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ffeen pub立ち上げの経緯


こんにちは。

2023年6月に最初の小説アンソロジー『FFEEN vol.1』をリリースして始動した出版レーベルffeen pub(フィーン・パブ)の運営・編集をしております、嶌山景です。嶌山景の読みは、しまやま・けい、です。

ある日いきなり始動して、ろくにご挨拶やレーベルの紹介もしないままここまできてしまいましたが、今更ながら簡単な紹介文といいますか、宣言文といいますか、を書いてみています。

時を遡り2022年9月2日、私はガタゴト電車に揺られ、さいたま芸術劇場に岡田利規演出の「わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド」を観に行ったのでした。その作品では「身体の声を聞く」ということを巡って対立するナラティヴや意見が、主演の湯浅永麻の身体を舞台として争われ、そのせめぎ合いが踊りを通して出力されていく。私たちは絶えず社会によって振り付けられ、また踊らされている。

私は舞台や演劇を観に行った経験が少ないのだけれど、これは本当に面白く、かつ普段から私が考えていることにとても近い主題だったので、一年後のいまも折に触れて思い出しています。ひとつの身体を生きながら、いかに「私」を複数化させることができるのか。

外的な要因からの振り付けを拒む道を探すのもいいでしょう。それはきっと困難なことに違いないけれど、そうした生き方には、強く憧れます。一方で一年前の私が思ったのは、もっとたくさんのナラティヴを身体のうちに留めおき、争わせ、それでいていつまでも決着の瞬間を延期させることができたなら、ということでした。もしそのような柔軟かつ広大な身体を獲得できたなら、もっとこの世界を面白がれるだろうし、いまよりずっと生きやすくもなるだろう、と。

そうした身体の獲得を目指す試みの一環として、ffeen pubは立ち上げられました。

だから、レーベル最初の活動として選ばれた形式がアンソロジーであったのは、必然でした。そしてそれはある特集やジャンルの名のもとできれいにまとめられたものであってはいけませんでした。もっと猥雑で、少なからぬ困惑をもたらすものでなくてはならなかったのです。そしてその困惑を最初に味わうのは、他でもなく私でなくてはいけません。てんでばらばらな個性を持った全ての作品を本気で真に受けてアンソロジーを編集するとき、私が編集しているのは当然アンソロジーそのものであり、同時に私の「私」らしさでもあると思うのです。

そしてそうした困惑は「他者への想像力」を育むのにも一役買うでしょう。

といいつつ、レーベルを発足し運営していく決意を固めるのには時間がかかり、ぐだぐだと毎日を過ごしていたら秋が去り、冬が去り、いつの間にか春になっていました。

2023年3月10日のことです。私はガタゴト電車に揺られ、渋谷にあるライブハウスWWW XにラッパーOMSBのワンマンライブ「OMSB KUROOVI’23」を観に行ったのですが、それが、これまでに観たどのライブよりも素晴らしく、存在の根っこから揺さぶられるような巨大な感動を覚えました。「俺もやらねば…」と非常にわかりやすいかたちで感化されて家に帰り、眠り、翌朝、ほとんど何の見通しもないまま、執筆依頼のメールを送り始めたのでした。

そんな風に始まり、何のご挨拶もないままやってきた弊レーベルに、ほんの少しでも関心を抱いてくださっている皆さまには、本当に頭が上がりません。ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

作家の皆さまも読者の皆さまも、未知との遭遇を主体的に楽しみつつ、ffeen pubという実験に参加していただけたら、とてもうれしいです。

あなたが、この試みを真に受けてくれることを、心から願っています。

嶌山景

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