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暴れん坊将軍の任命責任

『(時代劇の)「遠山の金さん」とはいったい何者か。裁判官と、検察官と、警察官と、証人とを兼ねた、現代刑事司法ではとうてい許されないものである。』(注1)

 時代劇にはもっとすごい人がいます。遠山の金さんは町奉行でしかありませんが、「暴れん坊将軍」は将軍様だけあって極悪人とその郎党の処刑まで一人でほぼ執り行います。
 ここで問題になるのはそんな極悪人を勘定奉行や寺社奉行に任命しなければそもそもこんなことにならなかったのにだれの責任を問うべきか、ということです。だいたい庭先に堂々と現れた人物が将軍と気づけないのは、今なら財務大臣が首相の顔を一目ではわからないようなもので、たぶん政務で忙しいはずの将軍様が毎日江戸の街をプラプラ歩いているので顔を忘れられたのでしょう。
 天下の副将軍「水戸黄門」は日本全国各地行く先々で代官や領主の不正を目の当たりにしてもこんな不正が横行する幕藩体制の統治システムに何か致命的な欠陥があるのでは、という思いに至りません。暴れん坊将軍も幕閣が不正の限りを尽くす統治システムや自身の任命能力に致命的な欠陥があるのではという思いに至りません。天下の副将軍は老体に鞭打って杖を振り上げモグラたたきのように各地の極悪人に掣肘を加えるだけですが、暴れん坊将軍様ともなるとさすがに権力の頂点はスケールが違います。現代のように不祥事を起こした政府高官を更迭するのではなく郎党もろとも粛清して任命責任問題の幕引きを図ります。

 さて我らが宰相岸田は不祥事を起こした法務副大臣と文部科学政務官、財務副大臣を任命したことの責任が問われてしかるべきですが、宰相いわく
「経済対策、先送りできない課題一つ一つに一意専心、取り組んでいく。それ以外のことは考えていない」
とのことで、どうやら自分の任命責任については考えていないようです。
 「一意専心」とは一つのことに心を集中することでいい言葉ではありますが、時間配分のできない受験生のように解くのが難しい課題にとらわれすぎて他が疎かになってないでしょうか。 
 経済対策はもちろん重要ですけどそれに取り組むとその間、他のことがどうでもよくなるのでしょうか。そもそも「先送りできない課題」に介護離職問題とか少子化対策とか子育て支援とか入っていますか。せめて頭の片隅には置いてください。経済対策以外を任せている議員が不祥事を起こしまくっている原因を「考えていない」のはヤバイです。

注1 憲法問題入門 長尾龍一 p161

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