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『Collar×Malice』/誰しも見えない首輪をつけている。

連続凶悪事件――通称【X-Day事件】が起き、
危険な街となってしまった新宿で、警察官として働く主人公。

地域の安全のために日々奔走していた彼女は、
ある夜、何者かに襲われ、
毒が内蔵された首輪をはめられてしまう。

混乱する主人公の目の前に現れたのは、素性の怪しい男性たち。
元警察組織に所属していた彼らは、独自で凶悪事件を捜査しているのだという。

彼らを信用していいのかわからないまま、
突如、大事件の鍵を握る存在となってしまった主人公。

死と隣り合わせの首輪を外すため、
悪意に包まれた新宿を解放するため、
彼らと共に捜査を開始することになるが――。

彼女の命は誰が握っているのか。
そして、新宿が再生される日は来るのか――。

(*公式サイトより)


 そういうことで、今回記事に起こすのはオトメイトから発売されている『Collar×Malice』です。わたしがプレイしたものはSwitchへの移植作に当たる『Collar×Malice for Nintendo Switch』なので厳密に言えば異なるのですが、とりあえず今回は記録として残す都合上本編の感想を綴って行こうと思います。

 個別のキャラクターシナリオに踏み込む前に前提として、わたしは所謂乙女ゲーム出戻り組でちょうど『カラマリ』のタイトルが発表された時期に乙女ゲームから離れ、昨年末に乙女ゲームジャンルに戻ってきた経緯があります。なので今回プレイした『カラマリ』をはじめとした『ピオフィ』、『ニルアド』などなどのタイトルはわたしが乙女ゲームを離れていた時分に出た大型タイトルのイメージがあったので、実は今回『カラマリ』をプレイするのを相当楽しみにしていました。

 というわけで上記は完全にゲーム本編に関係のない前情報なのですが、次からゲームの内容に触れていきたいと思います。ネタバレ込みの感想になるので、プレイ後に目を通すことをオススメします。

柳 愛時(CV:森田成一)

「誰かの犠牲の上に成り立っている人生なら、ずっと贖罪のために生きるべきだと思っていた」


 1タイトルに必ずひとりはいる属性、ありますよね。そのままズバリ、運命枠なんですが『カラマリ』ではまず間違いなく彼、愛時さんが運命枠ですよね。はじめは愛時さんのことをデフォ惚れ枠かと思っていたのでそこは若干予想とは異なる部分だったものの、愛時さんルートが解放された時の演出や(四人攻略した瞬間に演出がはじまるので意表を突かれ驚くと共に先程まで攻略していた彼の印象が若干薄くなってしまう気もしつつ……)シナリオの純粋なボリューム感、これでもとばかりに贔屓(いい意味です)されておりメインヒーローの貫禄を感じました。

 特に愛時さんのルートが『カラマリ』の中でも特別なルートだったと感じる点はやはり最終的にアドニスの代表(あるいは教祖)であるゼロと直接対決を行う点なんですが、序盤でなんとなく最終的に立ちはだかってくるのは彼なんだろうなという気持ちを抱いた上でプレイしていてもいろいろと深いところに刺さるところだったと個人的には思います。

 アドニスという組織が純粋に暴力を目的としていた組織なのであればそこまで深いところには刺さらなかった(それこそわたし個人にも、市香ちゃんと愛時さんにも)と思うのですが、アドニスという組織があくまでも宗教組織であること、そしてゼロ自身が世界から悪をなくす、そのためであれば最終的に己は死ぬべきだという思想を真剣に抱いているところも相俟って最後に固定する意味が強いシナリオだったと感じることができました。

 これ以上話してしまうと、最下部にて語ることがなくなってしまいそうなので、さらに愛時さんルートに踏み込んだ話は以下で綴ろうかと思います。



岡崎 契(CV:梶裕貴)

「なにを犠牲にしても……キミが本当に願うことのために諦めないで。立ち向かって」

「そんなキミだから、オレは選んだんだ。……約束、してくれる?」


 プレイ前に恐らく攻略キャラクターの中だと彼を一番好きになるんだろうな、と思っていたのが岡崎くんでした。これはわたしと乙女ゲームに出てくる男性キャラ(乙女ゲーム以外のジャンルでもそうかもですが)の因縁に近いものになるのですが、色が薄いキャラクターを好きになりやすいという法則があるための事前予想でした。

 結果、案の定攻略キャラクターの中で一番好きになったのが彼でした。もともと自罰的な生き方を選ぶキャラクターを好きになりやすい人間なので全体的に『カラマリ』の攻略キャラクターたちのバックグラウンドはかなり好きになりやすい要素が多かった中で一番好きだな、と思った理由は彼が自罰的でありつつ、自分の生き方とその意味を第一に据えているところなのかな、とプレイ後に感じました。

 『カラマリ』の攻略キャラクターたちにはそれぞれ背負っている過去があり、後悔しつつ、けれど前進する姿を終始見せてくれたなと思っているのですがその中でも岡崎くんの前進はあまりにも破滅的すぎて、その後に残される人間の気持ちになって考えるとあまりにも薄情すぎる、とも思ってしまう、そんなところが好きになりました。

 その感情は一体どんな名前でラベリングするべきなのか、という点を延々思考実験できる人間としては岡崎くんの中にある感情をどう取り扱うべきなのか迷うところもあったりして(彼、中盤で一度ヒロインである市香ちゃんに対して失望にも近い感情を抱いているんですよね)非常に面白くプレイできました。個人的にも『カラマリ』の中で一番先に攻略したこともあり、その後のシナリオにもグッと引き込まれるアクセル的な役割を担ってくれました。

 彼の「なんで、死ねないんだろ」を聞いてからの熱の入りよう、乙女ゲーム復帰戦に相応しい名演でした。

榎本 峰雄(CV:斉藤壮馬)

「はあ~……星野マジ可愛い。ホントに可愛い。超天使」


 乙女ゲームをプレイしていると経験則としてキャラクターの属性割り振りがなんとなく分かってしまうと思うんですが。峰雄くんのことは絶対にムードメーカー系賑やかしなんだろうな……と今思えば非常に失礼な印象を抱きながらプレイしたんですが、いい意味で裏切られました。

 これまであらゆるジャンルで人間と人間の確執、善意が生んだ悲劇を観測して騒いできた人間なので峰雄くんの背負う過去にはめちゃくちゃ興奮させられました。惜しむらくは先輩が死んでしまっているところなのですが(死んでしまっていないと話がはじまらないので仕方ない)、自分が心の底から尊敬し慕っていた先輩、さらには先輩に少なからず可愛がられてきたという自負がある上でのシナリオの流れ、趣味がいいにも程がありませんか? 物凄く好きな流れでした……。

 自分が慕っていた人間を追い詰めていたという事実、心臓を握り潰されるような気持ちになるんだろうなと考えると堪らない気持ちにさせられますね。また後述しますが、峰雄くんルートは峰雄くん自身ももちろん魅力的なキャラクターなのですが、わたしの心に深く傷を残した「彼」の動向もすべてを知った状態で見ると……なシーンもあり、よかったです。



笹塚 尊(CV:浪川大輔)

「……俺を引き戻したのは、この手だ。それだけで十分、価値はある」


 もともと家族の話が好きで乙女ゲームをしているところがあるので、親の話がはじまったと感じた瞬間テンションが急上昇しました(その後そこまで大々的な親の話ではないことを悟りましたが)。 

 彼は『カラマリ』メンバーの中でもある種特殊な立ち位置で、他のメンバーが全滅しているエンディングでも(恐らく)ひとり生き残っているようなものもあることからわかるように、後方支援メンバーです。チームのブレーン的な立ち位置なので現場に出て大立ち回り、のような見せ場は他のキャラクターと比較してしまうと見劣りするものも確かにあるんですが、その彼がどこで魅せるかと言うと、やはりアドニス側に与することを最後の最後まで迷い続けるところかな、と思いました。

 他のキャラクターたちは明確にアドニスとの確執があるなど、アドニスとの対立項で語ることのできる項目が多く存在したのですがこと彼に至っては彼自身も口にしている通り、銃刀法の有無が最も重要という立ち位置なので異なる視点から事件を俯瞰することができました。彼自身が銃刀法を強く支持するようになった出来事は言うまでもなく母親が射殺される事件だったわけですが、ここで母親の敵討ちをする術を与えるのはアドニスしかいない、という引っ張り方が絶妙によかったな、と思いました。

 わたし自身は笹塚くんは三人目に攻略したキャラクターに当たるのですが、これまで攻略したふたり(岡崎くんと峰雄くんです)は明確にアドニスとの確執があるふたりだっただけに、これまでの視点とは異なるかたちで物語を楽しむことができました。

 アドニスの手を取ってしまうエンディングも、確かにそうしたい気持ちも絶対にあるよなあ……と理解することができるだけになんとも言えず味わい深かったです。個人的には悲恋エンド(という位置付けでいいんでしょうか)のその後についてもいろいろと考えさせられました。


白石 景之(CV:木村良平)

「……どうしてこんなにイライラするんだろう。気持ち悪い。わけがわからない」

「こんなに苦しいのは初めてだ。やっぱり俺……壊れちゃったのかな」


 これまで人形として、機関の命に従っていただけの男がはじめての感情に悩み苦しむ展開、どう考えても好きに決まっているので大正解です。ものっすごい好きなシナリオでした。こどものように純真無垢に市香ちゃんとの日々を楽しんでしまう反面、時々こどもの試し行為のような真似を大の大人がしてしまう話、これまでも散々通って来たので(心の故郷が『DIABOLIK LOVERS』なので)知っている文法だ! と心の中でひとり大騒ぎをしたくさんスクリーンショットを残しました……。

 特に白石さんのルートで好きだったシーンは市香ちゃんが白石さんのネクタイを掴みながら激昂するシーンなんですけど、あんまりにも強いお顔をしているので物凄く楽しかったです。その中でぽつりとそんな顔できたんですね、と溢すところ含めて『カラマリ』きっての名シーンだったんじゃないかな……と振り返りつつ考える次第です。

 これまで、比較的お行儀のいいヒロインだった市香ちゃんの質量が一気に増すようなシーンが多かった白石さんルートは攻略キャラクターたちの中で唯一アドニス側の人間であることもあり、スチルありの悲恋エンドを筆頭にダークなエンディングも多く楽しめました。

 攻略した順番の都合上、終わりを見届けたと思ったら満を持してメインヒーローである愛時さんルート解放の演出がはじまりちょっと驚いたのは完全に蛇足なのですが、驚きすぎてツイッターにも綴っていた覚え書きがてら記録しておきます。



冴木 弓弦(CV:小野友樹)

「お前は、ためらわず悪意を殺せる。善良な心のまま――正しいままで」


 最終的に誰の思想が記憶に残ったかと聞かれると、やはり彼だな……と思うのが冴木弓弦でした。あまりにも予想しやすい答えなので、わたしの趣味趣向を知っている人間はまさにぐうの音も出ない状態だと予想はできるのですが、それを差し引いても主張したいくらいに、彼の存在をプレイ後幾度も振り返りました。

 元々自分のルートではないルートに進んだ世界にいる彼、という存在が好きで、例を挙げるのであれば『AMNESIA』のトーマさんを推していた人間なのですべてのルートにおいて「自分のルートではない」をしている彼を好きにならないわけがなかった。

 正直、彼の中にある感情がシンプルに星野市香というひとりの新米警察官に向ける期待(守るために悪人を撃つという警察学校時代からの信念を貫き通すことが果たしてできるのか)だけなのか、そうではないのか(恋愛感情を含むのか)までは今のわたしには答えを出すことはできないのですが、それでも、一欠片でも冴木弓弦の中にゼロとして、いずれ自分を殺すべき存在への期待だけではないなにかが紛れ込んでいればいいな、と思わず願ってしまいそうになります。

 上記のような先入観があるからこそ、未だに冴木弓弦というひとが抱いた感情に名前をつけたくないと願ってしまうのかもしれませんが、わたしが故意に生み出しているのかもしれない(冴木弓弦に傷つけられなかったひとはすでに冴木弓弦が何者であったかわかっているのかもしれないので)この余白に様々な意味を今後見い出して行こうかと思います。

 まあ、この後FDである『Unlimited』を控えているので、あっさりとその答えは与えられそうな気がするのですが……。ともかく、『アンリミ』には未だ「冴木弓弦」として星野市香のそばにある彼を楽しむことができればいいなと思います。

 よき乙女ゲーム復帰作でした!

※「Collar×Malice」のバナーに使用されている画像の著作権は、アイディアファクトリー株式会社およびデザインファクトリー株式会社に帰属します。

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