最後の合コン

自分よりも5歳、いやそれ以上年上の人たちが、「合コンに行きまくった」「合コンで今の奥さんを見つけた」だの話してるのは聞くけど、ぼくと同じ年代の人でそういう話を聞かない。今はもう街コンとかそういうのが主流なんかな。

前職の、田舎の会社で働いていたころに同期に誘われた。銀行員とか看護士とかがいるらしい。誘ってくれた同期と、ぼくと、同じ職場の先輩2人 (A, B)と合コンに繰り出すことになった。仕事終わりに先輩の車に乗って居酒屋に向かった。

居酒屋に到着した。ちょうど8人くらい入れるであろう個室だった。部屋の隅には滑り台があった。これが合コンの催し物か?数分後に、女の子たちが着た。就職して初めて銀行員や看護士を名乗る女性を目にすることができた。

「とりあえず生で」。合コンもとりあえずが通用するのか。ぼくは烏龍茶を注文した。今回の合コンに限らず、飲み会ではこの最初の注文から孤立が始まる。「あ、取り分けますね〜」。やっぱり女の子の合コンってここから始まるのかな、シーザーサラダのトングを誰が先に手に取って、取り分けるかどうか。気遣いができる女の子って点数稼げるんかな。

烏龍茶もシーザーサラダも、後からきた料理も、どうでもよかった。ただただ、知らない女の子が前に座ってるということにひたすら違和感を感じた。自己紹介の内容は覚えてない。新入社員以来の自己紹介に緊張した。

目の前にいる女の子たちを見る時間よりも、隣に座っている先輩Aを見る時間の方が長かった。先輩Aはぼくと同じく女っ気が全くない。でも、めっちゃ女の子と喋ってる。なんで?その能力、どこで身に付けたん?いつもよりギャグにキレがあった。先輩Aは3歳年上だから、3年間のスキルの差か?先輩Bも流暢に会話をしながら、時折タバコ休憩に行き、楽しそうだった。

約40分後、一人の女の子が遅れてやってきた。保育士を名乗る女性を目にすることができた。5歳年下らしい。他の女の子たちはぼくと同い年あるいは1歳年上だった。

一次会はほとんど言葉を発しなかった。自分から話題を振れない、話に乗れないせいで「反抗期の高校生か?」と疑われた。

一次会を終え、二次会の話が出たが、合コンの幹事の女の子は帰った。好みの男がいなかったのだろう。たとえ幹事であってもその行動は正解だと思う。時間は有限だ。ぼくの好みの女の子は遅れてやってきた保育士の女の子だったから、帰っていいよって思った。

二次会、三次会、四次会まで、朝まで続いて解散した。LINEを交換した。看護士、銀行員、保育士。ぼくたちは好みの女の子を確認した。保育士の女の子を選んだのはぼくだけだった。他の女の子はテンションが高すぎて、ついていけなかった。

後日、保育士の女の子をご飯に誘った。すぐにOKをもらった。すぐにでも会う日にちを決めたかったけど、「ちょっと予定が立て込んでるんで、また連絡しますね!」って返事が返ってきた。

忠犬ハチ公のごとく、二週間近く待った。その間、友達の結婚式に出席した。知り合いに「最近いいことあった?」って聞かれたから保育士の女の子のことを話した。返事が返ってこないことは言わなかった。「もうすぐ実家に帰るなら、戻ってくるときにお土産でも買ったら好感度高いで?」。その提案を頭の片隅に置いておいた。

返事は返ってこない。落ち込んでボーっとしてると、ふとあることを思い出した。「ニュースで最近取り上げられてたな、、、」。ぼくはGoogleで調べた。「保育士」。

""近年、保育士の待遇が問題視されている。まず、給料が安い。とてつもなく安い。とてもじゃないが生活できない。労働環境も酷い。子供たちの世話を見るのはもちろん、子供たちが返った後、ひたすらサービス残業が続く。イベントの準備、子供を預ける親への、子供の近況報告の書類作成。モンスターペアレンツへの対応。etc。""

返事が来ないのは仕方ないと思った。毎日夜遅くまで働く保育士の女の子のことを考えると、なんて自分は身勝手なんだ、返事くらい待てるだろって、自分を責めた。

さらに数日待ったものの、返事が来ないことに痺れを切らしたぼくは、ダメ元で再度連絡した。このチャンスを逃すわけにはいかない。まだ一度もご飯を食べに行ってすらいないのだから。そんな思いが届いたのか、「じゃあ○日はどうですか?」と返事がきた。

「返事ありがとう、じゃあまたお店探しておくね」。「お店、ここでいい?」。予定の詳細を詰めて当日を迎えた。

当日、待ち合わせの時間に保育士の女の子は来なかった。しばらくして、LINEがきた。「あと20分くらい遅れます!」。ぼくはまた、思い出した。

""近年、保育士の待遇が問題視されている。まず、給料が安い。とてつもなく安い。とてもじゃないが生活できない。労働環境も酷い。子供たちの世話を見るのはもちろん、子供たちが返った後、ひたすらサービス残業が続く。イベントの準備、子供を預ける親への、子供の近況報告の書類作成。モンスターペアレンツへの対応。etc。""

仕方ないって。保育士だから仕方ないって。

「すみません、そのお店、知り合いの友人が働いてるので、別のお店でいいですか!?」。「いや、そのお店、あんまり美味しくないんで、、、」。こんなLINEが来たあたりで、ご飯とかどうでもよくなってきた。お店は、保育士の女の子が選んだお店に入った。

カウンターの席で、2人でご飯を食べる。長かった。今まで長かった。本当に長かった。保育士って、大変なんやな。「ところでさ、保育士の仕事って大変?」。ぼくは聞いた。

「おじいちゃん先生って私が勝手に呼んでる先生がいるんですよー、その先生がめちゃくちゃ私のこと気に入っててー。子供たち?かわいいですよー。今日は鬼ごっこしたりしてましたー。あとは、またおじいちゃん先生が面倒見てくれて、その間私は特に何も、まぁ楽しんでますよー」。

お会計のとき、保育士の女の子がお金を出す素振りはなかった。お金を出させるつもりは全くないけど、素振りがないって悲しいな。実家に帰ったときにお土産として買った、八橋を渡しておいた。好感度が上がったようには思えなかった。後日、また誘ってみたけど、LINEのスタンプで断られた。

合コンに誘った同期に対して女の子全員が連絡を取ってたと知って、またどうでもよくなった。終わり。




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