見出し画像

来週、トラス英首相の退任はあるか?

クワーテング前財務相が事実上の更迭

 国際通貨基金(IMF)会合に出席していたクワーテング前財務相は14日、急遽予定を繰り上げ英国にとんぼ返りした。空港に到着するとメディアがクワーテング氏の車に張り付き、首相官邸までの道のりをライブでリポートした。間もなくすると、同氏がトラス首相からの辞任要請を受け入れるとツイッターで発表。
 同日の午後にはトラス首相が8分ほどの短い会見で、クワーテング氏の辞任と後任が前外相のハント氏になることを公表し、同時に前政権が打ち出した法人税値上げを凍結するという現政権の大幅減税政策の一部を撤回した。トラス氏は、会見の終わりに4人の記者からの質問にだけ答えた後、そそくさとその場を立ち去り、その態度から同氏を酷評する報道が相次いだ。

ハント新財務相はトラス首相を救えるか?

 大きな政策転換を強いられることになったトラス首相であるが、政権運営継続に向けた危ない綱渡りは続く。新しく財務相に就任したハント氏は、すでにクワーテング前財務相が発表した大幅減税案について改め、一部は増税する必要があるとメディアに語った。
 ある報道によると、トラス氏は財源見通しのない大幅減税という大盤振る舞いをした前財務相に対し、閣僚経験のある実力派のハント新財務相を起用することで、大幅減税案から増税路線へ方向転換するという市場へのメッセージを示したとされる。ただ、市場はこれら政策のUターンについてすでに冷ややかな見方が広がっているとして、今後も市場はボラティリティーが続く可能性は残されている。
 なにより、トラス政権の目玉政策である大幅減税が遂行されないなら、同政権の存在意義自体を疑問視するのも当然であり、トラス首相より実力のあるハント氏が代わりにこのかじ取りに成功すれば、政権は同氏に乗っ取られトラス氏は保守党内部からの圧力で退任に追い込まれるだろうと言われている。

世論調査では退任直前のジョンソン前首相を下回る不人気さ

 世論調査大手ユーガブによると、10月1~2日に行われた結果では、トラス首相を支持すると答えた人はわずか14%で、前回の9月21~22日の世論調査の26%を大きく下回ったと言う。ユーガブでは、さらにジョンソン首相が退任を表明する前の世論調査の結果よりトラス首相の方が悪い結果だったと紹介している。
 一方、最大野党である労働党党首のスターマー氏についての世論調査によると、2021年初頭に比べ有能だと答えた人が最も多かったという。現に、9月28日に行われた労働党大会でのスターマー党首の演説は、ここ最近で最も評判が良かったとされ、政権交代に向け一歩前進したとの評価も高い。
 この勢いで、解散総選挙が行われば政権奪還も可能かもしれないが、もちろん与党保守党は、次期総選挙が行われる2024年5月まで選挙の前倒しを何としてでも阻止する方向だが、世論によっては、保守党は早い段階でトラス首相を退陣させ新しい首相での立て直しに図るとも見られている。

トラス政権の存続のカギは市場の安定

 クワーテング前財務相によるミニ予算と言われる大幅減税案の改正案はハント新財務相により中期予算として10月31日に発表される。クワーテング前財務相が、市場の混乱を避ける狙いで当初の予定であった11月23日から前倒されたと伝わっている。 
 欧州は、ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格の上昇が続き高インフレへの懸念が高まっている。そんな中、英国は財源の不透明な大幅減税案を掲げ、9月26日の対ドルのポンドは過去最安値となり、英年金基金は資金繰りのため英国債を大量売却するなどしたため、英国債は大幅下落した。
 これは、英中銀が11月3日に政策金利の発表を控え、物価上昇を抑えるため金利引き上げを行うと予想されているため、英年金基金は金利引き上げ前に資産である英国債を投げ売りしたのである。そのため、英中銀は市場を安定させるため英国債を最大650億ポンドを買い入れると発表した。

予算案発表に向けた今後の展開

トラス首相の初めてとなる予算案だが、議会で審議され、通常であれば議会の過半数を持つ与党保守党党員が賛成票を投じることになるため、予算案の審議後修正を経て、最終的には承認される運びとなる。もし、予算案が承認されない場合は新政府が必要になる場合もあり、首相の進退は保守党に委ねられる。

最後に

 トラス首相の大幅減税案により、市場はポンド安、株安、国債下落という三重苦に見舞われた。予算案発表までトラス政権が持ちこたえるという保証は全く見えてこないが、女性3人目となる英首相が誕生した2日後の9月8日、73年という長期間君臨したエリザベス女王が死去し、波乱の幕開けとなった同首相は、当初は鉄の女と言われた女性初のサッチャー前首相の再来とも目されていた。
 最大野党の労働党がそろそろ熟し始め、政権奪回の準備を進めている中、鉄の女の再来は生き残りをかけ予算案発表までの数週間で挽回を図ろうとするであろう。しかし、第二次世界大戦後以来最も難しいとされる数々の国難は、トラス氏には荷が重かったと言わざるを得ない。英国を第二次世界大戦への勝利に導いたチャーチル前首相級のリーダーが必要だったのかもしれない。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?