ねごと
夜中、寝られないでいたら彼が突然話しかけてきた。
「鉄のフレームワークが。」
「鉄のフレームワーク?」と聞き返すと、
「ちょっと別のところになった。」とのこと。
寝言だった。彼は建物の設計をする仕事をしている。大事なアイデアかもしれないので携帯にメモしてラインで送っておいた。
わたしはそのあともしばらく眠れずにいた。彼はこちらに背中を向けて寝息を立てている。
そろそろ羽毛布団をしまいたい、4月半ばの真夜中。ゆっくりと電車が走る線路沿いの幸福なワンルーム。
彼が今度は、こちらに向き直って言った。
「なんとか向き合って、一緒にいきていくしかない。」
目は瞑っているけれど、こっちを向いてはっきり言った。
「ありがとう、一緒に生きていこうね。」と言ったら、お礼を言われた。
わたしも「こちらこそありがとう。」と返してようやく眠った。
翌朝聞いたら、彼はこの会話を全然覚えていなかった。これも寝言だったのだ。
「寝言と会話すると、よくないことが起こるっていうよ。」と気をつけるように言われた。
いろんなことがある。いろんなことをお互い抱えてる。いいことも、つらいことも。
でも、なんとか向き合って一緒に生きていきたいなあと思う。
今度は彼が起きているときに、わたしからそういうふうに伝えたい。彼から出てきた言葉を、ずっとやさしくあたたかくして、彼に返してあげるのだ。そして一緒に生きていくのだ。
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