スキャット3

夜、真っ黒の湖にボートが浮かんでいる。二人の女の子はボートを漕いでこの白い家に訪れたのだろう。

 女の子二人は湖に突き出たベランダ兼玄関で、銀のダイニングテーブルを囲いバロック調の白い椅子に座っている。二人とも薄着で真っ暗な湖の方向を向いている。二人の瞳には銀幕がかかっているようで何を見ているかはわからない。

 空気は湿気ていて少し暑い。二人にとっての気候や湿度は認識にあたらないだろう。時間感覚だって彼女らには今のところ必要のないものである。互いの肌で遊んだり、そこにいたりするだけで、それ以上も以下も無く、完成した二人の空間。
 イギリス人らしい女の子は相変わらず足を組み湖の方向を見て、時々、息を大胆に吸って鼻をならしている。日本人らしい子はテーブルに両腕をぺったりと置き、その上に顔を乗せて、ワイングラスで浮き沈みしたり弾けたりする気泡を見て笑ったり、グラスが虹色に見える角度を探したりしている。

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