悪法は市民(議員)が作る_2

前の記事では詐欺罪について書きましたが今回は本命のストーカー規制法について書いていきます。
構成要件(なにをしたらストーカーとして検挙されるか)は内閣府のサイトのものを貼っておきます。
 ストーカー規制法

ストーカー規制法の中身


ストーカー規制法の解説では「どのような行為がつきまとい行為になるのか」ばかりに着目されがちですが、それらの行為が
特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で
行われなければストーカー規制法違反にはなりません。
例えば職場を退職後にカスハラしてきた顧客を復讐目的で付け回す行為は、恋愛感情等に基づくものではないため、ストーカー規制法で処罰することはできません。


目的をどうやって立証するのか

女に振られたら悔しい、でもそれを周りから指摘されるのも悔しい。
そういう感覚の人が「お前の付きまといは恋愛が満たされない恨みであって、女々しい行為だ」と指摘された場合、往々にして恋愛時に気前よく奢ったことを「お金を貸した」「結婚前提だった」「それを返してもらうための純粋な返金請求であって振られた報復ではない」という言い訳をしがちですし、実務上警察もそういう言い訳を突き崩せずに悔しい思いをしたこともあるでしょう。
実際に、ストーカー規制法違反の構成要件の一部が「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」という内心の状態を条件としているわけで、内心を立証せよということ自体が(自白を除くと)かなり無茶な要求だと思います。

そして警察がかかわったストーカー相談が後に刃傷沙汰になった場合「警察はなにをしていたんだ」との批判が起きます。
現実問題として日本の人口1億2千万人に対して警察官の定員が20数万人なのだから、国民500人に一人の警察官しかいないわけで、国民一人に対してずっとボディガードすることはできません。
そんな中でストーカー気質な男が刃傷沙汰を起こすかどうかなんて運でしかない。
警察官も人間だからそんな人間たちの為に批判されたくないし、処分されたくないから「ストーカー行為は疑わしきは容疑者の不利益に」という運用を始めます。
その結果「過去に交際していたり女性に好意を示す行動があったならば、それ以後に行われたつきまとい行為は原則として恋愛感情またはそれが満たされないことによる怨恨感情と推定する」という運用が行われるようになります。

複数の感情は併存する

NR&NSX事件の場合もそうですが、結婚や恋愛関係があるから無担保で金を貸したり大金を譲渡するという甲斐性を男は発揮するわけであって、見ず知らずの他人に同じことをするわけがない。
だから当然、前提となる結婚や恋愛という前提が終わったらその金は焦げ付く前に回収しなければなりません。
そこには、恋愛が満たされなかった悔しさは当然あるでしょうし、条件違反が発生したことによる原状回復欲求もあるでしょう。
両者は併存しても不思議ではありません。
原状回復を要求するためには会う、通信手段を使う等が必要になるわけですが、それを無視されたら繰り返し要求するしかありません。
外形的にはストーカー規制法でいう「つきまとい行為」と同じ行為です。
その時の感情が「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情」が100%でないと違法にならないのか、それが1%でも含まれていたら違法なのか、この辺の議論がなされないまま議員立法でこの法律が成立してしまったこと、その後の運用で被害者保護の失敗や市民からの批判により「1%でも含まれていたら違法」という運用がなされたことで「恋愛を前提とした金銭貸借」は実質的に「回収不能な金銭貸借」になり、ストーカー規制法は「女性が男から金を引き出して、返さずに関係を切る」のに利用できる法律へと成り下がりました。


性善説適用の偏り

市民は法を悪用しないとの性善説で法が作られたり運用されたりすることがありますが、性善説を適用される属性に偏りがあります。
不同意性交やストーカー規制法で法を悪用するのはほぼ女性です。
それは性善説が適用されて女性の言い分が通りやすい。
ストーカー規制法を悪用(研究)して「恋愛感情ではない」と言い張るのは男性です。
この場合は保護失敗や保護失敗を批判するマスゴミや市民を恐れて性悪説が適用され、男性の言い分が通りにくい。
このような運用のもとでは、
 恋愛を前提とした金銭トラブルでは女性がストーカー規制法を悪用する
という法のハッキングが起こるのは自然なことです。


公務員の防衛ライン

恋愛感情に起因した金銭トラブルが警察に持ち込まれたとき、警察官も気づくでしょう。
この女は恋愛をエサに金を引き出したということに。
しかし、公務員の最終防衛ラインは「国賠訴訟で負けないこと」ですから、組織を防衛するために「国賠訴訟のリスクが少ない選択」をします。
ストーカー相談の扱いを誤って刃傷沙汰になれば国賠敗訴確定なのに対し、欺罔・錯誤の証拠がない詐欺を捜査しなかったとしても国賠訴訟で負けることはありません(NSX&NR事件の後、運用が変わるかもしれないが現時点では)。
このこともまた、恋愛系金銭トラブルが男性不利に働く原因であると私は推測しています。



法の話をするならば


法を作るのも人間、運用するのも人間。
神が目隠しをして天秤で裁決しているわけではありません。
これまで説明したような法律ができて運用されている以上、騙されてしまった男には救済がない。
和久井容疑者のおかげで法運用の男女不公平が大きく知れ渡ってしまった以上、泣き寝入りを選択しない男は今後も法に頼らず、自力救済をしていくことになるでしょう。
「だからといって殺人はよくない」「いやいや殺人は違法だろ」といった意見は全く持ってそのとおり。
しかし、法のことを言うならば、恋愛に基づく金銭トラブルがあるというだけで男を拘禁することはできません。
刑法が暴行や殺人を禁じているけれども、禁止の方法論は「実行したら刑法に基づいて処罰する」という形の間接強制にすぎません。
ですから刑罰を受ける覚悟での自力救済もまた法の範囲内ということもできるわけです。
恋愛感情を利用してお金を引き出そうとする方々、それが危険な行為であるという自覚はお持ちください。
覚悟が決まった奴の復讐は法律では防げません。