席をたった。財布を出そうとするくろたんに、いつもお世話になっているからとマスターは支払いを固辞した。しかしくろたんはマスターのベストのポケットに何かをねじ込むと、「これで何かおいしいものでも食べてください」と言い残し店を出ていった。

「すみません、ごちそうさまです!」

くろたんの背中にそう言葉を投げたマスターは、店の扉が閉まるのを見届けてから、ベストのポケットを確認した。ポケットには子供用の小さい先割れスプーンが入っていた。

「これでおいしいものを食べてくださいか・・・」

マスターの目にはうっすらと涙がにじんでいた。

■    4番横山パパ

2023年5月25日(木)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-

今日もいつものメンバーが揃っていたスナック忘れな草だが、みな一様に渋い表情をしていた。注目していた4番ゲートに入ったのが二冠濃厚とみていたソールオリエンスではなく、横山武史の父、横山典弘のトップナイフだったからだ。

「かーーーっ!よりによって武史じゃなく横山のとっつあんのほうとはねえ・・」

そう言って頭をかきむしる仕草をしたが、頭髪はとうの昔に全滅しているので、単に頭を掻いているだけだった。

「なんだか振り出しに戻ったみたいね・・・」

魚肉ソーセージの最後のひとかけらを口に放り込んだギョニ子はそう言うと、生ビールを空にして麗子ママにおかわりを頼んだ。

「例の2020無敗三冠馬ゲートサインですが、考えてみればクラシックに使われているのはコントレイルのゼッケンのほう。デアリングタクトのゼッケンは高松宮記念と大阪杯でしたから、オークスのゼッケンだけダービーに使われるというのは考えにくいですね・・」

マスターはそう言うと目を閉じて腕を組んだ。

「気になるのはソールオリエンスとファントムシーフの配置よね。正逆5番」

麗子ママの言葉に真一郎が続けた。

「リバティアイランドの5番にソールオリエンス。同じ年に同じゲートでオークス馬とダービー馬が勝ったことってあるのかな?」

真一郎の言葉を受けて、マスターがパソコンを操作した。5分とかからず結果が出た。

<オークス・ダービー 同年同ゲートV 1986~>
1991 20番 イソノルーブル&トウカイテイオー
2016  3番 シンハライト&マカヒキ

「1986年以降だとこの2例ですね。二冠馬トウカイテイオーが名を連ねているのは、ソールオリエンスにはプラスでしょう」

マスターの言葉を受けて、麗子ママが続けた。

「シンハライトといえば、『ウマのそら。』山崎まさよし編に何度も出てきたわよね。桜花賞ジュエラーの2着馬として。これもソールオリエンスにはプラスかしら?」

「それに5番といえばスペシャルウィーク、ディープインパクト、オルフェーヴル、コントレイルのダービーゲートでもありますね。名馬のゼッケンを与えられたという点は、ソールオリエンスも同等の活躍を見込まれたということなのかなぁ」

真一郎がそう言うと、みんながうんうんとうなずいた。

■    邪馬台国大和説(葵S 予想)

2023年5月26日(金)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-

昨日はあのあと大きな進展はなく、ダービーに関連のある各媒体やイベントを、手分けして調べてこようということになりお開きとなっていた。

「みなさんどうでしょう。明日もう一日ありますから、今日は土曜日のレースを予想しませんか?」

マスターの提案にみんながうなずいた。ダービーばかりに目がいっていて、他の重賞やメインレースは手つかずだったのだ。

「葵ステークスには地方馬が出ているわね。16番のコスモイグローク」

ギョニ子がまず口を開いた。枝豆を口にし、生ビールで流し込む。自分の枝豆はとっくに食べてしまっていたので、隣の真一郎のぶんに手を伸ばしている。

「3歳限定の芝1200重賞に地方馬と・・・直近では2006年のファルコンSですね。現在は芝1400ですが、当時は芝1200でした」

今日はパソコンを持ち込んでいる真一郎が言った。

2006/3/11 ファルコンS 芝1200
3-03[地]スーパーワシントン
3-04 アイアムエンジェル 2着

「同枠馬が2着に来ているわね」

真一郎のパソコンを覗き込んだギョニ子が言った。

「隣と言えば、コスモイグロークの宗形竹美調教師の直近JRAレースでも、隣の馬が馬券になっています」

真一郎同様、パソコンを操作していたマスターが言った。

2019/12/8 カペラS
3-06[地]ダノングッド(矢野貴之・宗形竹美)
4-07 コパノキッキング(藤田菜七子)1着

「おお!菜七子ちゃんの重賞初勝利のレースじゃねえか!ダービーを除外になったトーセントラムは、確か出られれば菜七子ちゃん騎乗っつうことだったよなあ?」

タコ社長の言葉にマスターがうなずいた。

「そうでしたね。間接的にこの葵ステークスの8枠を示唆する話題なのかもしれません」

マスターの言葉を受けて、真一郎が言った。

「8枠には大和・・角田大和がいます。先週のオークスで邪馬台国の九州説、畿内説の話が出ました。調べたら邪馬台国には大和説もあるみたいです」

「しんちゃん、よく調べてたわね」

真一郎の枝豆を食べつくしたギョニ子が言った。

「オークスは九州出身の川田将雅が1着。バランスを保つために、葵ステークスでは大和説の8枠が1着だったりして」

「8枠だったらタマモブラックタイだよなあ。前走が案外で人気落ちだけど、重賞ウィナーだぜ」

タコ社長の言葉に、麗子ママが遠慮がちに言った。

「実績ではタマモブラックタイですが、先ほど出た『地方馬の隣』なら17番のブーケファロスのほうよね。17番でちょっと気になるのがあるの」

そう言って麗子ママは、みんなに自分のスマホ画面を見せた。

第90回 日本ダービー 
タイムトラベルキャンペーン

●トップ画像

中心 7-13 ドウデュース
左上 5-12 ミスターシービー
左下 8-17 ナリタブライアン
右上 3-05 コントレイル 
右  7-13 ドウデュース
右下 7-13 ドウデュース

「このタイムトラベルキャンペーンなのだけれど、画像の馬のゼッケンのうち3つが、先週のオークスで使われているわ」

オークス
1着:(3-05)リバティアイランド
2着:6-(12)ハーパー
3着:(7-13)ドゥーラ

「おいおい!これ気づきたかったなあ!」

タコ社長はおでこに右手を当てて天を仰いだ。麗子ママが続ける。

「使われていないゼッケンはナリタブライアンの17番だけということになるわ。ダービーの正逆17番かもしれないけど、葵ステークスということもあるかと思うの」

「ナリタブライアンのダービーを見てみたんだけど、2番人気がラコクオー。『ム』を取れば『奈良国王』。邪馬台国の大和説ですが、大和は現在の奈良県・・・」

真一郎の発言にマスターが続いた。

「それは面白いですね。ナムラコクオーの上村洋行騎手はこれがダービー初騎乗でした。そして今年のダービー1枠1番上村洋行調教師。やはりダービーは初出走となります」

1-01 ベラジオオペラ(上村洋行

「へえー。1枠1番ってサイン発信馬っていうから、うまくつながってるのかも」

ギョニ子がそう言うとマスターがうなずいて言った。

「ブーケファロスのオーナーが矢野まり子というのも、プラス材料かもしれません。先ほど出てきた藤田菜七子のカペラステークス。地方馬ダノングッドは矢野貴之騎手でした」

「矢野貴之と言えばヘルシェイク矢野で有名ですね」

真一郎が言った。

ヘルシェイク矢野とは、大川ぶくぶ原作の漫画『ポプテピピック』に登場するキャラだ。ヘルシェイクという馬が川崎競馬の高月賢一厩舎におり、その鞍上が矢野貴之になったことから、リアルヘルシェイク矢野だと話題になったのだ。

「そしてシェイクと言えば・・・」

真一郎が全部言い終わる前にギョニ子が口をはさんだ。

「例のかえる混入騒ぎね。問題になったのは丸亀製麵のシェイクうどん」

丸亀製麺の長崎県諫早店で、提供された「丸亀シェイクうどん」の「ピリ辛担々サラダうどん」に、カエルが混入されていたというニュースだ。

タコ社長が言った。

「丸亀といやあ香川県か。17番ブーケファロスは松山弘平。お隣だが愛媛の松山市ってわけか。ナリタブライアンの17番でもあり、地方馬の同枠隣でもある。こりゃおもしれえんじゃねえの?」

タコ社長の言葉にみんなが賛同した。スナック忘れな草の葵ステークス勝負馬券は、ブーケファロスの単勝、枠連1-8、8-8、ワイド2-17となった。

葵ステークス
単勝:17番
枠連:8-1.8
ワイド:2-17

■    米米馬券・欅ステークス

さて、もうお開きにしようかというところで、真一郎が手を挙げた。明日の東京メイン、欅ステークスも予想したいという。

「なにやら自信があるようですね」

マスターの問いかけに真一郎はうなずいた。

「ダービー当日の国歌独唱は石井竜也。石井竜也といえばもちろん米米CLUBですね。米から枠連8-8がどこかで出るのではとにらんでいます」

「さっきの葵ステークスでも8枠のゾロ目を入れたけど、出馬表を見たら欅ステークスもありそうね」

ギョニ子がスマホを見ながら言った。

米米馬券、いいかもしれないわね」

麗子ママがうなずいてそう言い、欅ステークスの買い目が決まった。

欅ステークス
枠連:8-8
3連複2頭軸:(15.16)-3.6.11.12.13

スナック忘れな草~2023ダービー前編・葵S・欅S~
-完-

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