マーダーミステリーの「嘘がつけない」ルールと「葛藤」を乗り越えるドラマについて

マーダーミステリー界隈では一時期、「犯人以外も嘘がつけるかどうか」の議論で盛り上がっていました。私は思うことがあったのですが、そのときに忙しかったために、この問題にそこまできちんと向き合っていませんでした。それは私たちの作るゲームのなかでわかるだろうと、たかをくくっていたのかもしれませんね。

ところが最近GMをしていて、私たちのスタンスをきちんと話した方が、参加しているみなさまの満足度が上がるということに気がつきました。なので、少し長くなりますが、この件について、思っていることをまとめます。

まず先に前提として、「嘘をつく」「嘘をつかない」どちらにもメリット、デメリットはそれぞれあり、どれが正解とはいえず、いろいろなマーダーミステリーがあっていい、ということは間違いありません。このことは念頭においていただければと思います。

フィネガンズウェイクでは、「脚本にないかぎり嘘をついてはいけない」という「ちょこっと嘘つきルール」を採用しています。嘘をついていい項目は、かならず脚本に指示があります。たいていは、「一番聞かれたくない事は、嘘をついていい」などになります。

そのルールを決めたのは、ひとえに、「役を楽しむ」のなかに、「役のなかの苦悩や葛藤や追い詰められる感じを楽しむ」が含まれている、と考えているからです。

えっ、そんなマゾな!(ちょっとひくわ・・)だとお思いかもしれません。

でも、思い出してみてください。

私たちは物語というものに触れるとき、小説にしろ映画にしろアニメにしろ、本当にキャラクターに心を動かされ愛するに至るのは、そのキャラクターの「葛藤」を知って、それを乗り越える姿に感動するということではないでしょうか。

誰ともうまく付き合えない人が大切な人に出会って心を開いたとき、ずっと思い悩んでいたことがなんとか解決したとき、ずっと好きだったけど言えなかった人に思いが伝わったとき、両立できない二つの道からひとつを選びとって人生を踏み出す瞬間。ずっと縛られていた何かから解放されて走り出す瞬間。それらはすべて、「葛藤」が最初にあり、登場人物の「努力」によって「解決」を導く、主人公の「ドラマ」なのです。

「物語を体験する」ことを目的にするマーダーミステリーでは、当然、キャラクターを通して、それを演じるプレイヤーにも、「葛藤」が生まれます。不運や落ち度や苦悩や聞かれたくないことを抱えて、人はいつも生きている、ゲームのなかでも、それと同じです。

もし、そんなとき、聞かれて困ることに嘘をついたらどうなるでしょう。おそらく少しだけ、心が軽くなります。そしてそれと同時に、気をつけなければならないことが少しだけ増え、少しだけ楽しみが減ってしまうのです。

私たちは、その「少し」の楽しみも一緒に、もれなくみなさまにお届けしたい。100%楽しんでいただきたい、そういう気持ちで、「ちょこっと嘘つきルール」を考案して、決めました。

あなたの「困っている」「苦悩している」「だけど、なんとか答えを見つけ出そうと踏ん張る」、そんなあなただけのプレイスタイルを、ほかのプレイヤーは必ず見ています。そして、おそらく物語そのもの以上に、そのことに心を動かされるのです。私たちはそんな「場」と「時間」を作り出したいのです。

以上が、不自由に感じる「嘘がつけない」を、必要なルールだと私たちが思っている理由です。それを少しでも知っていただき、ご理解いただけたらと思って書きました。

今後、フィネガンズウェイクは、すべての一般公演に対し、ロールプレイ大賞を設けます。ベストアクトを演じた方、みんなの心を動かした方、世界観を作ることに一番協力してくれた方に、「ありがとう」を言うためです。

ご協力、よろしくお願いいたします!






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