スナック忘れな草~愚か者よ・阪急杯その2完結編~
トップ画像引用:愚か者よ 萩原健一
■ タコ社長刺される
2024年2月25日(日)午前3時
-東京都某区 スナック忘れな草-
ギョニ子がキャーと叫び、真一郎があああと大声を挙げた。たった今、目の前でタコ社長がナイフで刺されたのだ。刺したのは麗子ママだった―
マスターは黙って見ている。いったい何が起こったというのだ―
■ メイショウハリオ
2024年2月25日(日)午前2時
-東京都某区 スナック忘れな草-
スナック忘れな草の入口ドアには、準備中の札が掛けられていた。しかし、店内にはいつものメンバーが揃っていた。もうすぐ始まるサウジカップをYouTubeで生観戦しようという趣向だ。
「メイショウハリオの取り消しは残念だったわね」
ギョニ子がそう言うと、すっかり出来上がっているタコ社長が頷いた。
「まったくだぜ!・・・ところでメイショウハリオの8番を明日の競馬、いや、日付が変わったから今日の競馬か・・・使われるなんてことはあるかねえ?」
サウジカップ
馬番8 メイショウハリオ 取消
「3場メインを見てみましょうか」
マスターがそう言うと、すでにスマホを操作していた真一郎が言った。
「えーと、中山記念なら8番はマテンロウスカイ、阪急杯は8番カルロヴェローチェ、小倉メインの下関ステークスなら8番はスリーアイランドですね」
「メイショウの取り消しと言えば・・」
麗子ママが言った。
「昨年の阪急杯にもメイショウの取り消しがあったのよね」
2023 阪急杯 16頭→15頭
1-01(メイショウ)ベンガル 取消(次走なくそのまま引退)
1-02(メイショウ)チタン 15着(しんがり)※染分帽
2024 阪急杯
3-05 メイショウチタン
「取り消したメイショウベンガルがそのまま登録抹消・・・つまり引退というのは引っ掛かりますね。秋山真一郎の引退式につなげるかたちで、メイショウハリオが昨年のメイショウベンガルの1番を示唆・・・」
マスターが言った。ギョニ子が続く。
「メイショウハリオの8番とメイショウベンガルの1番。ちょっと注意が必要かもね」
阪急杯
1-01 ウインマーベル
4-08 カルロヴェローチェ
■ エイティーンガール
サウジカップが終了した。ウシュバテソーロは善戦したが、あと少しで優勝というところで、追い込んできたセニョールバスカドールに差されての2着だった。
他の日本勢は、デルマソトガケが5着、クラウンプライドが9着、レモンポップは12着という結果だった。
「馬券は外したけどいいレースだったぜ。ウシュバテソーロは日本最強の意地を見せたな!」
タコ社長が言った。みんながうんうんと頷き、口々に感想を言っているときにドアが開く音がした。こんな時間に準備中の札を無視して入ってくる客はひとりしかいない。立ち飲み処UEGOMORIのキャロラインママだ。
「話は全部聞いたわよ」
キャロラインママが言った。トレンチコートのような男物のコートを着ている。
「秋山真一郎のラスト重賞、京阪杯エイティーンガール。18番にうまいこと牝馬が入ったわね?」
「メイショウホシアイですね」
マスターが答えた。
「明日・・いや今日はメイショウホシアイの単複で勝負しようと思っています」
「単複ねえ・・・まあオッズを見たらそれが賢明かもね。でも、今週ならではの千載一遇のチャンスがあるかもよ」
キャロラインママはそう言うと、ドアのほうに歩いて言った。お酒も飲まず帰るようだ。だが、ドアに手を掛けたところで振りむいて言った。
「京阪電鉄を降りたガールを、阪急電鉄に乗り換えさせてみたらどうかしら?」
そう言ってキャロラインママは出て行った。
■ 京都河原町
「なるほど乗り換えか・・・」
マスターが言った。
「18番の牝馬メイショウホシアイ・・つまりエイティーンガールを使うなら、エイティーンガールは京阪杯の勝ち馬だから、阪急杯・・阪急電鉄に乗せるには乗り換える必要がある・・」
パソコンを操作したマスターは、みんなに画面を見せた。
「京阪電鉄と阪急電鉄の乗り換えは、京阪祇園四条駅とで可能ですね。相互乗り入れではなく外を歩くかたちにはなりますが」
「阪急河原町駅?」
ギョニ子が尋ねると、マスターがそうだと頷いた。
「ええと、女性騎手に河原田菜々っていたわよね?」
そう言いながらギョニ子はスマホを素早く操作した。
「うーん残念。ちょっと前まではエイティーンガールだったけど、今はナインティーンガール(19歳)ね・・」
「今日子ちゃん、それいいかも!」
残念がるギョニ子に手を差し伸べたのは、右隣りにいた真一郎だった。
「日曜の河原田菜々騎手、後半は阪急杯を挟むかたちで、10レースと12レースに騎乗があります!」
阪神10R マーガレットS
1-01 クリスアーサー(河原田菜々)
阪神12R
5-08 フリークボンバー(河原田菜々)
「1番と8番!これってさっき出てきたメイショウベンガルの1番とメイショウハリオの8番じゃない!」
麗子ママが珍しく大きな声で言った。タコ社長がパシッっと膝を叩いて同意する。
「京阪と阪急の乗り換え駅河原町からの河原田菜々!彼女が阪急杯を教える・・・あるかもしれねえな!」
阪神10R
1-01(河原田菜々)
阪神12R
5-08(河原田菜々)
阪急杯
1-(01)ウインマーベル
(2023阪急杯 メイショウベンガル取消馬番)
4-(08)カルロヴェローチェ
(2024サウジC メイショウハリオ取消馬番)
■ トシちゃん感激!
「ちょっと脱線するかもしれませんが・・」
マスターが言った。
「京阪電鉄から阪急電鉄、阪急電鉄から京阪電鉄。いずれにせよ、乗り換えるときは鴨川の上を渡るようです」
「それがどうしたんだい?」
タコ社長が訊いた。マスターが答える。
「メイショウハリオのハリオアマツバメ。つまりツバメですね。鴨川にツバメと言えば・・」
「おお!鴨川つばめだな!懐かしいなあ!」
タコ社長が言った。麗子ママが続く。
「キャイーン!たまりませんわん!」
いつの間にかサングラスを掛けていたマスターが言った。
「トシちゃん感激!」
タコ社長が唇を付き出し、たらこ唇のようにしてから言った。
「ちがうのよっ!あたしはきんどーちゃん!」
時代が違うために何がなんだかわからずきょとんとしている真一郎とギョニ子を置きざりにして、マスターら3名は鴨川つばめのギャグ漫画『マカロニほうれん荘』ネタで盛り上がった。おっほおっほと言いながら胸を叩いたり、うっどーん!と叫んだりしている。
■ タコ社長殺人事件
なんだかわからないから帰ろうかと真一郎がギョニ子に言い、そうねとギョニ子が応じたところで事件は起きた。麗子ママが突然、この愚か者と叫びながらタコ社長に突進していったのだ。
タコ社長の胸に何かを突き立てたらしい。キラリと銀色に光っていたのはあれはナイフだったのか。崩れ落ちるタコ社長。
ギョニ子がキャーと叫び、真一郎があああと大声を挙げた。しかし、マスターは黙って見ている・・・
次の瞬間、タコ社長はすくっと立ち上がると、麗子ママに言った。
「なんでいなんでい!びっくりしたじゃねえか!」
そう言って豪快に笑いだした。マスターと麗子ママも笑っている。麗子ママは、ナイフをカシャカシャと何度も自分のてのひらに刺して、それがよくある引っ込むおもちゃであることを示した。
「ちょっとーー!!」
ギョニ子がふくれっ面で麗子ママに言った。
「ごめんなさいね、今日子ちゃんにしんちゃん。さっき私たちが盛り上がってたのは鴨川つばめという作家のギャグ漫画、『マカロニほうれん荘』なの。そして、マカロニからの連想で、今はマカロニ刑事の殉職シーンをやったってわけ」
「ははは!マカロニ刑事だったのか!なるほどなあ」
そこまでは理解していなかった、タコ社長が言った。
「しかし『マカロニほうれん荘』からマカロニ刑事とは、ちょいとばかり飛躍しすぎじゃねえかい?」
「それがそうでもないと思うの」
麗子ママが言った。
■ 太陽にほえろ
「しんちゃん、トップ画像のローブティサージュと秋山真一郎が、先週の重賞を示していたって話は覚えてる?」
麗子ママに訊かれて、真一郎は記憶をたどるような顔をして言った。
「ええとあれですね、ローブティサージュのシルクは、小倉大賞典を勝ったシルクのエピファニーにつながる」
ギョニ子が続いた。
「そして秋山真一郎からは、GⅠ初勝利がNHKマイルカップということで、同じくNHKマイルカップがGⅠ初勝利だった藤岡佑介が、フェブラリーをペプチドナイルで勝った・・・よね?」
「そうね・・・ということはよ?先週の素材には逆に今週のヒントがあると解釈すると、『太陽にほえろ』が出てくるわけ」
きょとんとしている真一郎とギョニ子に、マスターが補足の説明をした。
「ええと、マカロニ刑事というのはドラマ『太陽にほえろ』に出ていた刑事のひとりなんです。それで『太陽にほえろ』につながるというのは?」
マスターはそう言って麗子ママのほうを見た。麗子ママが頷いて答える。
「インティよ。『ウマのそら』で回顧されていたフェブラリーの過去優勝馬がインティ・・・太陽神だったの」
「なるほど!太陽神インティから『太陽にほえろ』につながるんですね?」
真一郎が言った。麗子ママが頷いて説明を続ける。
「そうよ。インティからの『太陽にほえろ』。鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』からのマカロニ刑事。ふたつがつながるわ。さあ社長さん、マカロニ刑事が殉職して、代わりに配属された刑事は誰だったかしら?」
スマホを急いで操作したタコ社長は、数分後にこれかと叫んだ。
■ ジーパン刑事
「マカロニ刑事に代わって配属されたのはジーパン刑事!松田優作だ!」
<太陽にほえろ>
マカロニ刑事:第1話-第52話
ジーパン刑事:第53話-第111話
タコ社長はさらにスマホでの検索を続けた。
「松田優作と言えばダイユウサク・・ひょっとしたらひょっとするのか・・・おおお!ビンゴだぜ!」
1991 第36回 有馬記念
1着:5-08 ダイユウサク
2着:1-01 メジロマックイーン
阪神10R
1-(01)(河原田菜々)
阪神12R
5-(08)(河原田菜々)
阪急杯
1-(01)ウインマーベル
(2023阪急杯 メイショウベンガル取消馬番)
4-(08)カルロヴェローチェ
(2024サウジC メイショウハリオ取消馬番)
「すごいわ!河原田菜々の1番と8番、メイショウ2頭の1番と8番。ダイユウサクの有馬記念ともつながるのね!」
マスターが大きく頷いて言った。
「キャロラインママが入って来たとき、トレンチコートのような恰好で、『話は全部聞いた』と言っていました。あれは『太陽にほえろ』の山さんだったのでしょう」
■ サクラプレジデント
マスターが説明を続ける。
「今週の重賞インフォメーション。中山記念の過去の優勝馬がサクラプレジデントでした。そこから我々はキョウエイマーチの桜花賞につなげたわけですが、サクラプレジデントにはもうひとつの意味があったのでしょう」
「もうひとつの意味?」
ギョニ子が訊いた。マスターが頷く。
「それは田中勝春です。中山記念のサクラプレジデントは武豊でしたが、デビューからダービーまではスプリングステークスを除き田中勝春騎手でした。今日、秋山真一郎騎手の引退式がありますが、田中勝春騎手も秋山真一郎騎手も、引退式を開いてもらい調教師に転身するという共通点があります」
「そして田中勝春騎手の前に引退式を開いてもらったのが・・」
真一郎が言った。マスターが頷いて続ける。
「そうです。熊沢重文騎手。ダイユウサクの騎手ですね。そして・・・」
マスターはそこでためを作った。
「阪急杯こらぼふぇすのベストアクターを思い出してください。ベストアクターからの『ベア』・・・意味は熊ですね?」
「おおお!」
タコ社長が思わず叫んだ。
「ベストアクターは熊沢重文も示唆してたのかい!」
スナック忘れな草の勝負馬券は、18番メイショウホシアイの単複に加え、1番と8番で「18番」というシナリオも想定し、馬連とワイドの1-8も追加することとなった。
1-01 ウインマーベル
4-08 カルロヴェローチェ
8-18 メイショウホシアイ
■ 愚か者よ
「さて、酒場に集まった愚か者のみなさん」
マスターが含みのある言い方をした。
「もし100円しか馬券を買ってはいけないと言われたら、私は阪急杯の3連複、1番8番18番を買いますね」
「その根拠は何かしら?」
麗子ママが尋ねた。
「3連複の1番8番18番は・・」
マスターはスマホを操作しながら言った。
「現在370倍あたり・・・ひょっとしたら、確定したときは390倍程度になっているかもしれません。今日子ちゃん、『女性のためのNISAセミナー』で、日経平均株価の話題が出たでしょう?」
あっと声を挙げてからギョニ子が答えた。
「ええと、木曜日だかにバブル期の史上最高値を更新したのよね?・・・3万・・」
「3万9,098円68銭です。阪急杯とは限らないかもしれませんが、どこかでそれに似た配当がでるかもしれませんよ」
マスターがそう言うと、タコ社長が言った。
「それが阪急杯かもしれねえってわけだな?」
マスターが頷く。
「社長さん、マカロニ刑事を演じていたのは誰でしたっけ?」
「そりゃああれだよ、萩原健一じゃねえか・・・・・あああっ!ショーケンってことか!」
マスターがニヤリと笑って頷いた。
「こりゃあ一本取られたぜ!なるほどショーケンは日経平均株価にお似合いだ!株を扱うのは証券取引所だからな!」
みんながおおという歓声を挙げ、それからしばらく拍手が鳴り響いた。マスターはリモコンを操作すると、萩原健一の『愚か者よ』を入れ気持ちよさそうに歌い始めた。
まったく愚か者の集まる酒場だなあ。真一郎はしみじみと思った。
スナック忘れな草
阪急杯 勝負馬券
◎18番メイショウホシアイ
〇1番ウインマーベル
▲8番カルロヴェローチェ
穴5番メイショウチタン
単複:18番
馬連・ワイド・3連複・3連単:1-8-18 ボックス
ワイド:5-(1.8.18)
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