地獄の病棟実習 『おみまいするぞー』

薬剤師養成課程の実務実習において病棟実習というものがあるのだが、これがなんとも憂鬱だった。誰かにとって少しでも役に立つ実習ならばまだいい。しかし、資格を持たない学生には何も実行することができないので、悪い言い方をすれば、現に病気や怪我で苦しんでいる患者さんを巻き込んで ごっこ遊び をしているようなものである。それも、普通は働いたり大学院で研究をしていたりするはずの、いい年をした大人がだ。だいたい、その実習を終えたところで国試を受けられるかすらわからないのである。
患者にしてみれば、目をつけられたが最後、何ができるわけでもない素人が頻繁にやってきて身体のことを根掘り葉掘り訊いてくるのだから、さぞかし鬱陶しいだろう。現職の医療従事者にとっても、そんなのにうろちょろされたら邪魔ではなかろうか。
一方で、同時期の他の実習生たちは、さぞ高尚なことをやっているかのように胸を張って振舞うので参ってしまった。
私はその境遇に耐えられず、階段を無駄に上ったり下りたりしてみたものだが、大変虚しかった。ある程度は捏造したSOAP(知らなくていい)で実習レポートを書いて凌げたが、全く訪問しなければそれも難しい。

重い足取りで病室へ向かっていると、ふと思った。
「あれ?これって入院患者の “お見舞い” なのでは?」
その瞬間、水曜どうでしょうの名物キャラ『シェフ大泉』が連想され、おなじみのBGM(中華一番のサントラらしい)が脳内再生された。
自然と笑いが込み上げた。

そうか。私はシェフなんだ。
これから入院患者を次々にお見舞いしてやるんだ。

おみまいするぞー
打ち抜くぞ

そう唱えると心が軽くなった。
お見舞いなのだから、なんとなく体調を聞いて、あとは相手が話したいことだけを喋る。当然、医療の邪魔をしないよう気を配りながら。あとは「お大事に」と伝えて帰る。
それでよかったのだ。

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