ベストトゥベストという違和感
POGの時期などになると、アンチ血統派でよくノーザンFはベストトゥベストだから云々という評論がよくなされますが、当然、血統的見地に基づく深い配合の考えがあることがうかがえます。
たとえばノーザンファームで生産された1歳馬に母父がSaint Balladoの馬が2頭いて、いずれも父はスマートファルコンです。また同年にノーザンファームで生産されたスマートファルコン産駒は8頭いるのですが、母シーズインポッシブルはYankee Victorで、その父がSaint Balladoなので、8頭中3頭がスマートファルコン×Saint Balladoもしくはそれに準ずる配合ということになります。
Saint Balladoの父はHaloでスマートファルコンの父はゴールドアリュール、その父はHaloの子孫であるサンデーサイレンスなのでいわゆるHaloクロスが発生することになります。前述の3頭以外にもノーザンF1歳のスマファル産駒8頭のうち母ポップチャート(母父アフリート)は母母の父がサンデーサイレンス、母マヒナ(母父キングカメハメハ)は母母の父がMore Than Readyということで、ミスプロ系×ヘイロー系の配合となって8頭中5頭にHaloクロスが発生しています。
残りの3頭の内2頭は母父Storm Bird系となっていて、1頭分類不能ですが、おおよそ「母父がSaint Ballado系」「母父がミスプロ系で母母父がヘイロー系」と「母父がStorm Bird系」の3分類になります。これだけ簡単に分類できるとなるとノーザンFはスマートファルコンの種付けに対し何らかの考えがあるとする方が自然であるといえるでしょう。
ただ、こういう風に書くと今日日ミスプロ系×ヘイロー系なんて母は腐るほどいるし、配合なんていうほどのものじゃねーだろと反論する人が大体出てくるでしょう。
しかし、社台ファームでは6頭生産されていて母エルヴィエントがサンデーサイレンスとマイライフスタイルという全兄妹クロスがあるので例外となりますが、それ以外に5代血統表内にHaloを持つ産駒がいません。ただし6代ですと母エンドレスビジネスはHaloクロスとなります。それでもノーザンFほどクロスさせることに対し積極的ではなさそうです。
そして6頭中3頭が母父フォーティナイナー系(その内2頭はエンドスウィープ系)となっていて、内2頭は母母父がSadler's Wellsです。母父がフォーティナイナー系ではないミスプロ系となる母シンデレラロマンスもSadler's Wellsを血統内に有しています。しかしノーザンFではミスプロ系でもフォーティナイナー系との交配はありませんし、Sadler's Wellsを持つ繁殖牝馬との子供も存在しません。最低でも社台ファームとノーザンファームではスマートファルコンに対する配合の考えが違うと見るのが自然ですよね。同父への解で言えば2頭1歳を生産しているパカパカFも「母父タイキシャトル」「母父Storm Bird系」であるので、ノーザンFに近い立ち位置かもしれません。
他にも例があります。
ノーザンFでは1歳の母の父がロックオブジブラルタルは5頭生産されていて、うち3頭が父ディープインパクトです。
1頭はミッキーアイルの全妹である母スターアイル。オーナーズで高額募集となっています。
後の2頭はセレクトセールを欠場した愛1000ギニーの勝ち馬であるサミターは1歳が初年度産駒、アメリカの芝GⅠ勝ち馬であるダイヤモンドレラは14年産(現2歳)の半姉が父Distorted Humorで1歳が日本で種付けされた初めての産駒とフレッシュな顔ぶれになります。
ミッキーアイルの活躍を受けてとなるのでしょうが、ディープインパクト産駒は馬体重が小さい馬と大きい馬の獲得賞金で明白に差がつく種牡馬ですので、産駒の大きさが考慮されるはずです。ロックオブジブラルタルを父に持つ繁殖牝馬はアビラやプラチナチャリス、スターアイルもそうですが産駒が大型になりやすいので、そこらへんを見込んで導入されたり、交配された可能性もあるでしょう。
サミターやダイヤモンドレラのように「ノーザンFのロックオブジブラルタル産駒持ち込み繁殖牝馬」というジャンルの新顔でウェイクミーアップなる繁殖牝馬がいて、この馬は英2000ギニーを快勝するなどGⅠを複数回勝ったDawn Approachの半姉となります。今年の1歳はNew Approach産駒なので、血統的にはかなりDawn Approachに近い構成となっています。
Dawn Approachが英2000ギニーを勝って英ダービーへ挑む際、ゲノム検査でCC、スピードタイプに分類されていて距離が持たないのではと言われていて、因果関係は定かではないですがダービーは大敗に終わります。こうした市井の情報が周知されてないとは思えないので、ロックオブジブラルタルを経由してないとはいえ、この馬にもやはりディープインパクトを交配するのか、一つ注目していた点であります。
結果からいうとオルフェーヴルが種付けされました。他のロックオブジブラルタル産駒ではサミター、スターアイルはディープインパクト、ダイヤモンドレラ、アビラがハーツクライでプラチナチャリスも15年の種付けは不明ですが15年産はハーツクライでした。この違いを考えるだけでも様々なことを論じることが出来るでしょう。
これらは全て当事者ではないので想像の域の話ですが、ベストトゥベストだから血統は…という人はハナから読む気がないとしか思えず、まともな批判ではないでしょう。
また批判の対象になる血統派においても、血統から推論を語るためには、ありとあらゆる配合の事情、牝系の特徴などを統計だったり歴史だったりを頭に入れて、早い段階から色々な可能性を仮説として考えながら、修正を施さないといけないわけです。走ってからスマートファルコンとSaint Balladoはニックス!とかディープインパクトとロックオブジブラルタルはミッキーアイルをはじめとしてスピードに富んだ~とか言われても「そんなん1年前から分かってたし、ノーザンFはもっと前から分かっとったわ」という話であって、甲子園を見てこの投手はすごい!となっても地方大会や中学野球から見てた人にとっては当然であることと同じ原理です。つまり結果が出る遥か前から予測することが血統を読み解く力量をはかる上では血統表を見てどうなるかより重要な能力になるわけですね。それは血統だから出来る話ですし、種付け・生産された段階で話すようではよほどの精度でないと遅すぎる推測になるわけです。
いずれにせよ生産者の配合は重要なヒントなわけですから、それを見るというのはあらゆる流派を問わず「知っていて当然」の事実でありまして「ベストトゥベスト」というくくりには強い違和感を覚えるというのが率直な感想となります。