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フードサプライチェーンにおける返品の実態と食品ロス発生による経済分析

今回の環境ビジネスセミナーで私からお話させていただくことは、解決すべき社会的かつ、環境的課題となっております、フードサプライチェーンにおける返品の実態と食品ロス発生による経済分析を行ないたいと思うんですね。

まず始めに、課題の本質を適切にとらえるために課題設定をおこないたいと思います。食品ロスが発生する現場では、消費者も含めて、食品製造業から卸売業、あるいは小売から飲食業や食品サプライチェーンに至るまで、決して意図的に食品ロスを発生させているわけではありません。

これは社会的に適切であるかどうかは別として、相応の経営方針に基づいてやむを得ず廃棄している場合が少なくないわけです。

例えば、量販店の惣菜コーナーであるとかコンビニのレジ周りの食品ではボリュームディスプレイの実施によって、食品ロスが恒常的に発生している実態が明らかになっています。

また、ファストフード店ではオペレーションの「流れ化」を維持するために意図的に在庫を発生させている実態もあるわけです。

一方でフードサプライチェーンの上流で完成品となる加工食品では、期限切れとか特売の残り、又は汚染や破損、あるいは新商品や季節品の棚替えなどによって食品ロスが発生しているという実態があるわけなんですね。

特に在庫型物流センターや小売店頭で発生する過剰在庫というのは、見切り販売を極力減らしながらも、売れ残りをわざわざメーカーなどの上流へ逆に、つまり返品した後に廃棄される点に特徴があるわけなんですね。

このような売れ残りの返品というのは、日本特有の商習慣でございまして、欧米諸国にも似たような返品制度は存在するものの、その対応範囲と程度は全く異なるんですね。

こうした返品性というのは、上流のメーカーが販売リスクを負担することによって、自らにとって適切な店頭における商品展開量を確保するための慣習となっておりまして、その経済的な意義もあるわけなんですね。

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加工食品における返品の慣習というところでは、 生鮮食品や惣菜類と異なって、おいしく食べられる期間として賞味期限が数か月から一年以上と相対的に長く表示されることが多いですよね。

そのために値引き販売されても消費者の反応が鈍いと言われていまして、加工食品業界では1/3ルールという返品慣習に基づく他の商品にはない在庫管理上の特徴があるんですよ。

この1/3のルールでは、製造日から賞味期限までのうち1/3を過ぎた食品は、小売店への出荷が期限切れとなって仮に出荷できたとしても2/3の販売期限を過ぎるとわずかに値引き販売されたり、一部で従業員販売されたりする場合はあるものの、大体は店頭の陳列棚やバックヤードから撤去されて卸売やメーカーへ返品されてしまうわけです。

この設定期限はアメリカの1/2、イギリスの3/4に比べると日本の場合は、国際的には鮮度基準が厳しいと指摘されています。

そこでこのセミナーでは、これらの問題意識を踏まえまして、加工食品を対象とした返品慣習のある食品ロスが、発生するメカニズムを整理しまして、その需要調整機能との関係性を考えてみたいと思います。

その結果として、廃棄されることがわかっていながら食品を過剰に供給する行動そのものを解消して、その最適化を実現するために必要な分析のフレームワークを構築し、それを提供することを目的としたいと考えています。

方法としましては、在庫シュミレーションの結果と各調査データによって把握した実態を比較分析した上で、流通取引における需給調整モデルを構築しています。

これによって、過剰供給を誘発する要因というのは廃棄コストに比べて欠品コストが高い点にあることがわかっています。

しかし、加工食品は比較的保存性が高いのでファストフード店における店内調理ではなく、メーカーで見込み生産された商品を流通させることになるんですね。

その需給調整はより複雑になりまして、小売り段階だけではなくフードサプライチェーンにおける各段階で製品が保管されて、その商品が期限を迎えると廃棄されて食品ロスになるというわけです。

通常は多くの取引先があるので、サプライチェーンと言うよりはネットワークの中で需給調整することが現実的なんですけども、ここでは各段階のフードサプライチェーンが過剰供給している実態が、どのような影響を与えるのかを把握するため、「ビールゲーム」というマサチューセッツ工科大学のスローン経営大学院において1960年代に考案された流通シュミレーションゲームをご紹介します。

フードサプライチェーンの各段階において、1社ずつ存在するシンプルな構造をシュミレーションすることで、過剰在庫の発生過程を確認できます。

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こちらはそもそもビールを流通させて市場の顧客の需要に過不足無く応えるために考案されたんですけども、ビールのサプライチェーンでは小売店舗があって、2次卸、そして1次卸があって、メーカーという4つのプレーヤーでマネジメントされていまして、在庫費用や受注残を最小にすることを目指します。

なお、ターンというのは4つのプレイヤーが一斉に発注する回数のことを言います。例えば、小売から2次卸であったり、メーカーなら製造数量の決定であるとか、発注されてから納品されるまで1ターンのリードタイムになります。

合計50ターンで総費用の最小化を目指すのが、このゲームの目的です。こちらはボードゲームとして市販されているので興味がある方は遊んでみてください。最近では就活におけるインターンシップでも採用されたりしていましてなかなかお勧めなのではないかと思います。

これまではフードサプライチェーンにおいて、お互いの在庫状況を確認できませんでしたが、昨今ではサプライチェーンマネジメントがスマート化されていまして情報の共有化によって、お互いの在庫状況を確認しちゃうことができるようになっています。

この2つの相反するケースについてシュミレーションをすると、相対的にコスト負担が大きい欠品を回避するために、全体的に過剰な在庫を持つ傾向が見られるわけですが、上流に行くほどその傾向は顕著なものとなるわけです。

小売りと製造工場の累積在庫費用の比率というのは、これまでだと100あったとすれば、情報共有をしたケースでは65程度にまで圧縮されるわけなんですね。

フードサプライチェーン全体のトータルコストもそれに伴い削減されますが、上流に行くほど在庫が滞留する構造は変わらない傾向もあるんですね。

スライド3

そこで次にフードサプライチェーンにおける返品による諸問題についてお話したいと思います。一般的なフードサプライチェーンにおいては、小売店舗の段階、在庫型物流センター段階で返品であるとか、メーカー段階で破棄という、食品ロスが発生している訳ですね。

ここで小売とか在庫型物流センターというのは、その多くは小売りチェーンから委託されて特定の小売りチェーンのためだけに運用される専用センターを意味します。

チェーン展開が一般的となった小売業界で1%から3%程度にあたる年間30億に達しているわけです。ただし、各段階別の返品発生量には大きな差異がございまして、流通額全体に占める返品額は小売業から卸売業が0.38%であるのに対して卸売業からメーカーは0.97%と約2.5倍の差があるわけです。

こちらの数字については改めて後で説明します。ここでお伝えしたいのは営業利益率が3%を超えることが難しいとされる食品スーパーでも0.3%の返品率は小さくなくてですね。卸売業の場合は平均的な営業利益率が1%程度とさらに低いので0.97%という返品率は卸売業者にとって非常に大きな経営課題となっているわけなんですね。

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