4/6 + perfect days

きのう、生まれて初めて自分にしっかり満足できるレポートが書き上がった。本当にここまで「よく頑張った」って自分を誇りに思えるのが初めてでとっても嬉しい。これまでは過程のみならず成果物に対して「もっとこうできた、ここがイマイチだった」と反省点が残るのだけれども、今回は現時点でこれよりも磨くことはできないだろうと思える出来になった。

前にも書いた通りそれはPress kitという一風変わったレポートスタイルで、新聞記事をソースに政策形成過程を分析するというもの。まず初めにテーマをざっくり決めて記事を漁り始めたのだけれど、ざっと100本以上は読んだのではないかと思う。そこから得た情報を元に、岸田政権が「異次元の少子化対策」を練ったロードマップを自分でまとめた。それからいくつか争点となった部分を洗い出した(①教育政策入れる?②児童手当の所得制限撤廃する?③財源確保どうする?の3点になった)。

次に政策分析の分野で考案されてきたモデルたちのうちどれを使って分析するのかを決めるために、先行研究を漁った。私の場合①〜③の論点は政策過程のうち"Decision-making"の段階になるので、decision-makingを何タイプかに分類した代表的な研究を読んだ。

そしたらそれを合体させて、なんでどうやって①〜③の論点で結論が出されていったのかということを考察した。これがすごく面白くてしかたなくて、モデルに面白いほど合致したりあるいはモデルでは説明がつかなかったりして結果がとても示唆に富んでいた。1本1本の新聞記事というミクロな視点からマクロな全体像を自分で掴んでいくという作業も地味だけど楽しくて、ここでこの人がこういう発言をしたのはこういう政治的な動機からかとか背後にこういうプレッシャーがあるのかとかを紐解くのが面白かった。

あと、こちらにいながら日本の新聞ほぼ全てにアクセスできるという学習環境には本当に驚いた。FactivaというプラットフォームのアクセスをSciences Poの生徒は全員持っているので、それを使えば世界中の(多分数としては"West"の方が多いんだろうけど)新聞記事にたいていアクセスできてしまうのだ。

そして、日本の政策を分析することに決めたのもとても良かったと思う。オックスフォードの先生の研究室訪問に伺ったときに先生が「自分が膨大な量の日本の資料を目にしたときに、『自分はこれが全部読める、そしてそれを英語の研究として書ける。』という喜びに鳥肌が立った」とおっしゃっていたその感動が少しだけ(おこがましくも)わかる気がした。日本語じゃなかったら限られた時間で100本以上も新聞記事を読むことはできなかったかもしれないし、でもそれを考察した結果を日本語でも英語でも書けるということは学問をやる上で大きな武器になるのではないだろうか。

先生に読んでもらうの楽しみだな、どう評価されるかな。2年生のときにお世話になった教授にもアドバイスを乞うために送ってみようかな。


昨日はそのレポートを提出して、ご褒美に前々から見たかった"Perfect Days"という映画を見に行った。

こおおおおれが、とっっっっっってもよかった。

あまりにも良すぎたので、過度に言語化することはやめようと思う、それがときたま味を失わせることだってある。

今だからあの映画は私の心に染み渡ったんだと思う。

私にとって留学生活最大のテーマは、"How to be alone without feeling lonely?"だった。こっちに来て一人暮らしを始めて、学校も毎日あるわけじゃなくて、ひとりで過ごす時間が増えた。私はもともとすごくおしゃべりなタイプかつ「他人によって生かされる」ような人間なので、不意に寂しさという名の大きな怪物に襲われる少なくなくて、それを埋めてくれる「何か」「誰か」を探してしまうことがよくあった。

でもそれはとても貴重なことでもあって、自分の心の中を覗き込んで丁寧に向き合って、私自身の面倒をもっとよく見られるようになる練習を重ねることができたような気がしている。結局永遠に続く保証があるものなんてないし、自分で自分を生かしてあげなければならない。lonelinessじゃなくて、solitude that makes yourself fulfilled and flourished.

そんななかであの映画を見たからこそ、私の心の深層にまで入り込んでくる温かな何かがあった。まいにち同じで、まいにち一人だけれど、それでもさざなみのように存在する小さな変化。そのさざなみ1つ1つの余韻と、変わらないものたちとを抱きしめて生きるというやり方が、こんなにも満ち足りているんだ。それをperfect daysと名付けてくれてありがとうと言いたくなった。

フォンテンブローの森の中で、岩に座って木漏れ日を見上げながら友達と"How does a perfect day for you look like?"って話をしたことも思い出した。

この映画を見たことが私の日々への向き合い方に大きなヒントを与えてくれたような気がする。もしもまた寂しさに襲われたら、この映画を見に行こう。

見終わってこじんまりとした映画館を出たら、雨上がりのパリは相変わらず美しかった。もう寒さもほとんどなくなって、もたっとした春の生温かさが街を包んでいる。

帰りのメトロでは途中で乗ってきたおじさんが超絶技巧にアコースティックを奏で始めて、私の近くに座ってたおじさんがそれに合わせて甲高い声で陽気に歌い出して面白かった。降りるときに« Bon soirée »って言ったらおじさんはチャーミングな笑顔で返してくれた。

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