【小説】龍と鳳凰 第7頁

右手はポケットから出さない。

俺は帝都の都心に向かう電車に揺られて高校へ向かっていた。扉の前で吊革に掴まりながら、右へと再生される窓の景色を眺める。

結局大した妙案も浮かばず、突然増えた5本目の指のことはひとまず棚上げして隠し通すことに決めた。本当なら手袋のひとつでもしたいところだが、余計に悪目立ちしてしまう。そんなことをして、学校でコスプレ野郎だと馬鹿にされるだけならまだいいが、そこから指のことが露見する可能性もある。

そもそも他人の指の本数を注意深く観察している人間など、そういるものではない。不自然ではない程度に、右手がまじまじと見られるような状況を回避することは、そこまで無理のあることではないと思った。

ポケットに手を突っ込んでいればまずバレない。それが失礼にあたるような状況でも、手を握りこむことや、両腕を背中に回すことが許されない、ということはないだろう。

気をつけなければいけないのはペンでものを書いているときや、携帯端末を操作するときか。ペンを使うときに関しては、親指と人差し指、中指だけでペンを持ち、小指ともう一本は握りこんでいればそこまで目立たない。しかし端末を使うときは、最も危険かもしれない。無意識的に、何も考えずに端末を持ち上げて、指を見せてしまうかもしれない。解決策が何も浮かばないうちは、左手で端末を使うように心掛けなければならないだろう。まあ俺の学校は、放課後まで敷地内で携帯端末を使うことがそもそも禁止されているから、そこまで気を張らなくてもいいとは思うが。

自分の対応が能天気なのかどうかに少し悩みながらも、鉄の箱はレールの上で俺を運ぶ。さすがに気にしすぎということはないだろう。少なくとも、文字通りに大手を振って街の中を歩く勇気はない。

ふいに暗くなったと思えば、窓の左側に見える太陽が、輪郭ではっきりと青空を切り取っている灰色の雲に吸い込まれたところだった。

あとがき

工業大学の学生は。小説家でもあるのだ。俺のことね。

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