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オフレコでお願いします

今日また一人、会社を辞めた。


今の仕事に就いてもうすぐ16年

正式にお別れができた人は実は少なくて
逃げたまま戻って来ない人も沢山いて

もう何人の卒業を見届けて来たんだろう。


この16年間で
沢山の出会いと別れを経験して

仕事が嫌で
会社が嫌で
辞めて行った同僚も

結婚して
子供ができて
辞めて行った同僚も


繋がっていたい、とSNSで申請をくれたり

時には別のチームや
無関係な部署の人までが

わざわざお礼に来てくれたりした。

『お世話になったから、直接伝えたかった』
と言って
まだ誰にも公開していない交際の報告や結婚の予定、妊娠の発覚や、退職の決定を教えてくれた。

私はそれを
頑張って来た証のように感じていたし

自分は間違っていなかったんだな、と思えたし

どん底から這い上がるきっかけになったり
嫌な事も忘れられる位、嬉しかったりした。


今日辞めて行った仲間は
我がチームに配属されてちょうど3ヶ月

美人で聡明な
ほんの少しだけ年上の女性だった。



杜撰な運用や整備しきれていないマニュアル
許せなかった部分も沢山あるだろうし

正直、仕事は彼女の性に合わなかったと思う。


細かいことは省略するとして
彼女の教育はとても大変だった。

とにかく時間がかかる上に
教えている側が精神的に疲弊する明らかに不要な質問攻めに、心が折れそうな時もあった。


それでも彼女が時折見せる無邪気な笑顔と
『仕事が楽しい』という言葉を
私は素直に受け取りすぎていたかもしれない。


彼女とはよく、業後の帰り際に
家族や友達や婚活の話をした。

仕事をうまく回すために
早く打ち解けられるように

まずは仕事を覚えさせるより人としての距離を縮めようとした戦略の一貫でもあったけど

沢山話をしてくれたし
沢山話を聞いてくれた。



少しずつだけど
仲良くなれたと思っていたし
きっと時間はかかっても、上手くいくと思ってた。



彼女の口から直接退職の予定を聞けたのは
出勤最終日の前日だった。

教育係である以上
事前にオフレコとして報告は受けていたものの

本人からの申告があるまでは知らないフリをして欲しい、という指示のもと黙っていたら
そのまま前日になった。


このままでは残作業の片付けもお願いできないし、これ以上知らないテイは続けられないと訴えて初めて

取りまとめ担当者から公に公表され
それに乗っかる形で本人からの報告

其の流れで
チーム員が揃うグループ会話で
文字による退職の報告とお別れの挨拶



彼女が仕事を辞めてしまうことより

また教育失敗記録が更新される事実より


仲良くなれたと思っていた彼女から
正式に直接報告を受けられなかったこと

一斉送信のような形で
すぐそばにいるのに直接声も交わさずに
文字で挨拶を済まされてしまったことが

なんだかとても悲しかった。



時には『したたか』だと言われる程
彼女は明らかな嘘をよくついた。

そして『私は嘘がつけない』と
本当に嘘をつかない人が絶対言わないようなことを何度も言った。


もう何が嘘でも本当でもいいんだけど

来週から彼女は会社に来ないし
手こずり過ぎた教育ももう終わり。


穏やかな生活が戻ってくるだけなのに


何だろうこの腑抜けみたいな気持ち。



楽しかったんだと思う、多分。


何人もの仲間が彼女を見放していることや
信頼関係が崩れていることには
気付いてはいたけど

時間をかければどうにかなるんじゃないかと
どこかで思ってたし

彼女もきっと
時間をかけて向き合ってくれるはずだと
信じたかっただけかもしれない。



この件だけに限らず
会社は『オフレコ』な話をよく私にする。

オフレコとは、何なの?


言っちゃいけない事を
何故みんな私に言ってくるわけ?


『オフレコ』という言葉を使う事で
会社や上司は信用性をジャッジしているんじゃないかという錯覚にも陥る。


私は私で
秘密なら私にも言うなよ、とか思いながらも
馬鹿みたいにそれを守り通すモンだから

可愛いよね。



オフレコだった新人の卒業は
ギリギリ前日に止むを得ず公開されて

しんみりする暇もなく
アッサリといつもの帰り道みたいに
彼女は帰って行った。


『またLINEしますね!』って
無邪気な笑顔で手を振って去っていく彼女の後ろ姿を見送りながら



絶対にLINEは来ない。

と 思った 春の夕暮れ。



いつの間にか葉っぱに変わった桜も
舞い落ちて地面に張り付いた花びらも

あっという間に終わってしまう春と
また必ずやってくる春を感じさせてくれて

ほんの少しだけ、安心した。



私は変わらずに
そばに居てくれる人を大事にすれば良いし

思いやりを持って人と接すればいい。



がんばります。

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