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いわき駅前公園化計画 最終日

 6月16日日曜日。先週は「三町目ジャンボリー」と「ほこみちスピンオフ企画」などのイベントがあったが、今日のいわき駅前は特にイベントもなく、ただ「いわき駅前公園化計画」と称した社会実験で設営した人工芝や「アジト」と呼ばれている木製パレットで作ったのあそび場、テーブル、パラソル、ハンモックなどが大通りの一部に設置されているだけの日曜日。

 「いいですねぇ。ずっと見てられる…」カウンターの中から外を見てスタッフの一人がつぶやいた。今回FARO前の歩道には、人工芝の上にハンモックが2台設置してある。ケヤキの木漏れ陽がさすハンモックには、さっきから小さい子供が2人でケラケラ笑いながら遊んでいて、隣のパラソルの下にはご両親らしい二人がその姿を眺めて微笑んでいる。
 平日の夕方は、学生さんのグループが入れ代わり立ち代わりゆらゆらとハンモックを楽しんでいく。
 店内に声までは届かないが、みんな笑顔で、笑い声が聞こえてくるようだ。そんななんてことない幸せな風景があるだけで、店内のお客さんも、自然と笑顔になって「癒されるわ~」なんて言葉も聞こえる。店の前にハンモックを置いただけなのに、こんなに楽しい気持ちになるのかと改めて驚いた。もう社会実験が終っても、自前でハンモックを設置しようかと思うほどだ。

 でも、本当はごくごく普通の風景だと思う。その風景をずっと失って来てしまったと感じている。広い道路で分断されて、車優先のまちづくりの中で、境界線がはっきりと仕切られていく中で。当たり前の、でも豊かな営み、時間の共有、文化的な体験や交流、様々な人たちの居場所となる隙間の多い街。それらをゆっくりと取り戻す営み、それが「ほこみち」で出来ることなんだと思っている。今回社会実験が2回目だからか、メディアにも少し取り上げられて、目にした人たちから「ほこみち賑わってる?」って聞かれたりもするが、ちょっと違うのだ。
 駅前はマンションも多いし、周辺地域も入れるとたくさんの人が暮らしている。街なかの徒歩圏内に住む人たちが、今、休日にどこへ行ってどう過ごしているのか。平日も車を運転して出社して仕事して、休日も車を運転して何処か混雑している場所に行き、はぁ~疲れた、明日月曜日かぁ…となっている人も少なくないのではないかしら。もし街なかに公園のように過ごせる場所があって、居場所がたくさんあれば、「よし、今日は車なしでブラブラしよう」と散歩して、ほこみちエリアで子供が遊び、大人は近くの店でビールとかコーヒーとか買って、パラソルの下でのんびりおしゃべりや読書。そんな過ごし方も出来るのではないかしら。
 そんな風に、まずこの街に住む人たちが、街にたくさんの居場所が出来て、子供たちと思い出がたくさん出来て、多様な人々と出会って、街で豊かな暮らしが出来るようになって。そんな居心地のいい街になれば、自然と外からも人が遊びに来るようになって「結果として賑わっている」ようになったらいいと思っている。街で遊んだ子供たちは、大人になっても街と関わり続けてくれるだろう。生まれた子供を連れてお客さんとして帰って来てくれるかもしれない。私のように地元が嫌で東京に行ったのに、結局思い出のある自分の街に戻って来てしまって、街の新しい担い手になってくれるかも知れない。だから10年後、20年後の為に今、始めている。そんな感じ。

 昨年に続いて2回目になるこの社会実験「いわき駅前公園化計画」。「ほこみち」という、パブリックスペースとして道路を柔軟に使いやすく出来る特定区域指定を受けるための社会実験だ。今年は6月に1週間ちょっとだけやって、秋~冬に長い期間実施の予定だ。

 中心市街地で何かやろうとすると、どうしても「駅前の賑わい創出」という使命を帯びてしまうのだけれど「ほこみち」は少し違うと思っている。だからこそ必要だと思ったし、やりたいと思った。

 2015年6月。FAROが属する平三町目商店会の中に「青年部」が出来て、お金はないけど、身軽にやれるメンバーで始めた「三町目ジャンボリー」。休日お休みしてシャッターを下ろしているお店の前をお借りして、歩道にテントをはって、たった2店舗で始めた小さな小さなマルシェイベント。最終的な目標は、自分たちが子供の頃楽しかった街の思い出「歩行者天国」。公園などの広いスペースに比べて圧倒的に使いにくく、道路使用許可申請でお金もかかる歩道の開催にこだわって、面白い個性的な出店者さんたちにお声がけして、子供たちが街なかで遊ぶ「クエスト」を企画して、傍から見た人に「そんなにお客さんも呼べないのに何でやってんの?」と言われても、来る人たちがどんどんのんびりと滞在するようになって、出店者さんたちが「三町目ジャンボリー」にしかない出会いや交流が貴重だと喜んでくれて、販売だけじゃない「やりたいこと」を持ち寄ってくれる人たちが増えて、子供たちがクエストの金貨を持って毎回来てくれるようになって、地元の大学の学生さんたちがお手伝いに来てくれるようになって、気が付いたら2019年11月「歩行者天国」に。

 最初のジャンボリーの告知に書いた言葉「みんなで作る月一ジャンボリー。楽しく大きくなります様に。」丁寧に運営するために、月一じゃなくしちゃったけど、ほんとうにみんなで作って来れたし、楽しく大きくなったなぁって、先週のジャンボリーの時にしみじみと思った。明らかに旅費の方が高いのに、雰囲気が好きだからと遠方から出店して下さる方々も増え、撤収の最中まで笑い声が絶えない。

 ここは「三町目ジャンボリー」をやってこれた街だから、今回の「ほこみち」に向けた「いわき駅前公園化計画」がスムーズに出来たんだと思う。今回の社会実験なんて、本当にお金を掛けずに持ち寄りでやってる。でもそこにはたくさんの人の思いと、応援と、支えがある。

 大通りの歩道の活用は「ほこみち」の指定を受けてからが本番なのだ。ゆっくりと、みんなで、この街にあった「居場所」を少しずつ作っていけたらと思う。そして、歩道が当たり前にみんなの場所になったら、次はやりたいことが表現できる場所になったらいいなと思う。集まってボードゲームやったり、地元の吹奏楽部員が数人でアンサンブルを披露してくれる日があったり、生け花やアートがあったり、みんなでスケッチ大会したり。そして、たま~にジャンボリーみたいなイベントやビアガーデンみたいなイベントとかやれたら最高。街なかの飲食店から好きなお料理テイクアウトで持ち寄って、フードコートみたいになったりしても楽しいかも。

 妄想は尽きない。人工芝を敷くだけでも、ハンモックを置くだけでも、未来はきっと変わる。「ほこみち」が当たり前にみんなで作る場所になったら、街はまだまだ面白くなりそう。

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