見出し画像

「二十歳のワイン」ができるまで

春:新型コロナウイルスのいたずら

「ワイナリーでアルバイトの仕事はありませんか?」
新型コロナウイルスの影響で、海外留学を目的とするこの春の渡航を断念せざるを得なくなった19歳の青年(通称Ted、村松 輝也、プロフィールは末尾参照)がフェルミエにやってきた。

コロナの影響でその週末の苗植えの人員確保に苦慮していた僕は即答、「是非、お願いしたい。」流石にワイナリーのアルバイトに自ら志願するだけあってこれまでの学生アルバイトとは畑での目の輝きが違う。

余談になるが、フェルミエでのぶどう栽培やワインの瓶詰めなどのアルバイトは彼の関心領域のほんの一部。留学できないことで生まれた貴重な青春の時間を謳歌せんとばかりにサーフィン、音楽、写真(個展も開催)などの趣味や、クラフトビールのイベントの主催に主体的に関わるなど彼の好奇心はとどまるところを知らない。おじさんには若者のこのエネルギーが眩しい(笑)。

コロナは春先の第1波こそ終息に向かいつつあったが、年内の渡航・留学の見通しは依然不透明な時期のこと。彼は間もなく7月に二十歳になるという。僕はふとした思いつきで彼に呟いた。
「"二十歳のワイン"を作ってみない?」
「・・・」という反応を予想したが、
「えっ、いいんですか? やらせてください!」
と生きのよい直球が跳ね返ってきた。
その時点で彼はまだワイン造りのイロハもわかってない。”二十歳のワインを作る”って一体、何をどうするのか、このおじさんは何を言ってるのか、さっぱりわかってなかったと思う。でも、怖いもの知らずで何にでも興味をもって挑戦できることが若者の特権だ。

夏:「二十歳のワイン」を考える

彼自身が考える二十歳のワインのポリシーは初めから明解だった。       
①新成人として夢や希望に向かうことを誓う門出のワイン
②若者らしい自由な発想で造るワイン

問題はそのポリシーを実際にどのようにワインで表現するのか…。       
栽培・醸造チームのメンバーで彼の二十歳の誕生日を祝う会(飲み会)が”二十歳のワイン” プロジェクトのキックオフミーティングと化した。7月のある晩のことだった。このミーティングでは、「二十歳のワイン」は成人式の日に乾杯するに相応しいスパークリングにしようということと、使用する主たるぶどう品種をナイアガラとすることが決まった。

品種の選定にあたっては、デラウェア、スチューベン...からピノ・ノワールまでひととおり彼なりに味わった。(失礼な言い方ではあるが、ピノ・ノワールの深い滋味など初めてワインを口にする若者に理解される由もなく、)彼の心を奪ったのはナイアガラから作られたワインだった。「これですよ! ナイアガラのこの爽やかで飲みやすい感じ。」 ワインの好みや楽しみ方は人それぞれであることに改めて気付かされる。

伝統的なワインの価値観、即ちぶどうの産地(テロワール)や品種、或いは造り手やその年ごと個性、料理との相性、さらにその背景となる地理的・歴史的・文化的・生物学的・醸造学的な好奇心を満たしたり、その解を求めてさらなる探究心をくすぐられたり…。フェルミエ はそういった、ワイン愛好家にこれまで永く信奉されてきた伝統的なワインの価値観を拠り所としている。だからこそ、フェルミエは「そのぶどうの産地(テロワール)やぶどうの個性を尊重して、それらが素直に現れるワイン造り」に頑なにこだわるのだ。

しかし、二十歳の青年はナイアガラのワインを造りたいという。ワインについての先入観もなければ、既成概念を擦り込まれてもいない彼は、テロワール主義でもなければ、歴史的背景を有する欧州の伝統的品種にこだわる訳でもない。素直に好きなものや美味しいと思えるものを嗜好する。フェルミエとしても嗜好や世代も様々な飲み手に一様に従来型のワインの価値観を押し付けることが是とは思えないし、時流や環境変化などに適応しなければいけない部分もあろう。それ故、僕自身、ワインの伝統的な価値観とは無縁の二十歳の彼の感性による、ワインに無垢な彼がプロデュースする”二十歳のワイン”の扉を開いてみたかったという思いもある。

秋:ワイン造りがスタート      

なぜ、敢えて野生酵母発酵と亜硫酸無添加にこだわる必要があるのか?

「二十歳のワイン」のスペックや醸造工程は一つずつ詰めていった。醸造手法については僕(栽培・醸造責任者)が醸造のそれぞれの工程での選択肢と各々の選択における考え方やメリット/リスクなどを彼に示した。ひとつひとつ熟考しながら彼は自らのテーマに相応しい醸造工程を決めていった。そして、醸造の現場では西岡(栽培・醸造担当)と二人三脚でワイン造りを遂行した。「二十歳のワイン」の主なスペックは以下のとおり。

全房プレス
健全なぶどうを入手できたので、良質な果汁を得ることができる全房プレスで搾汁

野生酵母発酵
仕込みの1週間前からフェルミエのピノ・グリを自然発酵させて種酵母を造るピエ・ド・キューブ方式。種酵母は2段階で培養して果汁への添加時の勢力を高める方法を採択

亜硫酸無添加
体にも優しいサンスフルを志向。細心のリスク管理を要する

無濾過/アンセストラル方式
ナイアガラの爽やかな果実味をボトルにそのまま詰め込むために、無濾過で発酵中の状態でそのまま瓶詰めし、瓶の中でさらに発酵が進むことで生ずる炭酸ガスをワインに溶け込ませて濁り発泡酒=ペティアンとして仕上げることに。

この中でキーになるのは難易度(=リスク)が高い「野生酵母発酵/亜硫酸無添加」である。僕は彼に問うた。「リスクが高いと説明した野生酵母発酵と亜硫酸無添加に敢えてこだわる必要はないのではないか? なぜ?」と。

「二十歳になるということは、社会人として自立するということ。自立するためには、まず自分自身の実力を磨かなければならないじゃないですか。だから、二十歳のワインも工業的に生成された酵母や亜硫酸の力を借りるのではなく、ぶどう自身のポテンシャルからできるワインにこだわることが新成人としてのメッセージになると思うんです。」

「なんとなくナチュラルって格好いいじゃないですか」くらいのフワッとした答えが返ってくるのかと思ってたが今どきの二十歳は大したものだ!


冬:瓶詰め、エチケット制作、出荷、そして未来へ

瓶詰め後は順調に瓶の中で発酵が継続するか、想定した発泡具合(圧)に仕上がるか腐心したが、細心の注意を払った甲斐があり想定以上の出来栄えだ。ナイアガラの爽やかな香りを追求したこのワインには、自然派と称するワインラヴァーのある層が好むような揮発酸やブレタノマイセスの香りは生じさせないように取り組んだのだが、野生酵母発酵・亜硫酸無添加でありながら、そのような要素は微塵も感じない。

「二十歳のワイン」のエチケットは2種類作った。

エチケットA
大志を抱いて歩む道の先に虹(夢/希望)がかかっているイラスト。七色の虹は若者一人一人の個性の無限の可能性も表す。イラストレーターの「ささい まり」さんに描いていただいた。

https://fermier.jp/?p=2102

エチケットB
グラスを掲げる自画像を彼がキャンバスに描き、これをエチケットに落とし込んだ。似てる(笑)。

https://fermier.jp/?p=2109

*それぞれのエチケットの「二十歳のワイン」はフェルミエ の店頭、またはWebショップで販売中。写真左がエチケットA,、右がエチケットB。

「二十歳のワイン」がもたらしたもの

このプロジェクトを通じてワインのあり方について改めて考えさせられた。
人それぞれのワインの好みや楽しみ方がある。そしてワインを楽しむ状況によっても選択されるワインは変わるし、あらゆる好みや状況に相応しいワインがきっと存在する。そんな多様性こそが”ワインの魅力ではないかと「二十歳のワイン」は教えてくれる。

「二十歳のワイン」は二十歳の若者には「幸多かれ!」と夢や希望に向かって一歩踏み出す勇気を与え、旧世代のおじさん達には「そう頑なになるなよ。こんな世界があってもいいじゃないか。」と柔和に耳打ちしてくれる。
ワインっていいよね(笑)。

コロナ禍の新成人へ

それにしても、現在のコロナ禍の渦中で成人式を迎える新成人の心境はいかばかりか? 彼のように夢を抱いて海外へ向かわんとする若者は行手を遮られ、多くの新成人は来春には大学3年生となり就職活動が始まるが、企業の採用方針はおろか世の中はどうなってしまうのか? 例年であれば新成人は夢と希望に満ちた想いで成人の日を迎えるが、今年の新成人にとっては社会も自分の将来も不透明で不安な状況だろう。それでも彼らは、彼が言っていたように自らの力を信じて自分を磨き将来に備えるしかない。時には仲間と手を携えて。
ポストコロナの世界では、社会のあり方も変容することだろう。これまでの価値観は崩壊するかもしれない。この「二十歳のワイン」の取り組みのように、彼ら世代の柔軟な個性や創造性が社会を変革しよりよい未来をもたらしてくれることに期待したい。

そこで、フェルミエ は新春1月5日に「”二十歳のワイン”オンラインフェス」を開催します。彼(村松輝也)がナビゲーターとなり「二十歳のワイン」で繋がる新成人が乾杯し、成人の日を前に今、どう思うか、将来をどう考えるか、互いに語り合い、少しでも勇気を出して頑張ろうと誓い合えるような機会になればという想いで。

【お知らせ】
二十歳のワイン」オンラインフェス(1月5日)開催

「二十歳のワイン」のリリースと新成人の門出に乾杯するZoomでのオンラインでのイベントを開催します。
1月10日に新成人を迎える方のご参加を募ります。
(年齢制限はございませんので、とっくに成人を迎えておられる方のご参加も歓迎です。)

《「二十歳のワイン」オンラインフェス開催要項》
・日時 2021年1月5日 19:00〜20:30
・形式 Zoomを利用してのオンラインフェス
・プログラム
 ナビゲーターは「二十歳のワイン」をプロデュースした村松輝也(20歳)
 ①「二十歳のワイン」とその取り組みについて(村松より)
 ② 「二十歳のワイン」で乾杯
 ③二十歳の抱負、不安、将来の夢や展望についてのフリートーク
・参加費 ワイン代 税込2,750円のみ
・申込方法 
フェルミエWebショップにて「二十歳のワイン」をご購入いただき、購入フォームの「その他」欄に「オンラインフェス参加」とご記入下さい。
zoomのURLとパスコードをお知らせ致します。

村松輝也 プロフィール

2000年 7月11日 新潟市生まれ。
趣味:音楽、写真、サーフィン、…

・幼い頃、祖母からちぎり絵とピアノを教わり、アートに興味を持ち始める。
・2019年(19歳) ヒッチハイクで旅に出る。北海道ニセコで住込みアルバイト
・2020年の海外留学を決めるも新型コロナウィルスの影響で新潟に留まることに
・2020年春より新潟のワイナリー Fermier にてぶどう栽培・ワイン醸造に従事
・2020年秋 個展(写真)「FINDING A FRAGMENT OF MEMORIES IN KOKAJIYA」開催
・2020年冬 個展(写真)「いわむろや」にて「世の常」を開催

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?