「ヴァンパイア:ザ マスカレード第5版について」~ かつての日本語版ユーザに向けて~


はじめに

 フロッグゲームズから2024年6月14日に『ヴァンパイア:ザ マスカレード第5版(以後、V5)』、『ハンター:ザ レコニング第5版(以後、H5)』、『ワーウルフ:ジ アポカリプス第5版(以後、W5)の3作品の翻訳が発表されました。

https://x.com/Froggames_jp/status/1801532686886125725

 かつて、アトリエサードから発売されていた旧日本語版を遊ばれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?この文章は、『ヴァンパイア:ザ マスカレード日本語版(以後V:tM日本語版)』(*1)で遊ばれた方々を対象として(ごめんなさい、初めての人向けではありません!)、V5はV:tM日本語版とどう違うの?昔出版されていた新しい『ワールド・オブ・ダークネス(以後、nWoD)』(*2)や『ヴァンパイア:ザ レクイエム(以後、V:tR日本語版)』(*3)との関係は?という疑問に答えることを目的として書かれています。

 なお、内容はV5基本ルールブックのみに基づいています。訳語につきましては、V5公式ではありません。V:tM日本語版、PCゲーム等を参考にしたもの、筆者が独自にあてたものがあります。
 筆者もV:tM日本語版からWoDに入門した人間ですので、勘違いなどあるかもしれませんが、もし見つけたらこっそり教えていただけると幸いです。

そもそもV5ってどんなゲーム?

 プレイヤーキャラクターは全員がかつて人間だった吸血鬼として、吸血鬼の本能と人間性との狭間で吸血鬼社会を生き抜いていく…と、基本的な路線はかつてのV:tM日本語版を踏襲しています。設定的にはV:tM日本語版の続きなのですからある意味当然かもしれません。システム面ではV:tM日本語版と同じダイスプール制を保ちながらモダンな作りに寄せており、人間性や飢え、體血のルールにも追加や変更が入り、格段に遊びやすくなっています。

 いくつか追加や変更はありますが、特徴的なルールとしては、吸血鬼であるPC達を人間側に引き留める大事な人々である【タッチストーン/Touchstone】、PC達が自らの領地である版図を持つルール、吸血鬼社会の大事件や重要人物と直接かかわりを持つことが出来る【ロアシート/Loresheet】、人間の血液タイプが様々な影響を及ぼす【余韻/Resonance】でしょうか。

 また、V:tM日本語版から時代が進んだため、現実世界の写し身たる暗黒の世界、ひいては吸血鬼の社会も激変しています。その結果、よりプレイヤーキャラクター達の重要性が増し、NPCの強力な長老に翻弄されるだけでなく、自分達で道を切り開いていけるようなセッティングになっています。もちろん、変化はあるにせよかつてのようなセッティングで遊ぶことも可能です。

じゃあ、V:tM日本語版からどう変わったの?

 では、V:tM日本語版からV5までに何が起きたか、大雑把ですが重要そうなものをピックアップしてみましょう。

1.吸血鬼の存在バレ(ただし政府の特定の機関にのみ)
 ゲームタイトルにもなっている「マスカレード(仮面舞踏会)」、かつて人間による中世の異端審問で多くの犠牲を出した吸血鬼は、人間からその存在を隠匿しなければならないという掟を守ってきました。しかし、吸血鬼のネットサービス活用が原因で限られたいくつかの政府機関に吸血鬼の存在が露見します。
 彼らは他の政府機関や一般人にその情報を公開せず(何しろ吸血鬼達がどこまで政府機関に食い込んでいるのか誰にもわかりません!)、レオポルド教会という古くからの退魔組織と手を結び、強力な近代兵器と資金を背景に二度目の異端審問 ― 【第二審問/Second Inquisition】 ― を始めたのです。
 これにより吸血鬼の長老が数多く滅び、辛うじて生き残った長老達も第二審問を恐れて表舞台には出てこなくなります。また、カマリリャに現代のコミュニケーションツールを忌避させる切っ掛けとなりました。

2.消えた長老たち
 一方、サバトは【ゲヘナ戦争/Gehena War】を宣言し、アンテデルヴィアン(あるいは強力なメトセラ)を滅ぼすための聖戦を起こします。ほどなくして、まるでサバトからの保護を求めるかのように【招き/Beckoning】と呼ばれる現象が吸血鬼達を襲い、あらゆる氏族の長老(*4)が抗いようもない呼びかけを感じるようになったのです。それは【ゲヘナ戦争】へ彼らを誘い、サバトとの戦いに身を投じさせることになりました。そして、今だ【招き】に抵抗を続ける極少数の長老を除いて北米から強力な吸血鬼が一掃されることになったのです。
 【第二審問】に続き、この【招き】によって吸血鬼社会は大打撃を受けます。

3.カマリリャ、サバトの衰退と叛徒の躍進
 カマリリャ、サバト共に【第二審問】、【ゲヘナ戦争】と【招き】で打撃を受けました。サバトの支配下だった少なくない都市は放棄され、カマリリャを支える強力な長老を何人も失い、両派閥とも弱体化したのです。それに伴い、勢力を伸ばしたのが叛徒、自由を求める吸血鬼達でした。サバトにより放棄された都市などが叛徒の都市に塗り替わります。
 なお、それまでに起きたカマリリャと叛徒間の事件により、両派閥は決定的に対立することになります。

4.変化する氏族たち
 各氏族も立場やそのあり方が変化することになります。その中でも大きくあり方を変えた氏族をピックアップしました。この激変する情勢の中、独立氏族としての存続は困難であり、大抵の氏族は何れかの派閥に所属しようとしています。

■ トレメール
 ウィーンの本部を【第二審問】に破壊され、トップを失ったトレメール氏族は複数の流派に分裂します。また、彼らの体質も変化し、血潮の持つ力が弱くなるという新たな弱点を持つことになりました。

■ ブルハー
 カマリリャと叛徒の対立が決定的になった会議で、カマリリャのトップのひとりを殺害し、ブルハーはカマリリャを脱退しました。現在は主に叛徒に属しています。

■ バヌ・ハキム/Banu Haqim(旧アサマイト)
 バヌ・ハキム(ハキムの子ら)は、目覚めた古代の長老により勃発した氏族内闘争の結果、分裂しました。そのうちの一派がカマリリャへ接近しつつあります。

■ ヘカタ/Hecata(旧ジョバンニ)
 危機に陥ったジョバンニ氏族は、髑髏の先駆者などの関係する血脈を招集します。合流した彼らは依然としてどの派閥にも属さない、独立氏族ヘカタとして再出発することになります。

■ ミニストリ/Ministry(旧セトの信徒)
 ミニストリと名前を変えたセトの信徒は、バヌ・ハキムの一派と同じようにカマリリャと緊密な関係を築こうとしています。

■ ラヴノス
 1999年に起きた悪夢の週という事件(以前のV:tMラインでも起きた事件)により、ラヴノス・アンテデルヴィアンが滅んでいます。その時の余波で氏族は壊滅状態になり、少数が生き残るのみとなりました。

そういえば新しい方のワールド・オブ・ダークネスってどうなったの?

 かつて、nWoDやV:tR日本語版が日本でも発売されていました。「V5がV:tM日本語版の続きなのはわかったけど、そっちはどうなったの?」という方も居るかもしれません。ここでは、同シリーズについてさらっとですが触れようと思います。

・今は名前が変更されています
 V:tM日本語版の元になっている英語のV:tMラインはゲヘナが訪れるシナリオにより、展開終了しています。終了後に設定も新たにスタートしたのがnWoDシリーズのひとつであるV:tRなのですが、V:tR日本語版はV:tM日本語版と設定の連続性がありません。そしてnWoDは、紆余曲折あって現在ではChronicles of Darkness(以下、CofD)という名称に変更しています。

 なので、V5とは設定的な繋がりがない別ゲームと考えるのがよいでしょう。

各システムの位置付け(概略図)(*5)

おわりに

 V5は以前と変わらぬ楽しさと、以前よりプレイしやすくなったルール群、刺激的なセッティングと「あのV:tMが帰ってきた!」と言っても差し支えない、良いシステムだと思います。
 英語版が対象ですが、既にBCDiceにダイスボットも存在しており、手前味噌ですがココフォリア対応のキャラクターシートもあります。ですから、オンラインでのプレイ環境も既に整っているといえるでしょう。
 日本語版が無事発売されたら、オンラインでもオフラインでも是非遊びましょう!

脚注

(*1):アトリエサードより2000/8/1出版
(*2):アトリエサードより2005/8/1出版
(*3):アトリエサードより2006/12/1出版
(*4):実は例外もあります
(*5):以前のV:tMラインとV5の間に20周年記念版/20th Anniversary Edition(4版相当)がありますが、図からは省きました