幸せの仕草

少しオレンジがかった照明と会場一面に広がる赤色の海。
ああ今日もまた、世界でいちばん優しい時間が始まる。私は手に持っていたペンライトをもう一度ギュッと握りしめ、静かに始まるその歌に耳を傾けた。

『ゆめのものまね』

浦島坂田船7thアルバム「Toni9ht」に収録されている坂田さんのソロ曲であり、私が昨夏幾度となく泣かされてきた曲。暖かみのある歌詞が、柔らかな表情が、仕草が。その全てが私の涙腺を刺激する。ライブという空間の中で私がそれに敵うはずもなく、毎公演視界を滲ませながら聴いていた。

君が笑うから 僕も笑えた

この曲はイントロが無いため歌い出しが曲の始まりとなる。どうやら坂田さんは私たちを生かしておく気はないらしい、そう感じる歌い出しに思わず笑みがこぼれる。

気がつけば私の生活は坂田さんを中心に回っていた。坂田さんが楽しいと私も幸せだし、坂田さんが悲しいと一緒になって悲しくなり、なんとかその苦しみを軽くできないか考える。
そんな私の勝手な想いを坂田さん自身が私たちに向けて歌ってくれるのだ。一緒だよ、と。それだけで涙が溢れて止まらなくて。今日は精一杯かわいくありたいと整えた顔もぐちゃぐちゃになってしまう。でも好きの感情って案外こういう物なのかもしれないな、と納得してまた泣いて。とにかく今回は坂田さんの姿をくっきり捉えることが最大の難所だったかもしれない。常にぼやける視界と闘っていた。

祈り方も 救い方も
知らないままで良い
僕はただ 君が好きだよ

ライブという特別な空間で歌われる「夢じゃないのは そこに君が居るから」「ちゃんと顔 上げて 行くんだよ」という歌詞。そしてサビの終わりには真っ直ぐで飾らない言葉。そこここに散りばめられている"坂田さんらしさ"はここでも顕在だ。
いつも坂田さんの紡ぐ優しい言葉に助けられている私にとって、何よりも素敵な贈り物だった。

いつか僕等も 歳を取って
忙しさに 思い出は少し 霞むと思う
それなら 不意に クセに出るほど
幸せの仕草を 真似し合って覚えておこう

2番に入ると坂田さんはステージ中央から上手に移動する。これは心情の変化であったり時の流れを表しているのかもしれない、と私は感じた。
そして次のフレーズ「クセに出るほど」で坂田さんはリズムを変えて歌う。今では元の音源でこのフレーズを聴くたびにライブの歌い方、光景を思い出して胸がいっぱいになる。私はこれこそが「幸せの仕草」なのだと思った。ただ単に歌いやすかっただけかもしれない。それでも一つ一つの言葉をとても大事に歌う坂田さんがこの部分に歌い方の「クセ」を入れたのだ。意味を見出さずにはいられなかった。

空っぽだったよ
嘘っこだったよ
マガイの僕を
ホントにしてくれた あなたへ

「君へ」ではなく「あなたへ」と歌うラスサビ。私はここも狂おしいほどに好きだ。ここまで「君」だった歌詞が唯一「あなた」に姿を変える。この心地の良い違和感のおかげで坂田さんから放たれる言葉がより強く真っ直ぐ届くのだと思った。

幼い頃から音楽が好きだった。歌うことも演奏することも、もちろん聴くことも。そんな大好きな音楽を通して私は坂田さんに出会った。
楽しそうに歌う坂田さんが、丁寧に歌う坂田さんが、歌うことが大好きな坂田さんが私は大好きだ。他の誰でもない、坂田さんがこの歌詞を歌うからこんなにも心が震えるのだ。空っぽでも嘘っこでもない。世界にただ一人しかいない、大切な人。

「ありがとう 君が好きだよ」なんて私のセリフだけれど、どうしたって坂田さんには敵わないから。少しでも気持ちを返せるように、これからも一緒に夢を追わせてほしい。

坂田さんに出会えてよかった。


『ゆめのものまね』

浦島坂田船7thアルバム「Toni9ht」に収録されている坂田さんのソロ曲であり、私が昨夏幾度となく泣かされてきた曲。

そして、この先も決して忘れることのない、私の幸せの仕草。

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