🇮🇹：イタリア家族旅行(後)記

たった今さっき、Saint Germain des Pres駅付近のレストラン前で兄と母にバイバイしてきた。

1週間前に2人がパリにやってきて、そこから数日フランスに滞在した後に3人でイタリアのローマ・フィレンツェ・ヴェネツィアを巡った。

こんなにも楽しい旅行があって良いのだろうかというくらいに、ただただ楽しかった。純粋に、最高だった。

青空の下で太陽の光を目一杯に浴びて、美味しいものをひたすら食べに食べに食べて、ローマの遺跡たちに感動したりフィレンツェのオレンジ色の屋根と緑色の川ののどかな景色に癒されたり、ヴェネツィアのどこを切り取ってもあまりに美しいその街並みに心を動かされたりしながら、この尊く大切な1週間は過ぎていった。

家族と離れてから9ヶ月が経って、留学生活をものすごく楽しんでいた自信はありつつも、やはり久しぶりに兄と母と過ごすこの10日間を心待ちにしていた。空港に2人を迎えに行く道では、無事に旅行を完遂できるだろうか、途中でトラブルはないだろうかと少し緊張したことを覚えているが、その時が来てしまえばまるでずっと一緒にいたかのように、暮らすように旅行ができて、やっぱり家族は家族なんだなあと痛感した。

明日は、明後日は、学校がない週末は、誰と会う予定を立てて寂しくならないようにしよう？一人で家にいて奇妙なほどの沈黙が流れるときは、どのPodcastを聴こう？心の調子が崩れたら、誰に頼れば良いだろう？

そんなことを一切考えなくてよかった。目が覚めたら母と兄がいて、気も頭もつかわなくてもおしゃべりやまなくて（それで最初の数日はめっちゃ疲れたし喉枯れるかと思った、私のおしゃべりさは血筋なのだなと痛感した）、シャワーを先に浴びさせて欲しいとか私の気になってるメニュー頼んで半分こしてほしいとか、そんなちょっとした甘えは家族にしかできないよなあと思った。留学で自分の心にじっくり向き合うことができたことはかけがえのない経験だし本当によかったと思っているけれど、やっぱりたまには家族と過ごす時間も尊いと感じたのでした。

今回の旅で一つ心に決めていたことは、たまに電話をすると兄や弟を心配して気が気では無さそうだった母が思いっきり楽しい時間を過ごすことができるようにしようということだった。その母は旅行中終始とびきり楽しそうで、どこに行っても積極的に自分の写真を撮ってくれと私に頼みまくりの大はしゃぎだったことは私もとっても嬉しかった。写真に映った母の明るい笑顔ときたら。

以前もこのnoteに登場した性格に難ありの兄と一緒に旅行をすることは高校時代からの密かな夢で、大学入学時からイタリア料理に凝りまくって家ではパスタやラザニアばかりを作っていた彼は「イタリアなら行く」ということだったので私の留学を期にこのゴールデンウィークのイタリア旅行が実現した。痩せに痩せ、小食も引くほど小食のお兄ちゃんが今までに見たことのないくらい沢山たべて、口が無駄に越えているため料理の味にもうるさい彼が「美味しい」と言ってちょっと嬉しそうな姿にはびっくりした。この歳にもなってやはり素直ではないのが本当に残念な人間だが、なんだかんだ言いながら目に見えて楽しんでいるのがとても伝わってきたので私も嬉しかった。

そして私も負けず劣らず楽しんだ。

フォロ・ロマーノに元老院とかそのまんまのローマの街が残ってるのをこの目で見て凄すぎてめちゃくちゃ感動したし、バチカン美術館のシスティナ礼拝堂の360度の絵画と最後の審判、アテネの学堂、ペリクレスやアウグストゥスの胸像なども見られて嬉しかった。フィレンツェで見たボッティチェリの絵画は想像以上に素敵で、なんとも優しい色合いとふんわりした構図が実物を見るとより際立って感じ取られた。ヴェネツィアのリアルト橋から見た空が淡いピンクに染まっていく夕暮れの景色と船場に灯ったランプの温かい光、ゴンドラに揺られながら通った細い水路たちと窓辺に植えられた赤いお花、飛行機から見たヴェネツィアのおもちゃみたいに可愛らしい姿、そんなものたちはもう感無量で、一生忘れまいと目に焼き付けた。

そして何より、食べ物が美味しかった、、、

来る日も来る日も、今日のお昼はあれ食べよう、夜はここ行こう、明日はこれ食べようって文字通りこれ以上ないくらいに美味しいものを食べまくった。イタリアは本当にすごい、信じられないくらい食べ物が美味しい……。手打ちの太くて小麦感たっぷりのパスタ麺に、トマトソースもびっくりするくらい甘くて新鮮で、モッツァレラチーズとかもう生クリームかと思った。ほんとに何食べても唸らないことは無かったレベル。ジェラートもほぼ毎日食べたのではないかというくらい、甘党ではないお兄ちゃんがマジで積極的に毎日ジェラートを探しているもんだから可笑しかった。

こんなに幸せで満ち足りていて良いんだろうかと少し途中で怖くなるくらい、完璧すぎる旅行だった。これからどんなことが待ち受けていようと、この1週間を心の拠り所にしようとそう思った。

イタリア最後の夜ごはん、お兄ちゃんはスプリッツ1口でノックアウトされて先にホテルに帰り、お母さんと2人でヴェネツィアの橋から見える夜景を見ながら話した時間がとても印象に残っている。

あんなに沢山笑って楽しそうに見えたお母さん、この旅行ですごく兄のことが心配になったらしい。あの歳でこんなに我が儘で素直じゃない人間で大丈夫だろうかと、このままどんどん年をとって偏屈な独り身オジサンになって周りに迷惑をかけるのではないかと、この旅行で久々にずっと一緒に過ごしてみてそう思ったらしい。どこで育て方を間違えたんだろうか、昔は優しい子だったのにと悲しそうに嘆くお母さんを見て、心がキュッて締め付けられた。

楽しくなかったのかな、お母さん。いつもお兄ちゃんや弟を心配して大変そうだからせめてこの旅で全部吹っ飛ばせたら良いなと思ったけど、逆効果だったのかな。そんな不安感が旅の最後に襲ってきた。

でも、親ってそういうものなのかもしれない、とも思った。

子供がいくつになっても心配なんだろう。兄は特に長男だから、いつになっても赤ちゃんのように見えるのだろう。旅行中せっせと兄の世話を焼くお母さんを見てそう思った。

きっと今の私はそこまで深く親心というものを理解できていないだろうけれど、まあ大丈夫なんじゃない、まがりなりにも一応働いているし、一人で充実した生活を送るのって私はなかなか得意じゃないからそれができるお兄ちゃんが羨ましいけどね、それから親や家族の前で素直になれない時点でまだまだ中途半端なガキとは言え外では案外社会人やれてるかもしれないよ、などと慰めになるかどうかは分からない意見を率直に述べてみるなどした。

それから、母は私がフランスへと飛び立って以来一念発起して国家資格を取るために猛勉強していたらしい。全然知らなかったけど相当頑張ったらしく、人生でこれまであまり勉強したことがない母の口から心理学の用語やら福祉制度やらが飛び出してくるもんだから驚いた。

弟がやっとこの春大学生になって、3人分の学費ももう貯める必要がなくなって、やっとお父さんとの老後を楽しみにできるお母さんにとって、この旅行が子育てお疲れ様祝いの楽しい旅行として記憶されていますように。

これから仕事や資格の勉強やら色々あると思うけど、束の間のリフレッシュ、いつでも帰ってゆける心の拠り所となりますように。

空港で最後に「若菜ガイドがプランしたこの旅行は10点満点で何点だった？」って聞いたら「10.5点！」って謎の0.5点を加算して答えてくれたお母さんの嬉しそうな笑顔を見て、これからもっともっと親孝行をするぞと心に決めた私でした。

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（追記）
昨日の夜にこれを書いてから1日経って、朝に目が覚めて、全部夢だったんじゃないかと思い始めた。

あまりにも完璧な旅だったから、そのことに対して何故か切ない気持ちすらも生まれてしまって写真を見返すこともできないほど。

この上ないほど楽しく幸せだとこうなるのかな。

コロッセオの2階のベンチで急に眠たくなってお兄ちゃんとバカみたいに爆睡したのは、
お母さんとチュイルリー庭園をお散歩しながら木漏れ日の下でこの瞬間ってあれかもしれないすごい特別なものなのかもしれないとぼんやり思ったのは、
一緒にゴンドラに揺られながらお母さんが30年前くらいにヴェネツィアに来た時にこの広い水路に出た瞬間の景色に感動したのを覚えていると言っていたのは、
その時に行ってあまりの美味しさに衝撃を受けたというレストランを、お母さんの記憶だけを頼りに2人で一生懸命探したことは、
カラカラ浴場で花粉症が勃発して1秒置きに盛大なくしゃみをしながら一刻も早くホテルに帰ってシャワーを浴びたいと言うお兄ちゃんをかわいそうに思いつつちょっとおもろいと思いながら見ていたのは、
3人でちょっと良いレストランでテーブルを囲んで美味しい美味しいって言いながら料理を分け合って、最後にはレモンの食後酒までキメてほろ酔いながらふわふわ気分でホテルまでの帰り道を歩いたのは、

全部夢だったのかしら。

数日後の期末試験に向けて勉強しなくちゃいけないのに、ずっとぼんやりそんなことを考えては手が止まっている。

ああ、楽しかったな。

大人になるにつれて、心配事も悩みも苦しみもなくただただ純粋に心の底から楽しくて仕方がない時間を過ごすのは難しくなっていくような気がする。だからこそ、この10日間がとっても幸せで大切だった。

やることは山積みなのだけど、もうしばらくはこの余韻に浸っているとしよう。