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フェルミエの栽培・醸造チーム

フェルミエでは2020年から写真の5人のメンバーでぶどう栽培とワイン醸造に取り組んでいます。このチームで2年目となった2021年は皆が熟練し、有機的に機能する誇らしいチームに成長しました。2021年は彼らの頑張りと、天候も幸いしてこれまでにない最良のぶどうを収穫することができました。

このチームを統括する立場にある僕と他のメンバーとの関係や、チーム内での連携についての記述です。

フェルミエの仕事の進め方

常勤は僕と西岡の二人。他の3人は週3日勤務だったり、レストラン業務との兼務だったり。従って、繁忙期でも4箇所の畑 計2haを実質3.5人で協働して栽培管理してきました。

畑でのぶどう栽培の仕事の大半は著しく難易度が高い作業というわけではないのですが、寒い日も雨風の日も猛暑の日もぶどうと向き合わなければなりません。また、彼らも人間ですからその日の体調の良し悪しや精神的にムラがある日もあったり、一人一人特性やくせもあり、得手不得手の作業もそれぞれにあります。単純作業であってもチームとしてワイン造りに対する思いを共有し、毎日毎日、一定レベルの精度を保って安定的に働いてもらうことはそれなりに難しいことです。

フェルミエでは、スタッフ個々の姿勢に対して問うことは「ぶどうとワインへの愛」の一点です。そして、チームとして作業方法や作業の精度/深度に迷いが生じた時に拠り所とする基準は、「その仕事のやり方や作業レベルが世界で通用するものか」ということです。

技術面の指導は、あまりにも有名すぎる山本五十六の言葉であり、僕も野球部での学生コーチ時代に教わった「やって見せ言って聞かせてさせてみせ…」を一つ一つ地道に、愚直に続けます。

チームプレーのためのコミュニケーションの重要性

そして、皆に口酸っぱく言っていることはコミュニケーションの重要性です。相手に伝わるように説明・指示したつもりでも聞く方が同じように理解しているとは限りません。「聞く方が正しく理解しなければ説明したことにはならない。しつこいくらい徹底する必要がある」と。熟練者は常に初心者の仕事に目を配り「教えっぱなし」にしないこと。作業の進捗などをこまめに共有して助け合うこと。作業現場ではコーチングの声を出して連携すること...。

栽培の仕事にはどんなに時間を要しようとも精度を優先しなければならない仕事がある一方で、例えば「いついつ雨が降る前にこの作業を終える。」とか、「明日からは次の作業に取り掛からなければならないのでこの作業は今日で終わりにする。」といった具合に天候や時間を意識して作業効率を優先せざるを得ない場合も多々あります。

フェルミエのスタッフは皆、真面目でマインドも高い面々なので、普段は完璧を求めてとても精度の高い作業をしてくれます。しかし、それでは後者のような状況の場合には一部のぶどうは十分にケアできても全てのぶどうに手が回らないことになり困るのです。そのような時には、僕は例えば捨象する作業を明示したり、「50%の精度でいいから2倍のスピードで」と、全体最適を意識した指示を出します。そして、作業効率を高めるためにチームとしての連携がとても重要になります。ぶどう栽培には、ここまでやればよいという限界はありませんので、効率の追求にも限界はないのです。

コーチとプレイヤーとのギャップ、指揮する側の問題

15年前に0.4haの畑でスタートした時はほぼ僕一人で作業すればよかったのですが、2haまで栽培面積が増えた今は、かなりの部分を彼らに委ねる必要があります。自分が想い描く、或いは自分だったらこうするという精度や強度で作業が進まないこともあります。

皆さんのお仕事の現場でも、いつも上司は「早くやってほしい。」、「もっと詰めて考えて欲しい、もっとやれるだろう。」と思っていて、一方で部下は「やらなければいけないことがいろいろあるのだから、急かさないで欲しい。」、「これ位やれば十分だろう。」と仕事の強度の捉え方に相互でギャップが生ずることがありませんか?  

フェルミエでも指揮官である僕は、先に書いたように、スタッフの姿勢がぶどうに対する思いやりを欠いている時や、基準に満たない作業レベルの時には厳しくダメ出ししたり、その作業をやり直しさせたりします。そういった経験を重ね、その経験をチームで共有することで成長してきました。

ただ、時に若いスタッフに「いい加減にやるな!」と注意し、「真剣にやってますよ!」と真面目な表情で言い返されることもあります。そうなると、彼らに問題があるのではなくて、教える側の指導や指示の出し方に問題があるということになります。

コーチ(指揮官)がチームのインテンシティを変える
(急に話が変わりますが、)
僕が好きなサッカーの世界で例えるなら、コーチ(=リーダー/指揮官)として一目置く存在はサッカーのJ2 京都監督の曹貴裁(チョウ キジェ)氏です。

湘南の監督時代の彼のサッカーをスタジアムで観た時は衝撃でした。プレー強度のことを表す「インテンシティ」という用語が日本のサッカー界でポピュラーになって久しいのですが、彼のサッカーを一言で言うとまさにインテンシティが並外れて高いのです。湘南時代のサッカーは、プレスのスピードや強度が高く、チームとしての連動の精度も高い。そしてそのプレスからボール奪取するやいなや攻撃への切り替えが早く、ボールは絶対に後ろに下げず直線的に前進してゴールに迫るという意図が高いレベルで徹底されていました。

ロッカールームでも彼は感情を剥き出しにして選手達を鼓舞し、選手同士も納得いかないプレーに対しては例え相手が先輩であってもストレートにダメ出しする。そんな激しさも含めて「湘南スタイル」と言われた彼のサッカーは多くのファンの心を動かしました。

しかし、曹氏はパワハラで退任しJの舞台を去ることになります。それでも、充電期間を経て自らが育った街 京都のクラブから声が掛かり、サッカー専用スタジアムも完成した初年度(2021年)の京都サンガ(J2)の監督を引き受けてJ1昇格に導きました。僕も2021年の京都と新潟の対戦2試合を観戦しましたが、やはり京都のインテンシティの高さ、プレー強度は他チームを圧倒し(そこに最終ラインでボールを保持して組み立てようとする意図や前線でタメを作るという戦術も混ぜ合わされてより進化したスタイルではありましたが、)、コーチングスタッフも含めたチームの一体感を肌で感じました。

さらに驚くことには、パワハラは絶対に許されるべきではありませんし、彼は社会的には一度パワハラの烙印を押されたコーチであるにも関わらず、彼を慕って湘南時代の教え子である松田や中川らがJ1の湘南からカテゴリーが下のJ2の京都に移籍してJ1昇格の原動力となっていました(松田は移籍初年度にいきなり京都のキャプテン)。

これって一体何なんでしょう? どのチームも「プレスは早く、強く、連動して。好守の切り替えは早く!」ということは当たり前に徹底しているはずです。でも、なぜ曹貴裁のチームが飛び抜けて高いインテンシティのサッカーをチーム一体となって体現できるのか? そしてパワハラの後でも彼のもとでサッカーをやりたいと選手やスタッフが集まるのか? 単なるサッカーの見識や指導力にとどまらない"リーダーの資質としての何か"が彼にはあるのでしょう。彼のサッカーに対する熱量の大きさや、常に欧州の最新のスタイルを学ぼうとする姿勢、地域やチーム、選手に対する愛情、…。

成長=熱量×知識×スキルアップ

サッカーのことに話がそれてしまいましたが、要は僕が考える仕事の精度や強度をフェルミエのチームで共有して実践するためには、コーチ(プレーイングマネージャー)である未熟な僕が成長しなければならないということです。

昔から世界中で言い古されている通り、「ワイン造りは農業であり、ワインの出来はぶどうの出来で決まる。」僕も全くその通りだと実感しています。ぶどうを植え、栽培し、そのぶどうから僕が想い描く良いワインを造ることに近道はないと思っています。僕もチームもベースの部分では、ワインに対する愛情と熱量をもって泥臭く高いインテンシティを維持し、単純な作業でも愚直に取り組み続けなければなりません。

その上でワインに対する広く先進的な知識を吸収する努力を怠らず、先端技術の試用や挑戦も厭わず技術面でのスキルアップを図り続ける必要があります。その中から時代が変わってもワイン造りにおいて普遍的なことや、フェルミエのワイン造りにおいて譲れないことにフォーカスして”フェルミエらしいワイン”造りを続けて行きたいと思います。

また、ワインには単なるアルコール飲料を超えた芸術的な側面もあり、造り手の”センス"が現れるものでもあります。先天的な素養によるところも大きいとは思いますが、感度やセンス、遊び心も磨きたいものです。

「日本のファインワイン」を目指して

フェルミエのような小規模なワイナリーは、高給なサラリーでスタッフを遇することは現実的には難しいです。それでも、フェルミエが目指すところの「日本のファインワイン造り」を実践するためには、それに相応しい水準での仕事を個々のスタッフに求め、チーム一体となって継続して進めて行かなければなりません。いかにフェルミエのワイン造りにロイヤリティーをもって彼らスタッフに働いてもらえるか、これまでの彼らの働きに感謝しつつ自問自答する日々です。

ともあれ、僕達が心を込めて造ったフェルミエのワインを是非、飲んでみて下さい!



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