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『絶望するマルフィーザ』(1532~1535)解説

原題はMarfisa disperata。原文はイタリア語。1532年から1535年にかけて成立した。作者は16世紀イタリアで活躍したピエトロ・アレティーノである。その名前は『狂えるオルランド』第46歌14連で言及されている。

アレティーノは、アリオストの名声に倣おうとして『狂えるオルランド』の続きを書こうとした。その主な目的はイタリア北部のマントヴァを支配するゴンザーガ家から後援を得ることである。アレティーノは『絶望するマルフィーザ』の草稿をゴンザーガ家の当主に送って家系の記述に関する指示を仰いでいる。

当初、アレティーノは『絶望するマルフィーザ』を『狂えるオルランド』に匹敵する3万行に及ぶ大作にするつもりであった。しかし、アレティーノとゴンザーガ家の関係が疎遠になったせいで『絶望するマルフィーザ』は全3歌で未完に終わった。その長さは予定の10分の1にも及ばない。アレティーノはほかにもオルランド、アストルフォ、アンジェリカを表題にした作品を書いている。

『狂えるオルランド』の第46歌140連、すなわち作品の最後でロドモンテはルッジェーロに破れて冥界に落ちたと言及されている。アレティーノはそこから話を続けてロドモンテの冥界行を語っている。冥界に落ちたロドモンテは冥界の王プルートーンを屈服させようとする。冥界を侵略から守るために亡霊の中からロドモンテに対抗できる騎士が選ばれることになる。亡霊たちはそれぞれ生前の武勲を自慢する。最後に選ばれたのはマンドリカルドであった。戦いの中でロドモンテは冥界の川に落ちる。川の水の忘却の力で野心を失ったロドモンテは、地上に戻ってイザベルの墓を見つけて悲嘆に暮れる。

表題になっているマルフィーザの名前は本文中にほとんど登場しない。それでもマルフィーザが表題になっているのは、先述のように未完の作品だからである。おそらくマルフィーザの出番が来る前に話が終わってしまったと考えられる。

影響を与えた作品としてフィリップ・デポルト『ロドモンテの死』(1572)と『ロドモンタード』(1603)がある。なお訳出にあたってはDanilo Romeiが編纂したPoemi Cavallereshi (1995)を注釈書として用いた。

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